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上海のロックダウンを読み解く「まなざし」

上海のロックダウンを読み解く「まなざし」

2022.04.25

Updated by Chikahiro Hanamura on April 25, 2022, 18:07 pm JST

上海市では、新型コロナウイルスのオミクロン株の感染急拡大を受けて、もう1カ月近くロックダウン(都市封鎖)が続いている。3月28日に東部の浦東地区からロックダウンが開始され、発表から4時間で街の封鎖により外出できなくなったという。上海に住む友人と4月13日にオンラインで話をしたが、想像以上のインパクトをもたらしていることが伝わってきた。

デジタルによる徹底的な管理を実施

全面的に上海市が封鎖されたのは、実質的には4月1日からで、発表された当初は4月4日までということだったらしい。しかし、友人と話した時には、既に二週間近く外出できない状況が続いていた。市民が持つスマホには、IDやパスポート番号とQRコードが紐付けられている。その位置情報を拾うことで、その人がどこにいて誰と会ったのかが管理される仕組みが整えられている。勝手に外出すればすぐに分かってしまい、法的措置の対象となる。そのため、今の上海の街路は人っ子一人歩いていないということだ。

この二週間で友人らもPCR検査を5回ほど受けているらしいが、そのときだけ外出して同じブロック内の小学校などに設けられた検査場で検査を受けている。その検査履歴も全てQRコードで管理される。封鎖前も出張に行くたびに検査は受けねばならなかったので、その履歴も残されている。こうしてデジタルで検査などの情報や行動履歴が管理され、それを元に陽性者や濃厚接触者が割り出される。通常は緑色をしたQRコードが濃厚接触者や陽性者になると黄色や赤に変わることで、分かり易く知らせる仕組みになっている。

中国はゼロコロナ政策を取っているため、基本的には全員がこの仕組みを利用しなければならない。スマホを持っていない人は、家族による代理申請によって管理するという徹底ぶりだ。同じブロックやマンションで一人でも陽性者が出れば、その後14日間封鎖が延長される。封鎖自体はブロックごとの判断だが、地下鉄や電車、バスなどの交通インフラはすべて止まったままだ。

浦東地区以外の多くの場所では発表から封鎖まで4日間あったので、食料などはその間に大量に買い込んで備えるという状況でだったという。あとは、区ごとに政府からの配給がある。区ごとの財政が異なるので配給の内容には差が生じる。地方だと1世帯に対して八宝菜が2食だけという場所もあるという。しかも、いつ何が届けられるか分からない状態だ。ただし、スマホには随時連絡が入る形となっている。

だから、近隣の住民たちとWeChatなどのグループチャットで集団購入する形で何とか凌いでいるという。牛乳や卵を買うにしても、まとまった量がないと購入が難しいからだ。封鎖前の上海では、スマホのアプリで欲しい物はなんでもすぐに購入することができた。しかも、1時間ほどで届けてくれる。買い物が極限まで便利になっていたので、物をストックするという習慣がない家族もいたほどだ。

そういった状況下での今回の封鎖なので、たとえ備蓄していたとしても二週間も経つと日用品も底をつき始めている。何より食料が足りなくなると生死にかかわる。そんな中で絶望する人々も多数現れており、感染して死亡する人々よりも、精神的に不安定になって自殺に向かう人の方が多いのではないかという声さえもある。

便利なシステムに依存した生活がどうなるか

システムに過度に依存すると、生活の主導権をシステム側が握ることになる。徐々に整えられた便利な生活は、ひとたび反転すると、今度はそれに従わなければ生きていけなくなる。これは、これまで予想し、1月に上梓した「まなざしの革命」でも警告を発してきたことであるが、まさに現実化しているのだ。

中国では、武漢に始まり、成都、深圳とこの新型コロナのパンデミックでこれまでにロックダウンされた都市はあった。だが、世界的にはこのパンデミックが落ち着きを見せ始めている中で、2500万人の人口を抱える上海を封鎖することはさすがにないだろうと上海の人々も思っていたらしい。中国では、2月に開催された冬季オリンピック・パラリンピックのためゼロコロナを掲げていたが、3月11日に開幕した全国人民代表大会の年次総会以降はもう少し規制を緩和してオープンにするような政策に舵を切るのではないかと考えられていた。

しかし今回、上海がロックダウンに踏み切ったことは、今後を考える上で示唆的である。感染者が日に日に増えていったという状況はあったにせよ、3月28日から4月19日までの時点で陽性者が約13万人に対して死亡者が17人、97%以上は無症状であるという。その状況で封鎖に踏み切ったのは、免疫学的な観点からの判断というよりも政治的な判断の方が大きいとも考えられるのではないか。当然、上海の人々はこの措置に対して猛烈に怒っているということだが、今後、革命を起こそうというような状況にでも至るのだろうか。

中国における上海の立ち位置とロックダウン

この事態に対しては様々な見方をすることができる。専ら上海人たちの間で噂されているのは、この封鎖が「北京からの嫌がらせ」であるということである。オリンピックのために北京ではあれほど厳しい規制がされたのに上海は好き放題している、ということに対するある種の制裁という見方である。もちろん、中国は一枚岩ではなく北部の農民系の人々と南部の商人系では考え方や価値観や行動様式が大きく異なる。その確執は過去から続いていて、このような形として噴出したという見方もできるだろう。

中国のめざましい経済発展は、上海をはじめとする南部の大企業がグローバルにビジネスを展開したことによるところが大きい。パンデミックの抑制が効かない状況になってきた頃合いに、規制をかけて管理していこうという意思が北京側にあることは確かだろう。実際、この封鎖による経済的な損失への補填はほとんど行われないそうだ。国有企業の家賃などは期間中に免除されるものもあるが、商店や交通会社などの損失が補填されることはなく、後日、おそらくは免税措置のような形での対応となることが予想される。

他の見方としては、これを機に上海の経済を止めることで、アメリカをはじめグローバル経済に対して牽制するというものだ。上海は、世界中のサプライチェーンの要の一つとなっているため、活動が止められると世界中に影響が出る。それはこの「ハイブリッド戦争」の時代において、ある意味で軍事的な攻撃以上に力を持つことになる。

上海自体は、これまで北京の方を向かずにグローバル経済の方を向いていた。各国の外交官や投資会社との付き合いの方を重視し、それに乗じて世界各国の政府も企業も上海に乗り込み中国進出のゲートウエイとして重要な役割を果たしてきた。日本からも各省庁から数名の役人が上海に駐在し、上海市の役人と定期的に食事会などの情報交換を行なっているという。

このように上海が中央を介さずに直接外国勢力と親密になることは、ある意味で中国の安全保障上のウィークポイントになっているともいえる。だからこれを機に、それを牽制して北京の管理下に置いていこうとする動きの表れだという見方もまた妥当性があるかもしれない。

さらに、そうした方向に踏み切るためにパンデミックは口実として好都合である。これまで整備されてきたデジタル化を利用して規制を強め、経済活動だけでなく一気に個人の行動まで管理することができるからだ。そんな状況を「デジタル社会主義」という言葉で表現しているが、それは今回の上海のロックダウンで如実に表れているのではないだろうか。この先も、この方向で中央政府によるコントロールはますます強まっていく可能性がある。

中国では、国有企業の割合がまた高まっているという話もあるようだ。元々、エネルギーなどのインフラ系は国有企業であったが、1990年代後半に民営化された小型国有企業が、再び国有企業へと戻りつつあるという。これら一連の動きは、今回の都市封鎖とは直接関係ないように思えるが、デジタル社会主義、あるいは中央政府によるコントロール強化といった補助線を付加して見ると綺麗につながっていくように思える。人々をコントロールするには、食糧をコントロールするのが最も効果的だからだ。

日本にとって対岸の火事ではない

対岸の火事のようにも見える上海のロックダウンの風景が、日本にも当てはまらないとは限らない。むしろ、こういった管理の仕組みなどが表面化しない方が実際には深刻かもしれない。ロシアとウクライナ間での戦争の報道に我々は釘付けだが、戦争は戦地で起こっているだけではなく、既に身の回りで始まっている。それは食糧危機という形でやってくる可能性がリアルにあり、上海で起こっていることとは無縁ではないだろう。

『まなざしの革命 世界の見方は変えられる』
ハナムラチカヒロ 著
四六変形・316ページ
定価:1,980円(本体1,800円)
発行:河出書房新社山極壽一氏(人類学者)推薦文!
「過剰な情報が飛び交い、民主主義の非常事態に直面する私たちに、時代の真実を見抜き、この閉塞感から解放されるまなざしを与えてくれる。」目次

第一章「常識」  第二章「感染」  第三章「平和」
第四章「情報」  第五章「広告」  第六章「貨幣」
第七章「管理」  第八章「交流」  第九章「解放」

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ハナムラチカヒロ

1976年生まれ。博士(緑地環境計画)。大阪府立大学経済学研究科准教授。ランドスケープデザインをベースに、風景へのまなざしを変える「トランスケープ / TranScape」という独自の理論や領域横断的な研究に基づいた表現活動を行う。大規模病院の入院患者に向けた霧とシャボン玉のインスタレーション、バングラデシュの貧困コミュニティのための彫刻堤防などの制作、モエレ沼公園での花火のプロデュースなど、領域横断的な表現を行うだけでなく、時々自身も俳優として映画や舞台に立つ。「霧はれて光きたる春」で第1回日本空間デザイン大賞・日本経済新聞社賞受賞。著書『まなざしのデザイン:〈世界の見方〉を変える方法』(2017年、NTT出版)で平成30年度日本造園学会賞受賞。

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