米携帯通信市場最大手のベライゾン・ワイアレス（Verizon Wirelss：以下、ベライゾン）が2年ほど前から進めている広告配信関連の取り組みに対し、加入者のプライバシー侵害などにつながるおそれがあるなどとして、消費者保護団体などから批判の声が挙がっているという。

ベライゾンのPrecision Market Insights部門では、通信料以外の収入増加を目的に、Relevant Mobile Advertisingプログラムという取り組みを行ってきている。同社はこの取り組みのなかで、ユーザーのウェブアクセス履歴や位置情報などのデータを収集し、匿名化した上で外部の広告配信事業者などに提供。広告事業者側ではターゲット広告の配信などにこの「PrecisionID」のデータを役立てているとされる。またベライゾン自体は広告配信は行っていない。

今回問題になっているのは、ベライゾンがこの取り組みで使っているユーザー識別の手法。同社は「Unique Identifier Header」（UIDH）と呼ばれるコードを、加入者の端末から送信されるウェブサイトへのアクセスリクエストのヘッダに埋め込むことで、ユーザーがどのサイトにアクセスしたかなどが判るようにしている。このUIDHと、一般のウェブサイトなどで利用されているcookieとの違いは、ベライゾンがこの識別用IDをさまざまなウェブサイトにブロードキャストしているため、広告配信事業者が各ユーザーの同意なしに簡単にプロファイルをつくれてしまう可能性があるという点。

AdAgeが今年5月に掲載していた記事のなかには、「PrecisionID」について、cookieがほとんど役立たないモバイル端末などでとくにその効果が期待されるなどとある。また同記事には、「Precision」のトライアルに参加した米1-800-Flowersの活用例として、「年齢が25〜44歳のAndroid端末ユーザーで年収が7万5000ドル以上の男性に向けて、バレンタインデーに（贈り物用の花束の）広告を配信した」といった話も書かれている。

ベライゾンの加入者は、Relevant Mobile Advertisingプログラムからオプトアウトすることは可能だが、オプトアウトした後でもUIDHの挿入＝行動追跡自体は停止できない、とするベライゾン広報担当者の話がWIREDでは引用されている。なお、ベライゾンが加入者に対し、Relevant Mobile Advertisingについてどの程度明解に説明し、同意を得ているか、などの点についての説明は見当たらない。

またこれに関連して、AT&Tでもベライゾンと同様の実験を進めており、AT&T側もそのことを認めたとする話がForbesでは紹介されている。

各社のこうした行為に対し、Electronic Frontier Foundation（EFF）関係者からは「自分の行動がどう追跡されるかはユーザー自身がコントロールすべき」といった声が挙がっている。また加入者から料金を受けとって基本的なサービスを提供している通信事業者が、それ以外の目的に加入者のデータを利用すべきではない、といった指摘もあるという。さらに、収集されたデータがNSA（米国家安全保障局）による監視活動のような想定外の目的に濫用される可能性があるとする指摘も見られる。

【参照情報】
・Verizon Wireless injects identifiers that link its users to Web requests - Ars Technica
・AT&T Says It's 'Testing' Unique Tracker On Customers' Smartphones - Forbes
・Verizon's 'Perma-Cookie' Is a Privacy-Killing Machine - WIRED
・Verizon Looks to Target Its Mobile Subscribers With Ads - AdAge
・Wireless carriers are rolling out a horrible new way to track you - The Verge