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アメリカがAIで躍進する理由

Why US is good at AI

2024.09.01

Updated by Mayumi Tanimoto on September 1, 2024, 12:21 pm JST

AI においてはアメリカが世界をリードしていますが、民間企業がAIで躍進する一方で、アメリカは非常に大きな問題に直面しています。

基本的にアメリカの民間企業が主導するAIでその頭脳となっているのは、アメリカの大学で研究をしてきた博士号を持った研究者や教鞭をとってきた人々です。しかし最近では、アメリカのAI関連の民間企業が高い報酬で彼らを雇うので、アメリカの大学ではAIの研究をする人々がどんどん 民間に移ってしまっているのです。

例えば、アメリカの大学でAIの研究を博士号で行う人々の70%が 卒業後はそのまま 民間企業に就職します。これまでであれば、自然言語の研究や人工知能の研究をしていた人々が大学に残らず企業に行ってしまうのです。大学では研究が進まず、学生を指導する教員を確保することがかなり難しくなっています。

アメリカの大学は、ここ20年で学費を上げていますが教員の報酬というのはそれほど上がっておらず、民間企業で働けば年収5000万円を稼げる人が大学に残ると年収1000万円ちょっと ということが 珍しくありません。

これはアメリカだけではなく、欧州の大学もそれほど変わりません。物価の上昇も激しく、子供の大学の学費は1年に1000万円近くかかる場合もあるので、家族を養わなければならない人々は民間企業にどんどん 移動してしまいます。民間企業に行けば、大学の給料の数倍の報酬が稼げますから、コンピュータ・サイエンスや 経営学では良い 教員の確保が簡単ではないのです。

しかし、最近のAIの躍進というのは、もともと大学で蓄積されてきた研究の成果であり、1950年代から研究されてきた自然言語解析や人工知能の研究の結果が元になっています。それにもかかわらず、そのような基礎研究が蓄積されなくなるというのは、非常に危機的なことです。

民間企業は利益を稼がなければならないため、どうしても技術開発や研究は短期的な視野で行わざるを得ません。しかし、そういった技術の元になるのは基礎研究ですから、そこが手薄になってしまうとネタがなくなってしまうということです。

これは、日本においても全く同じことで、日本の大学の研究者の待遇 というのは年々厳しくなっており、特に国公立大学の報酬の低さや研究環境の劣悪さは説明するまでもありませんが、日本政府はもっと真剣に大学の待遇の改善や科学技術予算の増額を考えるべきでしょう。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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