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KDDIがトライブリッド基地局などへの取り組みを説明

2013.03.04

Updated by Asako Itagaki on March 4, 2013, 09:40 am JST

3月1日、KDDIは、トライブリッド基地局をはじめとした災害対策への取り組みについて説明会を開催した。また同日運用を開始したトライブリッド基地局「春日部南中曽根局」を報道陣に公開した。

2013年3月末までにトライブリッド基地局100局を全国に展開

201303040100-1.jpgKDDI株式会社 技術統括本部 技術企画本部
モバイル技術企画部 企画グループリーダー
松石順慶氏

説明にあたった同社術統括本部 技術企画本部 モバイル技術企画部 企画グループリーダーの松石順慶氏は、東日本大震災時の振り返りとして、「災害時の基地局停波の原因は停電による影響が大きかった」ことを紹介。2011年3月12日の時点で、東北6県で停波していた基地局のうち、停電が原因となっていたのが77%であり、「電気さえあれば通信を維持できた」状況もあったことを紹介し、災害対策としての停電対策の重要性を強調した。

KDDIの停電対策の2本柱は「トライブリッド基地局」と「基地局の24時間化」である。

トライブリッド基地局は、電力会社から供給される商用電源に加え、太陽光発電と蓄電池の「3つの電力」を適切に使い分けることで、より長時間のサービス提供を可能にする基地局。KDDIでは主に省エネ・環境対策として、2009年から11か所でトライアルを開始していた。

▼トライブリッド基地局とは
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▼時間帯と天候により3つの電力を使い分ける。
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その後、2011年の東日本大震災で停電リスク・電力不足リスクが顕在化、これに対する対応が課題となった。また、省エネ対策の重点としても位置付け、2013年3月末までに全国100か所に拡大する。100局の内訳は関東地方が34局、また南海トラフで発生する巨大地震の危険が指摘されている西日本地域にも、近畿で29局、四国で18局と多めに配置する。

もうひとつの対策である基地局バッテリーの24時間化は、都道府県庁、市町村役場、主要駅を中心に実施。対策方法としては、バッテリーを通常基地局よりも増設し、また発電機を設置するなどしている。2013年3月末に2000局をめどに整備を進めており、さらにあと2、300局は進めていきたいとしている。また、トライブリッドとバッテリー24時間化を合わせた基地局も設置している。

基地局自体の省電力化も進めている。主な対策は、設備をそのまま設置して空調設備を不要にする「エアコンレス型基地局」への移行、アンプ効率の改善による省電力化などである。トライブリッド電力、バッテリー24時間化、省電力型基地局でより長時間化をはかる。

大ゾーン基地局、船舶型無線基地局などへの取り組みも進める

今後の取り組みとして松石氏は、「大ゾーン基地局の検討」「多様な停電対策の検討」「船舶型無線基地局の実用化」の3つを挙げた。

大ゾーン基地局への取り組みはNTTドコモが先行しており、全国に104箇所を設置済みである。(関連情報:災害時への備え(NTTドコモ))KDDIでは、非常時用の大ゾーン基地局の設置は現在検討中だが、既存基地局の多くが電波の角度を変更することでエリアを拡大する「既存局利用型大ゾーン」に対応している。「多様な停電対策」の一例としては、現在トライアル中の可搬型リチウムイオン電池が紹介された。スーツケースのような形状で携帯できるリチウムイオン電池を基地局に運ぶ。従来のポータブル発電機の設置による仮復旧では、発電機を設置した後給油オペレーションの必要があったが、リチウムイオンバッテリーであれば一度運べばそれだけで長時間運用が可能になる。

船舶型無線基地局は、2012年6月から総務省(中国総合通信局)主催の検討会に参加しており、実地試験を2012年11月に実施した。陸路からのアプローチが困難な場合、海から陸に向けて電波を飛ばすことで、沿岸部にエリアを確保する。津波など沿岸部に被害が甚大な被災地で威力を発揮する。

▼船舶型無線基地局の概要
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実地試験の結果、海上を動く基地局で陸上に1km~3kmの技術的には有効であることが確認されたが、現在は法律上「移動するものに基地局は置けない」といった制約がある。検討会では、早期実用化をめざし、3月末をめどに実地試験の結果を取りまとめている。実用化の際には、自衛隊や海上保安庁など、災害時に機動力のある組織と協力して早急な展開が可能な体制を整備する方針だ。

「我々は通信事業者ですので、通信は必ずつなげるという思いで日々活動しています。『その想い、つなげるために』という思いで取り組んでいきたい」と松石氏は取り組みの姿勢を語った。

>>運用を開始したトライブリッド基地局を公開

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運用を開始したトライブリッド基地局を公開

また同日、KDDI春日部安全・技術訓練センター敷地内に設置されたトライブリッド基地局「春日部南中曽根局」の運用開始セレモニーが行われた。

▼開局セレモニーでスイッチを入れる松石氏
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▼太陽電池パネルは直置きで設置されている。トライアル時には8枚設置の基地局もあったが、コストとの兼ね合いで4枚となった。
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▼太陽電池は、生憎の天候で60W前後の発電量しか確認できなかったが、晴天時であれば正午前後の約3時間は400Wの発電が可能になる。
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▼基地局の無線設備(写真奥)自体は小型化されている。
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▼上の写真のボックスの中。上が電源、下がバッテリー。真ん中の小さい箱がトライブリッドのコントローラーになる。100局に展開するにあたり、安価な装置を開発した。
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通常、基地局は1000W程度の消費電力で動作している。春日部南中曽根局では、太陽光発電により、総消費電力の5%程度をまかなえる見こみとのこと。電力需要が増える晴天時の昼間には太陽光発電量が増えることにより、商用電力消費のピークカットが図れる。また、夜間の安い電力で蓄電池を充電することで商用電力消費のピークシフトが図れる。

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。