生命の起源を明らかにするため。微生物学者、地球外生命体を探す
To clarify the origin of life. That is what I do.
2015.06.24
Updated by Ken Takai on June 24, 2015, 08:58 am JST
To clarify the origin of life. That is what I do.
2015.06.24
Updated by Ken Takai on June 24, 2015, 08:58 am JST
イノベーションや新しい価値創造が生まれた瞬間を振り返った時、そこには多くの科学の発展がありました。科学の発展を支えるため自然の摂理の中に潜む「発見」に日夜努力するサイエンティスト、そして「発明」に注力するエンジニアの言うことに耳を傾けることは、これからの未来を創るヒントを得ることにつながります。
そこで、「これまでの当たり前」を変える研究と、その研究結果が世の中をどう変えていくのかについて、今回は海洋研究開発機構(JAMSTEC) 深海・地殻内生物圏研究分野 分野長である高井研氏にお話を伺ってきました。
──先生は海洋研究開発機構(JAMSTEC)に所属され、深海・地殻内生物圏研究分野の分野長をされていますが、地球外生命体の探索活動もされているとうかがっています。深海・地殻内生物圏の研究者が、なぜ地球外生命体の探索に取り組むのでしょうか?
高井:私の研究テーマの一つは、「地球の生命の限界を知ること」です。例えば、ウサイン・ボルトの世界記録である「100mを9秒58」で走る、というのは、人間の限界値であると考えられますよね。海底や地殻内からのサンプルにより122℃の高温、pH12.4の強アルカリ性の環境でも生命が生きることを確認しましたが、このような極限海洋生物を探しているのも、大きくいえば「地球の生命の限界」を探すためです。それは、わかりやすい「生命とはなにか」という問いに対する答えになります。
生命の限界を知ることは、「地上における生命とは何か」という問いに対する一つの答えを探すことになります。「生命とは何か」という問いに対して、理屈が好きな人は形而上学的な答えでも深い理解に至ることはできるかもしれませんが、私はそうではなく、誰にでも直感的にわかるような現実の中に答えを探そうとしています。
「生命とは何か」を知りたいのは、これが2つめの私の研究テーマなのですが、「生命の起源」を明らかにしたいからです。生命の起源というのは、あるところで「生命ではないもの」が「生命のようなもの」に変わる、その境界を知るということですよね。つまり、生命とそうでないものは何が違うのか、生命とは何かということを知らなくてはいけません。
生命の起源を明らかにするための一つの方法論として現在の生命から過去に遡っていくアプローチがあり、そのようなアプローチから私は「UltraH3(ウルトラエイチキューブ)リンケージ仮説(※1)」で生命は深海から生まれたと提唱しています。一方、「生命は陸から誕生した、海は必要ない」という学説を唱える研究者もいます。地球や生命について過去に遡るアプローチの難点は、古くなればなるほどほとんど証拠が残っていなくて、最終的な決着がつけられなくなります。また生命の進化を考える上で重要な問題は、地球に生命が生まれ、我々に至った進化は一回きりの現象で、それだけを見ていてもロジカルには説明できません。
ここに決着をつけるために考えているのが、地球外生命体を探すということなんです。エンセラドス(※2)に生命がいたら、「生命の誕生には陸はいらない」ということになりますよね。地球だけでは解決不可能だった問題に決着をつけることができる可能性が高いのです。
──仮説検証サイクルを地球外に求めるということですか。
高井:そういうことです。私の人生の最終目標は生命の起源を求めること。起源を知るためには生命と生命ではないものの境界を知らなくてはいけない。境界が分からなくてはいつ、どのように誕生したのかが分からない。その一つの例として、現在の地球の極限環境で生きている生物を探しています。
もう一つ、起源に迫れば迫るほど、地球で起きた過去のできごとは再現できないので、目の前に認知できる生命誕生の瞬間を見るために、地球外の星に行く必要があります。全てはつながっているのです。
※1:太陽のエネルギーや光合成由来の分子状酸素にまったく依存しない「ハイパースライム(超好熱地殻内化学合成独立栄養微生物生態系)」が40億年前の地球に存在したとする仮説。「ハイパースライム(超好熱地殻内化学合成独立栄養微生物生態系)」の存在の証拠を高井氏らがインド洋の深海熱水活動域において発見した。
※2:海水の存在が確認されている土星の衛星
インタビューの続きはこちら
>2600年間、誰も答えられなかった問いに答えを出すための戦略
今回インタビューを受けていただいた高井氏には第7回SCHOLAR.professorに登壇いただき、「なぜ微生物学者が地球外生命体を探すのか」をテーマにお話いただきます。
日時 :2015年7月13日(月) 19:30~22:00(開場19:00)
会場 :devcafe@INFOCITY(渋谷区神宮前5-52-2 青山オーバルビル16F)
受講料:5,000円(税込)
詳細はこちら:http://scholar.tokyo/
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国立研究開発法人 海洋研究開発機構 深海・地殻内生物圏研究分野 分野長
超好熱菌の微生物学、極限環境の微生物生態学、深海・地殻内生命圏における地球微生物学を経て、現在は地球における生命の起源・初期進化における地球微生物学および太陽系内地球外生命探査にむけた宇宙生物学を探求。
著書に『生命はなぜ生まれたのかー地球生物の起源の謎に迫るー』(幻冬舎)、『NHKサイエンスZERO 深海で生命の起源を探る』(NHK出版)、『微生物ハンター 深海を行く』(イーストプレス)など。
National Geographic日本版webにて連載『青春を深海に賭けて』:
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20110518/270393/