国境が消えるモバイルゲーム市場 - 焦点はプラットフォームの覇権争いに
2010.10.26
Updated by Kazutaka Shimura on October 26, 2010, 13:00 pm JST
2010.10.26
Updated by Kazutaka Shimura on October 26, 2010, 13:00 pm JST
モバゲータウンを運営するDeNAが米国のモバイルゲームデベロッパーのエヌジーモコ(ngmoco)を4億300万ドル(399億円)で買収した。DeNAは、昨年10月に同じく米国のモバイルゲームデベロッパーのオーロラ・フェイント(Aurora Feint)にも20%出資していて、もはやスマートフォンのゲームコンテンツビジネスには、国境はないことを実感する。こうした動きは、ゲームデベロッパーの囲い込みと言えるが、もうひとつ面白い点がある。それは、今後急成長するスマートフォン上のゲームプラットフォームの覇権争いだ。コンテンツ開発力も重要だが、書籍ならアマゾン(Amazon)、映像はユーチューブ(Youtube)といったプラットフォームの覇権はさらに重要である。
2010年8月現在で、アップルの「iPhone」対応アプリは25万個、グーグル(Google)のAndroidに対応するアプリは8万種類存在すると言われており、モバイル端末でユーザーに自分のコンテンツを発見、利用してもらうのは大変だ。これは「モバイル・フラグメンテーション」(Mobile Fragmentation)の問題と呼ばれ、その解決策を提供するベンチャー企業が勃興している。
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ゲーム分野では、そのことにいち早く気付いたスマートフォン向けゲーム開発企業の何社かが、2009年春頃からゲーム検索アプリを無料公開し始めた。そのひとつがオーロラ・フェイントの運営する「オープン・フェイント」(OpenFeint)で、毎日1つ有料ゲームを無料でダウンロードできるのが人気で、現在2500万人のユーザーが利用しているという。ゲームデベロッパー向けには、ハイスコアボードや、友達とポイントを競ったりするソーシャル機能をゲームに付加できるSDKを無料公開し、コンテンツを集めている。ゲーム開発者とユーザーの双方に付加価値を提供することで、ゲームとユーザー数が互いに増加する好循環を生み出している。
こうしたモバイルゲーム用のソーシャルプラットフォームを提供している大手として、ほかにドイツのスコアループ(ScoreLoop)、DeNAが買収したエヌジーモコ(ブランド名は「Plus+」、2009年6月開始、1200万ユーザー)がいる。
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オーロラ・フェイントやエヌジーモコが、iPhone向けの有料ゲームを制作している(ngmocoの2010年売上は300万ドル、営業損失1000万ドル)のに対し、スコアループは、プラットフォーム専業で「コイン」(Coin)と呼ぶプラットフォーム通貨をユーザーに販売するユニークなビジネスモデルで運営されている。ユーザーは、友達同士でゲームの点数を競い、そのときにコインを取引する。同社のマーク・ガンピンガー(Marc Gumpinger)CEOは、2000万個のコインがプラットフォーム上で流通していると語っている。(Pocketgamer.biz:2010年7月1日)
こうしたプラットフォームビジネスの成長をみて、アップルはiPhone 4から「Game Center」という同じサービスを提供し始めた。それに対し、オーロラ・フェイントやスコアループは、アンドロイド向けにサービスを開始している。調査会社のニールセン(Nielsen)が2010年10月に発表した米国のモバイル端末シェアは、アンドロイドが32%、iPhoneが25%であり、アンドロイド端末の一層の成長が見込まれている。プラットフォームはたとえiPhone市場を全て失ってもアンドロイドで成長すればよい。
ゲーム開発者にとって、モバイル端末の普及はビジネス的にはチャンスだが、アンドロイドとiPhone用とゲームを作り分ける必要がある。そこで、DeNAは、モバゲータウンにエヌジーモコの「ngGame」というiPhoneにもアンドロイドにも双方にゲームを配信できる開発プラットフォームを実装し、ゲーム開発者に利便性を提供する。
DeNAの海外進出、プラットフォーマーのアンドロイドへの対応、アップルの垂直統合の動きなど、モバイルゲームを巡る競争は、国境やプラットフォームを超えて、ユーザーと開発者に付加価値を提供するのか、新たなケーススタディとして注目である。
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登録はこちら情報通信総合研究所主任研究員。1991年早稲田大学卒業、WOWOW入社。2001年ケータイWOWOW設立、代表取締役就任。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学でMBA、2005年高知工科大学で博士号を取得。文系・理系に通じ、さらには国内外のメディア事情、コンテンツ産業に精通。著書に『ネットテレビの衝撃―20XX年のテレビビジネス』(東洋経済新報社)『明日のテレビ チャンネルが消える日』(朝日新書)がある。