
SusHi Tech Squareで東京のもう1つの「未来」をのぞく
研究開発のネタをアート/デザインの現場から探る(No.9)
2025.03.05
Updated by Masayo Yaso on March 5, 2025, 13:05 pm JST
2025.03.05
Updated by Masayo Yaso on March 5, 2025, 13:05 pm JST
SusHi Tech Square
東京・有楽町駅のほど近く、かつて「無印良品 有楽町」があった場所、といえばピンと来る方も多いかもしれません。そこに2023年8月にオープンした施設が、今回ご紹介する「SusHi Tech Square」です。
東京都では、持続可能な都市を高い技術力で実現するという理念の下、都市課題の解決に向けた挑戦や東京の多彩な魅力を「SusHi Tech Tokyo」(=Sustainable High City Tech Tokyo)として国内外に発信しており、その取組の一環として、このSusHi Tech Squareが開設されました。
SusHi Tech Squareでは、デジタルを切り口に東京の「未来」「スポーツ」「生きもの」の展示を鑑賞/体感できるほか、展示だけではなく、テーマに応じた様々なワークショップ等のイベントを開催しています。過去には、「都市にひそむミエナイモノ展 Invisibles in the Neo City」や「人間 ✕ 自然 ✕ 技術 = 未来展」といった展覧会が行われてきました。
Alternative Living展
2025年1月18日(土)から2025年3月23日(日)まで、SusHi Tech Squareで開催されている展覧会が、「Alternative Living展」(オルタナティブ リビング展)です。タイトルにAlternative(=もう一つの、新しい主流になる)とある通り、今現在の私たちの暮らしとは少し離れた、異なる暮らしの形に出会える展覧会になっています。
Houxo Que ≪Death by proxy #3≫
例えば、本展会場の入ってすぐのところには、大型液晶ディスプレイを単管が貫いた作品が展示されています。家電量販店で購入すると30万円ほどするディスプレイが、単管が突き刺さることで「映像を映し出す」という本来の役割を失い、「アート」という別の価値を付与されて展示されていました。なお、このディスプレイは映像は映すことはできなくても、バックライトだけは稼働できる状態になるように計算されて穴が開けられているといいます。ディスプレイとしての価値やアイデンティティを、完全には失わないようになっていました。
ユカイ工学株式会社 ≪しっぽがある暮らし≫
そのほかにも、ソファやカーペットが置かれてリビングルームを模したエリアの一角に、しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo(クーボ)」がいました。まるで猫のおしりのようです。Qoobo は撫でられると生き物のようにしっぽを振るのですが、撫でられ方で反応が異なり、あたかも感情があるように感じられます。クッションとペットとロボットの中間に位置する不思議な存在です。
山田紗子 ≪透壁≫
本展に関連して、2月24日(月祝)に開催された、出展者の1人である山田紗子氏によるクリエイタートークに参加しました。
山田氏は、建築家であり、本展示空間を取り囲むように置かれた軽鉄による作品≪透壁≫を作成された方です。従来、軽鉄は建築資材として壁の中に埋め込まれて使用されますが、この≪透壁≫では表に露出され、隣の様子がわかる程度に、ゆるやかに空間をゾーニングする役目を担っています。実は、この軽鉄の中にはLEDライトがあり、壁であると同時に、照明でもあります。
クリエイタートークの中で山田氏の経歴を伺っていると、椅子のパイプ部分に着目した空間展示を行ったり、庭と住居と道路の境界が曖昧になるような住宅を建築されたり、本展覧会に展示された≪透壁≫しかり、「従来のものを少し視点を変えて追求」されているように思われました。まさにオルタナティブ。その豊かなアイデアはどこから生まれるかといえば、「事務所スタッフとの普段のおしゃべり」にあるといいます。天才の閃きのようにアイデアが降ってくる、ということではなく、「チームで考えながら、ずっとおしゃべりしながら、だんだんアイデアになっていく」そうです。他愛もない日常会話が、仕事のアイデアにつながっていくのです。
ここで思い出されたのが、経済学者のジョセフ・シュンペーターによる、「新しい知とは常に、『既存の知』と別の『既存の知』の『新しい組み合わせ』で生まれる」(出典:『世界標準の経営理論』入山章栄)という言葉。イノベーションや新規事業創出界隈では有名な言葉ですが、デザイン/アートの現場でも似たようなところがあるのかもしれません。
Photo by Malibu Fukuda
Alternative Living展では、通常の展示に加え、2025年3月20日(木祝)には、閉館後に暗がりの中で行う一夜限りのイベントも企画されています。Alternative Living展の、さらにオルタナティブな面が見られるかもしれません。
みなさまも、自分の<既存知>を増やしに、SusHi Tech Square を訪れてはいかがでしょうか。
イベント名称:Alternative Living展
会期:2025年1月18日(土)- 2025年3月23日(日)
会場:SusHi Tech Square
〒100-0005
東京都千代田区丸の内3-8-3 SusHi Tech Square内1階Space
開館時間:平日 11:00-21:00(最終⼊場 20:30)
⼟休日 10:00-19:00(最終⼊場 18:30)
※月曜日休業 臨時に休業する場合があります。
入場料金:無料
主催:東京都
情報技術開発株式会社 経営企画部・マネージャー
早稲田大学第一文学部美術史学専修卒、早稲田大学大学院経営管理研究科(Waseda Business School)にてMBA取得。技術調査部門や新規事業チーム、マーケティング・プロモーション企画職などを経て、現職。2024年4月より「シュレディンガーの水曜日」編集長を兼務。