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巨大プロジェクトを遂行するとき、コミュニティには矛盾が生じる

2024.09.05

Updated by WirelessWire News編集部 on September 5, 2024, 16:09 pm JST

科学者たちが協力して巨大なプロジェクトを遂行するとき、実は踏まえておくべき論点がある。それは、互いの発する用語のズレと各々の目的、についてである。科学技術社会学の専門家、福島真人氏が解説する。

同じ「コミュニティ」においても用語の意味や関心領域にはズレがある

かつてSTSの国際会議で、がんの研究体制が近年組織化される過程を分析した発表を聞いたことがある。発表者は社会学者だが、医学者自身の分析の様子について「こんな分析をされると我々の出番がなくなる」と冗談だか本音だか分からない感想を述べていた。科学的実践の社会/文化的意味合いを分析するのがSTSの本領だが、現場の研究者の自己省察になるほど、と頷く場面も少なくない。

また、地球科学系の会合の冒頭、ある研究者が、環境問題のような学際的な領域では、異なる分野の人々が使う用語、例えば「モデル」などが領域ごとに微妙に意味が違うので、細心の注意が必要だ、と指摘していた。これをネタにSTS論文が一つ書けそうな内容である。

実際、こうした意味合いの微妙さは、科学政策の場面でも遭遇した。「研究拠点」づくりというテーマに関する会合だったが、各領域の大御所の理解が微妙にずれていた。特に物理系の先生は、それを大型の実験装置と理解し、その前提で議論していた。あとで本人が事務局に近付いてきて「どうも意味を取り違えていたようだ」と呟いていたのが印象に残っている。

研究者自身の省察には、多くの社会学的ヒントがある。それを痛感したのは、宇宙科学系会議での「コミュニティ」に関する反省的議論である。宇宙科学、特にロケット打ち上げが必要なスペース系のそれにおいて、近年、観測装置やそれを打ち上げるロケット等が大型化し、関連するプロジェクトも規模が拡大、長期化する傾向がある。

天文台を中心とした地上系にもそうした傾向はあるが、小型の観測装置を地上に設置するという選択枝もある。他方、スペース系はロケット打ち上げがメインだが、回数をむやみに増やす訳にもいかず、数あるプロジェクト提案に関し、選択と集中は必須となる。

どの分野においても、研究者はそれぞれ個別の関心があり、科学における研究対象の細分化という特性とも相まって、異なる関心をベースに多くの個人、小集団が無数に存在している。彼らは特定のプロジェクトに関係して集まってくるが、関心の多様性とプロジェクト数は釣り合わない。さらに予算の制約やプロジェクトの大型化による数の減少、準備の長期化によってその採択数も減ってくる。特定の科学領域の周辺には他のライバル領域が存在するから、予算獲得競争に勝つ必要もある。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の前半部分です。
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