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WeWorkがやろうとしてできなかったことをどうすればできるか

2022.07.04

Updated by Ryo Shimizu on July 4, 2022, 13:46 pm JST

WeWorkの存在を知った時、すごく魅力的なコンセプトだと感じた。

WeWorkは単なるコワーキングスペースではなく、コミュニティであり、そこで共に働くフリーランサーや他の会社の人との交流が生まれる、と言われていた。

そのコミュニティへの拘りは、WeWork自身がコミュニテイマネージャーを設置するなど積極的にやろうという取り組みが感じられるものだった。
しかし、実際にWeWorkで何度か働いてみると、それは目標ではあるが実態とは異なる、ということがわかってきた。

日本人特有のシャイな性質がそうさせているのかと思い、パリのシャンゼリゼ通りのWeWorkや、サンフランシスコのWeWorkにも行ってみたが、やはり、そこでは無料のビールはあっても、知らない人と出会うことはなかった。

これはどういうことだろうか。

思うに、原因はいくつかあると思う。
まず、WeWorkという場所が、コワーキングスペースと言いながら、意外と働くのに向いてないように思えることだ。

ガラス張りの個室は広さを感じさせるが、同時に機密情報が扱いにくい。
そもそも個室で集中して仕事するのであれば、コワーキングで働く必要はない。

また、フリーランスが契約するにしては利用料金が高すぎる。
たとえば、東京で占有スペースなしの契約の場合、WeWork All Accessは毎月39000円と見積もられる。
ただ働く場所を確保するためだけにそれだけ払えるフリーランスは、ごく一握りだろう。それなら家で仕事をするほうが経済合理性がある。

もちろんそういうフリーランスもいるだろう。
でもそれはごく一人握りだ。

フリーランスが外で働く場所を確保するために4万円払うのと、自宅の家賃を4万円多く払うのと、どちらのほうが得だろうか。
都内で考えると、10万円の家賃の場所と14万円の家賃の場所では随分選択肢が違う。

都内のコワーキングスペースは場所や利用形態にもよるが、月額1万円から3万円が相場だ。
1万円くらいならば、ちょっとした作業場所としてフリーランスだけでなくテレワークのサラリーマンにも検討に値する値頃感になってくる。

WeWorkがなぜほかのコワーキングスペースと比較して高価なのかといえば、設備投資とブランディングに大金が投じられているからだろう。
このあたりの顛末は、最近のAppleTV+のドラマ「WeCrashed」や、U-NEXTで配信されているドキュメンタリーなどに詳しい。

もちろんそれでもWeWorkが気に入っていて、WeWorkの会員で居続けているひとが世界中に相当数残っているからこそ、WeWorkは今も存続しているのであり、価値を認める人がいないわけではないのだろうと思う。

筆者の顧問先の一つもWeWorkに入居している。

ただ、筆者自身がWeWorkの大きな魅力と考えていた「他の参加者との交流やコミュニティ」が、WeWorkには少ないと感じたのは事実だ。

次の問題は、「ではどうすればコミュニティが盛り上がるだろうか」という問いだろう。
そもそもコミュニティとは、アーキテクチャである。

意図的に作られなければコミュニティは生まれない。
たとえ自然発生したように見えるコミュニティであっても、実は誰か、または複数の人物の意思が複雑に関係している。

たとえば、学習塾について考えてみよう。
筆者が中学生の頃、高校受験を考えて学習塾に通っていた。

筆者のクラスは、ほとんどが同じ中学の生徒で、他の中学の生徒と廊下や模擬試験で同じ教室にいることはあったが、塾に通った二年間で一度も他校の生徒と交流したことも、名前を覚えたこともなかった。

これは、当たり前だが、学習塾に来る生徒の目的は「自分の学力を向上」させることであり、他の生徒と交流することではないからだ。

かといって、中学に友達が一人もいないというわけでもない。
むしろ中学時代の友人の方が長く付き合える側面もある。

たいていの学校には、部活があり、委員会活動があり、文化祭や運動会があり、集団学習の時間がある。このときに、必然的に「誰かとコミュニケーションをとらなければならない」状況に追い込まれる。つまり、アーキテクチャが存在しているのである。

学校というシステムには、明治的に「他の生徒と友達になる」ことを前提としたアーキテクチャが存在している。
もちろんこうしたアーキテクチャと極力距離を置き、孤独に生きる選択肢がないわけではないが、全くの孤独を選択する生徒はかなり少ないはずだ。
これは学習塾にはないアーキテクチャである。

コワーキングスペースも、ひとつのアーキテクチャであると考えられる。
コワーキングスペースの利用者の主な目的は「仕事をして、金を稼ぐ」ことだ。

ところが、金を稼ぐためには、必然的に社会性が必要になる。
自分に仕事をくれる人や、自分の足りない能力を補ってくれる人を探さなければたいていの仕事はうまくいかない。これはフリーランスでもサラリーマンでも変わらない。

ところがほとんど全てのコワーキングスペースには、社会性を構築する機能が存在しないか、存在していたとしてもかなり弱い。
定期的にセミナーが開かれたり、パーティが開かれたりしても、それがすぐに仕事につながるきっかけになるわけではない。

なぜそうなるのか考えてみると、そもそもそうしたコワーキングスペースでは、「どのような仕事の人が入居するか」についての決まり事がないのである。

たとえば、フリーランスのグラフィックデザイナーの隣で、保険の外交員が働いているとして、互いに仕事を頼むことができるだろうか。
保険の外交員が自分の権限でポスターなどのデザインをグラフィックデザイナーに発注することはあり得ないし、グラフィックデザイナーがたまたま保険に入ろうと思っていることも少ない、というかほとんどあり得ないだろう。

コミュニティのなかに入居者に保険商品やなんらかの勧誘をする目的で入居してくるセールスマンが一人でもいれば、コミュニティは崩壊し、成立しなくなる。見知らぬ人から話しかけられることを普通の人以上に警戒することになるし、警戒することで却ってコミュニケーションが阻害されるはずだ。

ということは、コミュニティというのは、決して、誰に対しても開かれているべきでは「ない」ということになる。
コミュニティをつくるアーキテクチャには、コミュニティから好ましくないもの、招かれざる客を排除する機能が備わっていなければならないのだ。

おそらくWeWorkの料金が比較的高いのは、そうした「排除」の機能を持たせようと言う意図も感じる。
しかし、利用金額を高くすると、本来、来てほしい人にも来てもらえなくなる可能性を排除できない。

次の難しさは、「勧誘行為を全て禁止すると、ビジネスが自発的に生まれるコミュニティにはならない」ことだ。
ほとんどのコワーキングスペースでは他の入居者に勧誘行為を行うことを禁止する条項があるはずだ。

しかし、禁止されているからといって完全に排除するのは難しい。
そして、禁止されているのに勧誘行為をする人は、より悪質であると考えられる。

理想は、できる限り不快な勧誘に晒されたり怪しいビジネスとの関わりを持たされることなく、必要に応じて自分のスキルを活かしたり、高めあったりしながら、自発的にビジネスがうまれるような場所を作ることだろう。

おそらくそういう場所はいくつかある。
代表的なものは、大学と会社だ。

大学にも会社にも入社・入学のための試験があり、コミュニティの規範に反する人は排除される。
そういう場所は、誰でもある程度安心して学んだり、働いたりすることができる。

そこまで厳しくはないが、入居前に厳しい審査があるような高級マンションもある。

たとえばコワーキングスペースにも、そういう審査制度を導入すれば、少しはよくなるかもしれない。
大学や企業ほど難しい試験である必要はないが、きちんと規範を守れるか、日本語を正しく理解できるか(正常なコミュニケーションがとれるか)、コミュニティの求める規範に反した場合、速やかに退去するという基本的なルールを理解し、実践できそうか。

最初から勧誘が目的で仮に試験をパスしたとしても、勧誘行為を指摘されたら一発でコミュニティから排除されるのであれば、入会金を考えたら勧誘そのものが目的の人は避けるようになるだろう。

もうひとつ、コミュニティを構築するために必要な方向性は、たとえばそのコワーキングスペースに入るひとの業種を搾るという方法がある。
エンジニアしか入居できないとか、実績あるデザイナーや漫画家、記者しか入居できないとか、そういう縛りを設けることである程度はコミュニティに侵入しようとする招かれざる客を排除できる可能性はある。

筆者が最近入居したコワーキングスペースは、浅草橋にある「技研ベース」という場所で、ここはその名の通り、エンジニアやデザイナーなど、テック業界の人とその周辺のマスコミやインフルエンサーしか集まらない。

ここで働くことは、かなり刺激的だ。
目の前に別の会社のCTOが居て、テレビ会議をしている。

隣ではハードウェアエンジニアが、なにやら設計図を書いている。
もちろん人に見られてまずいものはここでは広げない。非常に小さいスペースなので、すぐにいっぱいになる。

ここでの出会いでうまれた会社が、ハード、ソフト、デザインを全てここで知り合った人たちだけで賄って、一人の社長がアイデアだけで作り上げた商品を全国に展開していたりする。

アメリカの名だたる企業は自宅のガレージから発祥している。今や世界屈指の大企業となったApple社とて、最初は自宅のガレージから始まった。
最初から大都会の一等地で生まれた会社なんてものはない。

家賃は常に大きな問題で、特にスタートアップにとっては家賃は安ければ安いほどいい。
筆者が20年近く前に会社を立ち上げたときも、最初の一年は株主のオフィスを間借りしていて、家賃はゼロだった。
その後、また別の株主の会社の一部を月10万円で借り受けて社員を5人雇った。場所は外堀通り沿いの比叡神社の向かい側。赤坂の一等地だった。

完全に自立して自分で不動産と契約したのは創業してから3年ほど経過してからだ。
もしも創業した瞬間から月4万円の家賃を払っていたら、年間で48万円もの出費、貴重な資本金300万円の16%ものお金を使うことになっていただろう。

当時は気づかなかったが、できたばかりの会社にとって、オフィスを無料に近い金額で貸してもらえるというのは、その会社や、その会社に関わる個人の信用保証の面も大きいだろう。

つまり、第三者から見れば、それだけ周囲の人に応援され、信頼されている人物の興した会社だと見做してもらえることになる。
似たケースとして、ベンチャーキャピタルが投資先にシェアオフィスを提供するというケースがある。いわゆるインキュベーションオフィスだ。

入居以前に、ベンチャーキャピタルによってその会社の妥当性、将来性が審査されているわけで、異物を排除する仕組みがかなりしっかりしている。
ただ、インキュベーションオフィスの問題点は、同じVCから投資された会社の場合、互いにライバル関係になることだ。

また、ある会社Aから別の会社Bへ転職しようにも、同じ場所にあるので前職の同僚と顔を合わせづらくて他の会社に行く、ということも考えられる。
こうなるとコラボレーションは生まれにくくなる。

似た仕事でありながら微妙に違う会社同士が、会社単位ではなく個人単位で参加する技研ベースのような場所は、工夫次第ではもっとイノベーションを加速していくことができるのではないかという可能性を感じる。

コロナ禍でテレワークが常態化し、原則としてテレワークのみの会社が以前ほど不自然に感じられなくなった。
こうした形態が可能な業種では、オフィスというのはこれからすべてコワーキングスペースのようなものになっていくのではないだろうか。

たとえば全員がテレワーク前提だと、たまに会社に行っても、互いに知らない人だらけになる。
一緒に働いている同僚ならまだしも、他の部署の人など、初めて会う人ばかりになってしまう。形式的なあいさつはしても、「ご飯でも一緒にどう?」という交流にはなかなかつながらないだろう。そういうアーキテクチャになっていないからだ。

これはある意味で、既存企業のWeWork化と言えるかもしれない。
これからの人々の働き方は、どう変わっていくのだろう。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。

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