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野沢正光氏

【野沢正光氏による私塾】ポストコロナ社会における新しい郊外論 第1回:園路によるコミュニティのつくりかた

2021.04.02

Updated by Masamitsu Nozawa on April 2, 2021, 16:07 pm JST

新しいコミュニティや地域のありかた、そして郊外が持つ力を捉え直すオンライン私塾がスタートします。講師は建築家の野沢正光氏。設計を手掛けたソーラータウン府中は、2020年にグッドデザイン賞金賞を受賞しました。

私塾は6カ月間連続で開催され、塾生は月1回のウェビナーとオンライン交流会に参加が可能です(第1回目はウェビナーのみ)。タイトルは「ポストコロナ社会における新しい郊外論」。多様なゲストを招き、地元の工務店の人たちと作る古くて新しいコミュニティとしての郊外について考えを深めていきます。

第1回のテーマは「園路によるコミュニティのつくりかた」。オリエンテーションをかねつつ野沢正光氏がソーラータウン府中の話をモデルにして講義を展開する予定です。

イントロダクション:人々が豊かに暮らす場所として「郊外」は再編できるか

コロナ禍という言葉が使われるようになって1年が過ぎた。マスクをつけることが当たり前の生活はまだしばらく続きそうである。この1年で人の暮らしは大きく変わった。人と人との接触を減らすためテレワーク化が進み、郊外に移り住む人が増え、あらためて郊外が注目されるようになっている。

私自身は東京の西に位置する国分寺で育ち、現在は神奈川の相模原に住んでいる。今となっては国分寺のさらに周縁部まで郊外と呼ばれるエリアが拡がるが、戦後郊外が開発されスプロール*1していく姿をこの目で見てきた。空き家が増え続け人口が減っていく現在でもなお、小割にした土地にディベロッパーやパワービルダー、ハウスメーカーが庭の無い小さな家を建て続けている。郊外の家と言えば庭があることが前提であったが、家の周囲に砂利が敷かれた50センチの隙間がやっとあるだけの住宅地が量産される。元々、田園や里山で豊かであった郊外の風景がなくなり、見るに堪えない風景に変わっていってしまう。なんとかして、郊外を人々が豊かに暮らす場所として再編していくことはできないだろうか。そのような思いが、このセミナーの出発点にはある。

コロナ移住は住居の広さだけを求めた結果ではない

郊外について論じるといっても、その内容は多岐にわたる。都市計画や各種法令、景観、コミュニティ、まちづくり、働き方、多文化共生、地域の歴史や文化、ローンや相続に関するお金のこと、インフラ、エネルギーなど、どれも重要なテーマだ。そして、それぞれに専門家がいる。やはり郊外について論じるには、領域を横断し多様な視点を持つという姿勢が求められるのだろう。

コロナ禍で郊外に生活の拠点を移そうと考える人が増えた背景には、日々の生活の豊かさや持続可能な生活に対する関心の高まりがあるのではないだろうか。多くの人が気付いているように、それは企業が利潤を追求し消費をひたすら繰り返していく資本主義社会の先に手に入れられるものではないだろう。私は、郊外において「経営」という視点が重要であるという仮説を持っている。お金を稼ぐことを第一に考える経営ではなく、生活者や生活者を支える企業や組織が継続可能な営みに参加していくという姿勢である。そして、そこには建設業界でいえば、たとえ経済規模は大きくないとしても工務店のような地域に寄り添う存在が欠かせないと考えている。

このセミナーは、郊外で暮らしている方、これから暮らそうと考えている方、郊外で地域に根差したビジネスをしている方、そして工務店のような今後の郊外の生活を支えていくような仕事に携わっている方に是非聞いていただきたい。私の専門をあえて挙げれば、それは建築の設計、もう少し広くとらえると建設業界ということになるが、もちろん専門を異にする方も特に専門分野がないという方も大歓迎である。

コモンは各々の負担によって成り立つ

第1回目は、「ポストコロナ社会における新しい郊外論」を始めるきっかけとして、私が設計に携わった「ソーラータウン府中」を取り上げたい。施工した工務店とともに応募し、2020年の10月にグッドデザイン賞の金賞を受賞した。受賞にはコロナ禍という社会状況も寄与したかもしれないし、目先の新しさよりも本質的な豊かさや持続可能性を求めるような社会の機運の高まりもあったのかもしれない。テーマは「園路によるコミュニティのつくり方」である。一軒一軒が塀に囲まれた住宅地ではなく、それぞれの住戸が敷地を供出し、街区の中央に園路と呼ばれる共有地=コモンを設けている。コミュニティの核となるコモンはいわば各戸の負担によって成り立つのであるが、それこそが豊かさ=利益につながっているのではないかと竣工後の使われ方を見て改めて感じた。詳しくは写真や図を用いてお話ししたい。

その後、数回にわたって様々なテーマを取り上げ、郊外を経営するためのアイデアについてゲストと共に考えていきたい。第2回は、ソーラータウン府中を足掛かりに 地域における工務店の役割について考えてみたい。まだ詳細は決まっていないが、社会学やコミュニティ、土地政策、住宅政策、住宅産業、都市計画、地域での様々な実践等に詳しいゲストをお招きし、領域横断的な議論の場としたい。その先にポストコロナ社会の新しい郊外が見えてくるのではないだろうか。

*1 急激な都市の発展により市街地が無計画に広がっていくこと

〈開催スケジュール〉
第1回 2021年4月23日(金曜)19時〜(テーマ:園路によるコミュニティのつくりかた)
第2回以降は決まり次第お伝えしていきます。

〈料金〉
4月23日ウェビナーは特別価格1000円。
第2回目のウェビナーより月額4500円です。
第2回以降の開催・価格につきましては追ってお知らせします。

第2回目以降はオンライン交流会にもご参加いただけます。

お申込みいただいた方にはアーカイブでのご視聴も可能です。

〈会場〉
Zoomミーティングを利用したオンラインイベントです。

〈お申込み〉
Peatixよりお申し込みください。

〈主催〉
WirelessWireNews編集部(スタイル株式会社)

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野沢 正光(のざわ・まさみつ)

1944年東京生まれ。1969年東京藝術大学美術学部建築科卒業。1970年大高建築設計事務所入所。1974年野沢正光建築工房設立。現在、横浜国立大学建築学科非常勤講師など。主な作品として「熊本県和水町立三加和小中学校」「愛農学園農業高等学校本館」「立川市庁舎」「いわむらかずお絵本の丘美術館」など。著書に「環境と共生する建築」「地球と生きる家」「パッシブハウスはゼロエネルギー住宅」「住宅は骨と皮とマシンからできている」など。