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KDDI研究所、Advanced-MIMO技術などを公開

2013.05.24

Updated by Asako Itagaki on May 24, 2013, 11:49 am JST

5月23日、KDDI研究所は"「使いこなす」を実現するKDDIの技術開発"をテーマに、報道関係者向けに埼玉県ふじみ野市にある同社研究所見学会を開催した。同日発表されたAdvanced-MIMO技術をはじめとした研究内容が紹介された。

▼研究所の概要を紹介する中島康之研究所長。
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KDDI研究所は300名弱の研究員がおり、メインとなる上福岡(ふじみ野市)の研究所には200名、飯田橋の研究センターには100名弱が在籍する。KDDIグループの持つ移動体通信、ブロードバンドサービス、ケーブルテレビなどの分野に向け、「ネットワーク高速大容量化」「サービスプラットフォーム」「魅力的で使いやすいサービスの実現」を3つの柱に、研究から実用化までを一貫して研究すると共に、外部技術も取り込みスピーディに展開することをミッションとしている。

LTE-Advancedを見据えた技術群

展示されていた技術を紹介していこう。

Advanced- MIMO技術

本日の目玉は、この日発表されたAdvanced- MIMO技術だった。LTE-Advanced(参考情報)に向けてMIMO(参考情報)の送信側のアンテナが4本、8本と増えても、端末側のアンテナが対応して増えないと増えたアンテナを有効に利用できない。余ったアンテナを使って別の端末とも同時に通信することで、電波を有効利用して全体の周波数利用効率を向上させるというものだ。

▼複数の端末と同時通信して効率を向上させる。
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同じ周波数で同時に異なる端末と通信する場合、干渉を防ぐことが重要になる。KDDI研究所では、干渉防止のための端末から基地局への情報フィードバック時に利用するデータ圧縮技術を開発した。現在のLTEで1ヘルツあたり7.5bpsの効率が、Advanced- MIMO技術で1ヘルツあたり20bpsと約3倍に向上するデモンストレーションが展示されていた。

▼基地局装置と端末装置の間を有線で接続したデモンストレーション装置。
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KDDI研究所では、今後、Advanced-MIMOの3GPP Release13での標準化を目標に活動を行い、2018年頃の実用化を目指す。5月29日から開催されるワイヤレス・テクノロジー・パーク2013に出展する。

無線機内蔵小型アンテナ

従来の基地局ではアンテナと無線機をそれぞれ設置する必要があったが、アンテナと無線機を一体化することで小型化を実現する。

▼アンテナ素子を送信用と受信用に分けて無線機と一体化することで、大きなデュプレクサーを不要にする。
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携帯電話の部品を転用しておりコンパクトで軽い、アンテナカバーの中に無線装置を入れ込むことで一体化でき、配線不要で省エネになるというメリットがある。

▼アンテナ内部への無線機設置イメージ。
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▼無線機の大きさは手のひらに載る程度。
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1基地局あたりの設備費は50%減、工事費は67%減、消費電力は50%減と試算しており、通信データ量増大に対応した基地局建設の大幅なコスト削減の切り札となる技術だ。今後、実際のアンテナ設置環境での耐久性の調査などのフィールドテストを経て2015年頃の実用化を目指す。

電波無響室での端末の無線性能評価

LTE-AdvancedのMIMOの性能を引き出し伝送スループットを向上するには、端末側もアンテナを従来の2本から4本あるいは8本に増やす必要がある。また、3.5GHz以上の周波数利用によるアンテナの小型化や、タブレットなど大型端末の増加で、端末に内蔵されるアンテナ数は今後増えていく。

多アンテナ端末では、端末内に分散してアンテナが配置されるため、通常の空間では電波がいろいろな方向で反射されて入ってくる状態により伝送性能が大きく変わる。性能評価時には、電波の状態を制御して任意の状態を正確に作り出す必要がある。そのための施設が今回公開された電波無響室だ。

▼普段見ることのない電波無響室の内部。テレビドラマ「ガリレオ」の撮影にも使用された。
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中央に置かれた人形(人体ファントム)は、電波に対しては人体と同じ特性を持つ。周辺に立てられた8本のポールに取り付けられたアンテナから送出する電波を制御して任意の電波環境を作り出す。

壁、床、天井などに一面に取り付けられている突起はカーボンが入ったスポンジで、電波を反射せず吸収して熱に変える特性をもっている。外からの電波を遮へいし、また内側の電波の反射を防止する。

▼突起を拡大してみた。触るとやわらかいスポンジ。
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端末によって無線性能が大きく異なると、「今までは問題なく通信できていたのに端末を変えるとつながらない」といった事態が発生する。KDDIでは、メーカーが開発した端末の無線性能をチェックすることで、性能の均質化と底上げをはかっている。

「使いこなす」を実現するためのさまざまな技術

さまざまなアプリケーションを実現するための技術も展示されていた。

ブラウザ同期技術

画面を共有することにより、オペレーターによる利用者の支援を可能にする技術。利用者はオペレーターとの通話開始ボタンを押すだけで、あとの操作はオペレーター側で行い、買い物支援や健康情報の提供を受けられる。北海道・旭川市と美瑛町で買い物支援の実証実験が行われた。また、産総研の「気仙沼プロジェクト」で、血圧計や体重計などのセンサーと連動した健康データ管理に利用されている。

▼オペレーターとテレビ電話で会話しながら買い物ができる。「商品の一覧を見たい」「○○をいくつ注文したい」などのリクエストにオペレーターの操作で対応し、表示が切り替わる。
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大規模画像認識技術

カメラで撮影した画像と「一致する」画像を検索し、関連する情報を表示する。画像の中から特徴的な領域を切り出して比較することで、一部分しか見えていなかったり、向きが異なる画像でも一致するものを的確に探す。大量の画像から効率よく検索するために、データを圧縮したままで特徴を抽出する技術や、類似度を判定する独自アルゴリズムを実装した。

▼画面の特徴を形から抽出する。
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▼ニッセンの「カタログカメラ」に採用されている。紙のカタログにかざすと商品情報が表示され、そのまま購入できる。
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なお、この技術は、2013年1月から5月にかけて行われた、ARブラウザ「SATCH VIEWER」を利用したAR情報表示サービスのトライアル提供にも使用されている。

音声合成エンジン「N2 TTS」iOS版

この日報道発表された音声合成エンジン「N2TTS」iOS版のデモンストレーションが展示されていた。日本語の漢字かな交じり文の音訓読みの判定とアクセント位置の設定による発音記号への変換と、なめらかで自然な発生にする処理を3.5MBのメモリーで実現する。処理は文単位で行う。256文字まで一括処理できるので、256文字以内の文をつないで作られた長文であれば一括して読み上げられるという。開発者用にSDKを提供する。

▼デモ用の「ぺらたま」という育成ゲーム。Android版は既に15万ダウンロードされている。
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医療用画像伝送システム「SmartMIMAS」

診断用の高解像度画像データをスマートフォンやタブレットに送り、どこでも閲覧できるようにするシステム。独自暗号化技術によりセキュリティが強化されている。また、医療用の階調変更が簡単に行える。遠隔診断やカンファレンスなどに活用できる。

▼データは超高速暗号化アルゴリズム「KCipher-2」により暗号化されており、安全に伝送できる。
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つぶやき分析システム「Social Media Visualizer」

ツイッターのつぶやきを解析し可視化する。キーワードを入力することで、その話題についてつぶやいているユーザーのプロフィールやポジティブ・ネガティブ比率などを表示する。

▼プロフィール分析の例。この日は三浦雄一郎氏のエベレスト登頂が話題となっていた。
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リアルタイム映像伝送システム「VistaFinder Mx」

受信機(PC)と送信機(スマートフォンなど)の組み合わせで、多地点からの同時中継を実現する技術。1.5Mbpsから2Mbps程度の帯域で720pのHD映像を創出できる。テレビ局やケーブルテレビ局の安価な中継システムとしての利用だけでなく、セキュリティ会社の日報に添付する画像の収集などの応用例も出てきている。現在は受信機を拠点に置く形となるが、将来的にはクラウド化も検討したいとのことだ。

▼最大12地点からの映像を同時に受信できる。
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KDDI広報部によると、KDDI研究所では、アナリスト向けの研究所公開は毎年行っていたが、メディア向けの公開は2001年にKDD研究所と京セラDDI未来通信研究所が合併して株式会社KDDI研究所として発足して以来、初めての試みだという。広く新技術への取り組みを知らせることには意味があるので、今後もぜひ続けて欲しいと要望しておいた。

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。