シンガポールの携帯電話事情(1) - 世界最速300Mbpsのサービスを提供するキャリアも
2014.11.26
Updated by Kazuteru Tamura on November 26, 2014, 11:30 am JST
2014.11.26
Updated by Kazuteru Tamura on November 26, 2014, 11:30 am JST
マレー半島の南端に位置する島国・シンガポールは著しい経済発展を遂げた都市国家である。ビジネスや観光を目的としてシンガポールへ渡航する日本人は多い。今回はそんなシンガポールの携帯電話事情にスポットを当てる。
シンガポールにおいては3社の移動体通信事業者が存在しており、SingTelと呼ばれるSingapore Telecommunications、StarHub、M1が移動体通信サービスを提供する。シェアはSingapore Telecommunicationsが最も高く、StarHubとM1が僅差で競り合う状況となっている。携帯電話普及率は150%を超えるほど高く、3社ともポストペイドとプリペイドの両方を提供している。また、3社ともGSM方式、W-CDMA方式、FDD-LTE方式で移動体通信サービスを提供しており、いずれも周波数帯はGSM方式が1.8GHz帯と900MHz帯、W-CDMA方式が2.1GHz帯(Band I)、FDD-LTE方式が2.6GHz帯(Band 7)と1.8GHz帯(Band 3)となっている。
Singapore Telecommunicationsは一般的に略称のSingTelで呼ばれており、サービスブランドをSingTelとしている。そのため、以降はSingapore TelecommunicationsをSingTelと表記する。
SingTelは1994年3月にGSM方式でサービスの提供を開始している。シンガポールで最初に移動体通信サービスを開始した移動体通信事業者となる。2001年4月にはW-CDMA方式のライセンスを取得し、2005年2月よりW-CDMA方式によるサービスを開始した。2011年12月にFDD-LTE方式によるサービスを4Gとして開始、2014年7月にはLTE-Advancedの主要技術であるキャリアアグリゲーションを適用して通信速度を下り最大300Mbpsに高速化し、世界最速の4G+として提供している。
2014年11月時点でLTE方式の商用サービスは下り最大300Mbpsが世界最速となっている。キャリアアグリゲーションを適用して下り最大300Mbpsのサービスを提供する移動体通信事業者はSingTel以外にも存在しているが、その数は決して多くはない。SingTelは数少ない世界最速のサービスを提供する移動体通信事業者なのである。なお、LTEネットワーク上で音声通話を実現するVoLTEも導入しており、4G ClearVoiceとして提供している。
シンガポール最大の移動体通信事業者であるだけに、規模が大きな旗艦販売店も設けている。旗艦販売店には下り最大300Mbpsのサービスに対応したスマートフォンを含めたSingTelが取り扱うスマートフォンが並べられており、手に取って試すことができた。また、固定通信などSingTelが手掛ける移動体通信関連以外の事業分野の製品も展示されていた。
SingTelは海外展開に積極的であり、移動体通信分野だけでもアジアを中心に複数の国の市場に参入している。タイではAISとして知られるAdvanced Info Serviceに出資、インドネシアではTelkomselに出資、フィリピンではGlobe Telecomに出資、インドではBhartiグループに出資、バングラデシュではCitycellに出資している。豪州ではOptusを完全子会社としている。
余談ではあるが、SingTelにはマスコットキャラクタが存在しており、SingTelのサービスを取り扱う店舗に置かれていることもある。
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▼エクセター・ロード沿いにあるSingTelの旗艦販売店。
▼SingTelの旗艦販売店は内装のデザインも凝っている。店舗内は非常に暗いが、おそらく演出なのだろう。
▼Samsung GALAXY S5 4G+ (SM-G901F)。SingTelが提供する下り最大300Mbpsのサービスに対応した最初のスマートフォンである。
▼下り最大300Mbpsのサービスに対応したSamsung GALAXY ALPHA 4G+ (SM-G850F)。薄型でメタル素材を多用した筐体が特徴となっている。
▼Samsung Electronicsの旗艦スマートフォンであるSamsung GALAXY Note 4 4G+ (SM-N910G)も下り最大300Mbpsのサービスに対応する。
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M1はシンガポールで2番目に移動体通信サービスを開始した移動体通信事業者である。マレーシアのAxiataグループが筆頭株主で、その他はKeppel TelecomsやSPH Multimediaが主要株主となっている。当初はブランド名をMobileOneとしていたが、2010年にMobileOneからM1にブランド名やロゴを変更している。
移動体通信サービスは1997年4月にGSM方式で開始し、2005年2月にはW-CDMA方式を導入、2011年6月にFDD-LTE方式によるサービスを4Gとして開始した。シンガポールにおけるLTE方式のサービスはM1が初となった。キャリアアグリゲーションを導入することも決まっている。
▼M1の販売店。M1の販売店は他社と比べて規模が小さめな店舗が多い印象である。
StarHubはシンガポールで最も新しい移動体通信事業者で、2000年4月にGSM方式で移動体通信サービスを開始した。2005年4月にW-CDMA方式の提供を開始し、2012年9月よりFDD-LTE方式によるサービスを4Gとして提供している。StarHubもキャリアアグリゲーションを導入する計画である。LTEネットワーク上で音声通話を実現するVoLTEは導入済みで、HD Voice+として提供する。
StarHubは日本のNTTドコモと提携してiモードを提供し、iモードに対応した携帯電話の販売も手掛けていた。後にNTTドコモはシンガポール法人としてDOCOMO SINGAPOREを設立し、2013年1月1日より営業を開始している。DOCOMO SINGAPOREはシンガポール在住の日本人向けにシンガポールの携帯電話や回線の販売などを目的とし、StarHubの携帯電話および回線を取り扱っている。DOCOMO SINGAPOREはリャンコートにドコモサポートデスク シンガポールとして店舗を設置しており、StarHubの正規販売代理店となっている。
▼StarHubの販売店。多くの顧客で賑っている。
▼リャンコートに入るドコモサポートデスク シンガポール。StarHubの携帯電話や回線を取り扱っていることも分かる。
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シンガポールは国自体が著しく経済発展していることもあり、移動体通信事業者各社は新技術の導入に積極的である。下り最大300Mbpsのサービスを提供するには40MHz幅の帯域幅が必要であり、経済発展に関係なくそれだけの帯域幅が割当てられていることが前提となるが、シンガポールではM1とStarHubも下り最大300Mbpsのサービスを提供する計画である。SingTelは既に下り最大300Mbpsでサービスを提供しているため、M1とStarHubが下り最大300Mbpsのサービスを開始すれば、シンガポールの全ての移動体通信事業者が下り最大300Mbpsのサービスを行うことになる。
また、VoLTEについてはSingTelとStarHubが導入しており、M1も導入する予定となっている。ただ、M1がVoLTEを導入する時期は当初予定の2014年半ばから遅れており、提供開始はもう少し先になるかもしれない。
キャリアアグリゲーションやVoLTEを提供するためには莫大な研究開発費が必要である。また、これらの新技術に対応した高価な端末も投入しなければならないし、それを購入する消費者がいなければ事業として成り立たない。シンガポールの経済発展が移動体通信事業者による積極的な新技術の導入に繋がっていることは間違いないだろう。
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登録はこちら滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。