スマートフォン対応電子マネー「mPAY rabbit」は普及するか?
2014.02.05
Updated by Hitoshi Sato on February 5, 2014, 10:11 am JST
2014.02.05
Updated by Hitoshi Sato on February 5, 2014, 10:11 am JST
▼BTS車内での「mPAY rabbit」の宣伝
タイのバンコクでは公共交通機関BTSへの乗車や町での買い物の支払いに利用する「rabbitカード」が2012年5月に開始され、だいぶ普及している。これは日本でいうところのJR東日本が提供している「Suica」のようなIC乗車と電子マネーの役割を果たすようなカードである。BTSの乗車以外ではマクドナルドやスターバックスといった大手チェーンなどで支払いができる。
現在、バンコクではタイの最大手通信事業者AISが「mPAY rabbit」と称するスマートフォンで「rabbit」が利用できるサービスを推進しようと多くのプロモーションを行っている。これはいわゆる「モバイルSuica」だと思っていただければ良いだろう。従来のカードではなく、NFC対応のスマートフォンに「rabbit」のアプリをダウンロードして利用するものである。また専用のSIMカードも必要になる。現在はサムスンのGalaxyシリーズと一緒にプロモーション活動を行っている。
タイでは携帯電話の普及率は140%を超えており、バンコクでは若者を中心にほとんどの人がスマートフォンを利用している。そのため携帯電話会社間での差別化が難しくなってきているため、AISのように「おサイフケータイ」のようなサービスでの差別化が必要になってきている。
しかし、「rabbitカード」を利用している人はたくさん見かけるが、スマートフォンで利用している人はほとんど見かけない。その背景としては以下のような理由が考えられる。
(1)ユーザーにとってのメリットが見えにくい:すでにICカード版の「rabbitカード」が存在し、広く普及しているため、改めてスマートフォンで利用するメリットが見えにくい。「スマートフォンならでは」のサービスや特徴がほとんどないため、「従来のrabbitカードでいいや」という気持ちになってしまうだろう。
(2)利用の敷居が高い:さらにスマートフォンなら何でもOKという訳ではなくNFCに対応した特定の機種に限定されていることや、専用のSIMカードの挿入が必要なこと、アプリをダウンロードして設定するなど、購入してすぐに利用できる「rabbitカード」と異なり、利用までの敷居が高い。
また、通信事業者にとってのメリットも見えにくい。通信事業者にとっては顧客の囲い込みや差別化になるだろうが、収益として決して大きくはない。せいぜいアプリをダウンロードする時に発生するパケット代程度だろう。これは日本でも同じで「モバイルSuica」がどれだけ普及しても通信事業者(ドコモやKDDIなど)にとって収益はない。
それでもタイでは通信事業者AISは積極的に「mPAY rabbit」のプロモーションを行っている。これはユーザーがスマートフォンを利用することによって、通信費(ARPU)がフィーチャーフォンよりも高くなることが想定されるので、そこを狙っているのだろう。あくまでも「mPAY rabbit」はVAS(Value Added Service)にすぎない。
「rabbitカード」はバンコクでは普及しており、多くの人に利用されているが「mPAY rabbit」はまだこれからである。しかし、バンコクでのスマートフォン普及率は非常に高いから、受け入れられる素地はあるはずだ。これから対応端末が増加したり、スマートフォン対応していることのメリットを訴求できるようになれば、広がりを見せる可能性はある。
▼サムスンGalaxyシリーズと「mPAY rabbit」の宣伝
▼BTS車両内では「mPAY rabbit」の宣伝が多く行われている。車両内では多くの人がスマートフォンを利用しているが、「mPAY rabbit」を利用している人は少ない。
▼BTSのチケット売り場で「rabbitカード」は購入可能ですぐに利用できる。「mPAY rabbit」よりも簡単である。
【参考動画】
【参照情報】
・rabbit
・AIS mPAY rabbit
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登録はこちら2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。