株式会社フレクト取締役 Cariot事業部長 兼 技術開発本部長 大橋正興氏(後編)「当たり前が違う世界」に寄り添い、IoTで社会の課題を解決したい
日本のIoTを変える99人【File.016】
2016.09.29
Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on September 29, 2016, 08:00 am JST
日本のIoTを変える99人【File.016】
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IoTソリューションの開発には「(いろいろなモノが)当たり前につながる」社会をイメージした顧客体験のデザインが肝要だと語る大橋氏。だがそれ以前の問題として、現場とIT技術者の間にある「壁」を感じているという。大橋氏に、引き続き話を聞いた。
学生時代には、慶応大学SFCの安村研究室に所属していて、「ユビキタスコンピューティング」が日常用語として使われる環境にいました。修士課程修了後はソニーエリクソン(現・ソニーモバイルコミュニケーションズ)に就職して、ミドルウェアの研究開発分野にいました。ずっと「ハードウェアをインターネットにつなげる」ことに近しい分野にいたので、今、IoTに関わっているのは自然な流れに思えます。
ソニーエリクソンに行ったのは、ソフトウェアのビジネスをやるにしても、ハードウェアや組み込みソフトウェアをちゃんと理解したいと思ったからです。ハードウェアを理解しなくてはソフトウェアを動かせないので、デバイスに対する知識を得たいと思いました。そして、その時の経験は今も生きていると思います。たとえば、デバイスの計算機リソースがいかにプアなものか、そこに想像力が働くことでハードウェアの会社とも話が通じやすくなります。
僕の世代では、ソフトウェアやクラウドビジネスに関わっている人の中で、ハードウェアのバックグラウンドを持っている人は少ないです。ハードウェアの人の多くは大手メーカーに就職してそこから出てこないですよね。両方経験したからこそできる事があると思いますし、IoT界隈で活躍されている方にはそういう方は多い印象です。
さらに、弊社が手掛けていたウェブ開発はB2C案件が多かったので、大量のトラフィックのさばき方も知っています。大量をさばくのはトラフィックだけでなく、センサーデータも同じなんですね。組み込み方が分かっていて、対応できるアーキテクチャも経験があったということが結果的に今、アドバンテージになっています。
Cariotを事業部化して事業ポートフォリオの軸の一つに据えたのには3つの理由があります。ひとつは大きな市場になる見通しがあること。もうひとつは、社会にとって必要とされていること。そして、社会課題解決の一端を担いたいという思いです。車はあってもドライバーが足りない、道路も足りない、2020年に向けて首都高を改修するために首都高を片側車線つぶして工事するという話が最近テレビでされていました。そんな時に、どこに車がいてどういう状況なのかが分かるようになっていれば多くのことが解決できると思います。
とはいえ、現実はまだまだ。ほとんどの人が「車がインターネットにつながるって何のこと?」と思っています。モノがインターネットにつながることの常識感が、一般にはまだまだありませんね。まず僕らは、皆がスマホを使って当たり前のように通信するのと同じぐらい簡単にCariotのデバイスを車に刺せばインターネットにつながる事を伝えていかなくてはなりません。配送効率が良くなるとか、運行管理が便利になるのはつながってから先の話です。
これはコネクテッド・カーに限らず、スマートロックでも、他の何かでも、すべてのIoTソリューションがぶつかる壁でしょう。つながる事が当たり前でない人にとって、つながる事を前提としたサービスのメリットは想像しにくいんです。だから、ソリューションができた時に、IoTに関わる人はいったん視線を現場やユーザーに向け、彼らと共感していく必要があります。
建設関連団体でIoTの講習をすると、LINEですらどのくらい使われているか分からないぐらい普及していません。これだけニュースでPokemon GOが話題になっていても、皆さん知らなかったりします。僕のFacebookのウォールを見ている人は全員知っていることなのに、彼らにとって興味の無いことなので意識されないんです。
そのくらい「当たり前」が違う世界は他にもたくさんあるのが現実ですが、一方で僕らがIoTを普及させたいのはそういう世界です。彼らにIoTの情報を伝えて歩み寄ってもらうのも大事だけれど、僕らの方が積極的に歩み寄っていくことも大事です。
コネクテッド・カーのソリューションだって、賢い人はスマホでやれば良いと言いますが、「スマホにドライバーアプリをインストールしてログインして…」って、実は相当敷居が高い。そうではなくて「デバイスを車に刺すだけで、管理画面で位置が見える」ぐらいまでそぎ落とさないと、現場の人には使ってもらえません。
常識が違う世界に寄り添って伝える。テクノロジーでもなんでもなく、マインドの問題かもしれないけれど、そういうことが必要です。
だから僕らはできるだけ現場に行くようにしています。そして、実際にモノを見てもらって一緒に考えます。その時にどうコミュニケーションするかといえば、いかにものを見せていくかということです。工事現場で働いている方に「このシステムどうしたらいいでしょう」とたずねて答えが出るわけがないので、業務を観察しながら一緒にシステムを見て、何に使えるかを丁寧に聞いていきます。
例えばダンプトラックなどの特殊車両の管理であれば、規制の関係で走行計画としてルートを先に提出し、走行後には正しくそのルートを通行したという書類を提出する必要があります。そのために、現在は主要な曲がり角で写真を撮ることでエビデンスにしているわけです。これはルートが自動で記録できていれば必要ない作業ですよね。
こんな問題が、多分たくさんあるんです。IoTの人がそこに寄り添い、効率がよくなるということを実際に見せていかなくては普及しません。
今後は、Cariotを売っていくのは当然として、「車が当たり前につながっているからできる」ユースケース(顧客体験)をどんどん発掘していきたいです。今までこの分野はお金がかかるので大企業や一部のビジネス化可能なサービスでしか成り立ちませんでしたが、クラウドによって導入の障壁は下がりました。
Cariotのターゲットの一つは当然ながら営業車両を使っている企業です。さらに、自社車両だけでなく建設現場のダンプトラックや物流用の車両などに取り付けて荷主視点で外注車両管理に使用することもできます。ただ、こういった「見えているユースケース」に縛られずエンドユーザに寄り添い、コネクテッド・カーが当たり前だからこそのユースケースを見つけて発信していきたいと考えています。
あとは道半ばではありますが、Cariotで培ったアプリケーションからデバイス、回線まで、一気通貫で提供するノウハウを使って、ハードウェアを持っている他の企業さんとIoTサービスを協業で立ち上げていきたいと考えています。今年度中ぐらいには1つくらいは立ち上げられそうです。
ハードウェアを持っていてもうまくパッケージングしてサービスを立ち上げられないという人がたくさんいます。一方で、僕らはハードウェアは持っていなかったですが、そういう場所からCariotを立ち上げて一通り回しています。ウェブサービスに比べるとハードウェアがからんでくるので、時間も手間もかかりますが、他社のハードウェアで社会に役立つ分野に合致するものがあれば、「こうやればうまくいく」というノウハウを提供して新しいサービスを作り、社会の役に立っていけたらと願っています。
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