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自然知能を社会実装する:チューリングの功罪から、意思決定する物理「綱引き原理」へ

social implementation of natural intelligence: from Turing's merits and demerits to decision-making physics “Tug-of-War”

2023.08.19

Updated by WirelessWire News編集部 on August 19, 2023, 15:39 pm JST

自然界に存在する生物や物質には、意図的な回路のような構造を持たなくても、適切な入力と出力があることにより、社会的な価値をもたらす情報処理や機能変換などの、知的機能を発現する可能性があります。その研究対象は、かつては粘菌アメーバだったり、最近ではオルガノイドだったりします。要は、計算式や論理回路では到底解けそうもない問題を、自然が持つ現象で解いてみよう、という試みです。

このように、自然界に内在する未だ外部からは読み取れない、時に理解できない不可知な部分を含む自然現象に対して、適切な「環境制御」という入力と、「価値の選択」という出力に基づいて発現する知能が「自然知能(Natural Intelligence)」です。

日本国内では10年ほど前から、その基本構造の解明を行うと共に、新たな知能を発現する仕組みをデザインして、それを社会に実装することを目的とした研究が活発化しています。私(原)自身も、2012年には「生物を律する揺らぎのメカニズム」、2016年には「自然知能の構造とデザイン」という研究会を開催しました。

また理化学研究所でも、1990年代後半から、当時はまだ一般的ではなかったキーワード、時空間機能、創発機能、そして揺律機能、といった知的機能の研究が進められ、今回、話題提供を頂く、金 成主さんは当時の主要メンバーとして、それらの研究の中で「綱引き原理(Tug-Of-War:TOW)」という効率的な意思決定メカニズムを発見されました。また、その応用として「自然知能を社会実装する」という、先駆的な研究を進めています。

金さんは、元々、物理学と数学をバックグラウンドに、生物の自己組織化現象や複雑系を理論的に理解する研究に携わっていました。その過程で、例えば、世界の度量衡、計量・計測の標準を先導する、アメリカ国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology:NIST)が提唱する「乱数」の統計的検定(標準暗号=Advanced Encryption Standard:AESの選定に用いられた)の理論的修正を報告し、その金さんの指摘がNISTに採用された経緯があり、現在でも彼の理論分布とパラメタが使用されています。

さらには情報通信技術にも携わり、物質と物理現象を使った意思決定ツールを開発するに至っています。2019年にはご自身でSOBIN(Socially-Optimized Behavioral Intelligence)Instituteを設立され、現在はドイツのベルリンを拠点に活躍されています。

今回は。その金さんがどのようにして「社会実装」に向かったのか、チューリングの功罪とは何か、そもそも物質が意思を決定できるのか、「綱引き原理(Tug-Of-War:TOW)」とは何か、そしてそれらの「自然知能」の新しい可能性は何か、といったあたりをじっくりお聞きしてみようと思います。

奇しくも、「思考の整理学」で有名な外山滋比古氏が書かれた幻の原稿『自然知能』(扶桑社)が出版され、そもそも「人工知能」以前から存在していて、自然界を網羅する「自然知能」は、同じNatural Intelligenceでも「自然知性」と言った方が良いのではないかという議論にもつながっています。その辺の面白さも感じられる話になるかと思います。(原)

自然知能を社会実装する:チューリングの功罪から、意思決定する物理「綱引き原理」へ
8月23日(水曜日)17:30開始(いつもの開始時間とは異なりますのでご注意ください)

金 成主(Kim Song-Ju)
SOBIN研究所・所長
東京理科大学・大学院工学研究科・客員教授

1994年3月朝鮮大学校理学部 物理学科卒。2001年2月早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程修了(統計物理学)。博士(理学)。2001年から複雑系高等学術研究所(研究員)、情報通信研究機構(有期研究員)、理化学研究所(Research Scientist)、物質・材料研究機構(MANA研究者)を経て、2017年7月から2021年9月まで慶應義塾大学・SFC(特任准教授)。2021年から現在まで東京理科大学・大学院工学研究科(客員教授)。2019年10月SOBIN研究所設立。自然知能、人工知能、複雑系、非線形動力学とその社会システムへの応用研究に従事。

[関連情報]
Difference between Artificial Intelligence and Natural Intelligence

 

・日程:2023年8月23日(水曜)17:30から45分間が講義、その後、参加自由の雑談になります。Zoomミーティング形式で実施します。
・今までの開始時間とは異なります。ご注意下さい。
・「シュレディンガーの水曜日」は2023年5月から招待制に移行しました。参加希望の方は下記の3名、もしくは過去に「シュレディンガーの水曜日」で話題提供いただいた方々にお問い合わせください。研究者、研究者OB、理工系の学部生・大学院生の方々の参加をお待ちしております。


原正彦(メインコメンテータ、MC):ドイツ・アーヘン工科大学 シニア・フェロー原正彦(メインコメンテータ、MC):ドイツ・アーヘン工科大学 シニア・フェロー
1980年東京工業大学・有機材料工学科卒業、83年修士修了、88年工学博士。81年から82年まで英国・マンチェスター大学・物理学科に留学。85年4月から理化学研究所の高分子化学研究室研究員。分子素子、エキゾチックナノ材料、局所時空間機能、創発機能、揺律機能などの研究チームを主管、さらに理研-HYU連携研究センター長(韓国ソウル)、連携研究部門長を歴任。2003年4月から東京工業大学教授。現在はアーヘン工科大学シニア・フェロー、東京工業大学特別研究員、熊本大学大学院先導機構客員教授、ロンドン芸術大学客員研究員を務める。

 

中山知信(レギュラーコメンテータ):物質・材料研究機構(NIMS)グローバル中核部門長兼広報室長中山知信(レギュラーコメンテータ):物質・材料研究機構(NIMS)国際・広報部門・部門長
1988年東京工業大学大学院・材料科学専攻修士修了(99年博士(理学)、東京大学)。91年、民間企業から理化学研究所に移籍し、ナノ物性研究に従事。2002年より、物質・材料研究機構(NIMS)。国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)PI、同拠点副拠点長および事務部門長などを務め、2007年文部科学大臣表彰科学技術賞研究部門、2019年応用物理学会フェロー表彰などを受賞。筑波大学准教授、教授も併任し、2022年より同大学名誉連携教授。現在は、NIMS国際・広報部門長として研究の活性化に力を入れている。

 

竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人日経BP社でのインターネット事業開発の経験を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。10年にWirelessWireNewsを創刊。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997-2003年)、独立行政法人情報処理推進機構・AI社会実装推進委員(2017年)、編著に『ネットコミュニティビジネス入門』(日経BP社)、『モビリティと人の未来 自動運転は人を幸せにするか』(平凡社)、近著に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス/ミシマ社)、など。

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