アップルがモバイル決済分野への参入準備を進めているとする話が米国時間24日にWSJで報じられている。

WSJでは情報筋の話として、アップルのエディ・キュー氏（Eddy Cue、iTunesなどオンライン関連の責任者を務める上級幹部）がこの関連で、複数の業界幹部と話をしていること、また以前にオンラインのApple Store責任者をしていたジェニファー・ベイリー（Jennifer Bailey）氏という幹部を決済ビジネス関連の取り組みの責任者に据えたことを伝えている。なお、この責任者選びにあたってはベイリー氏任命前に、アップルは決済関連業界でよく知られた人物5人と面接していたという。

アップルは、iTunesストアの登録ユーザーのクレジットカード情報を手にしており、このユーザー数が現在全世界で5億7500万人に達している。また同社は一昨年にギフトカードやクーポン、チケットなど管理できる「Passbook」アプリを、昨年には「Bluetooth Low Energy」を使った近距離無線通信技術の「iBeacon」をそれぞれ発表。さらに最新機種の「iPhone 5s」に「Touch ID」という名前の指紋認証技術を搭載するなど、モバイル決済に利用可能な技術を投入してきている。そのほか、同社は携帯電話と無線受信機による商品の決済に関連する特許を申請したことも今月初めに明らかになっていた。

なお、2012年にもアップルが決済分野への参入を画策しているとする話がWSJで報じられていたが、この時には小売店と顧客の間で問題が起こった際にアップルに批判の矛先が向く可能性や、NFCチップ搭載でバッテリー駆動時間が短くなってしまうことなどへの懸念から結局実現には至らなかったという。

モバイル決済関連サービス分野では、グーグル（Google）、スクウェア（Square）、ペイパル（Paypal）などに加え、ベライゾン・ワイアレス（Verizon Wireless）とAT&T、T-モバイル（T-Mobile USA）のジョイントベンチャーであるISIS、ウォルマート（Wal-Mart）やセブンイレブン（7-Eleven）などの大手小売チェーン連合などでも関連技術の開発が進んでいるとされる。

NFC技術ベースのモバイル決済については、一時期グーグルなどが主導する形で端末へのチップ搭載も進み、広汎な普及が期待されたこともあったが、店舗側で対応POS端末への入れ替えが必要なことや、アップルがiOS端末へのNFCチップ搭載を見送ってきていることなどもあり、現在では普及の勢いに陰りが見えている印象もある。

なお、WSJでは米国のモバイル決済市場について、2012年の128億ドルから2017年には900億ドルまで急成長するとするフォレスター・リサーチ（Forrester Research）の予測を紹介している。

また、米国では昨年の年末商戦期にターゲット（Target）やニーマン・マーカス（Neiman Marcus）といった大手の小売事業者で大規模な顧客データの流出が発生し、とくにターゲットでは最大1億1000万人分の顧客データが盗まれた可能性も浮上。またターゲットのケースでは、クレジットカード決済を処理するPOS端末から暗号化されずに送信されていたデータが狙われたことも明らかになり、より安全性が高いとされるEMVチップ採用カードへの注目も高まっているという。EMVはユーロカード（Eurocard）、マスターカード（MasterCard）、ビザ（Visa）の3社が開発した暗号化技術で、NYTimesによると欧州ではすでに81%のクレジットカードに搭載されているモノの、米国ではこれまで普及が進んでこなかったという。

こうした流れを背景に、モバイル決済手段のさらなら普及にあたっては、従来からの利便性の高さに加えて、セキュリティ（安全性）の高さもいっそう重要視されることになる可能性も考えられる。

【参照情報】
・Apple Pushes Deeper Into Mobile Payments - WSJ
・Apple could take on PayPal, Square, and Isis with its own mobile payments business - The Verge
・For Target, the Breach Numbers Grow - NYTimes
・Neiman Marcus Data Breach Worse Than First Said - NYTimes