情報通信研究機構 150mW超(発光波長265nm)世界最高出力の深紫外LEDの開発に成功 ~殺菌、医療等応用が期待~
2017.04.06
Updated by Kyodo News PR Wire(プレスリリース) on April 6, 2017, 07:00 am JST
2017.04.06
Updated by Kyodo News PR Wire(プレスリリース) on April 6, 2017, 07:00 am JST
2017年4月4日
150mW超(発光波長265nm)世界最高出力の深紫外LEDの開発に成功
~殺菌、医療から環境、ICT分野まで従来技術の革新に期待~
【ポイント】
■ シングルチップ・室温・連続駆動において、世界最高出力となる光出力150mW超を達成
■ 深紫外LEDの光取出し特性と放熱特性を同時に向上させるナノ構造技術の開発に成功
■ 深紫外265nm帯LEDで、世界初の実用域(100mW)超により、産業実用化に期待
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)未来ICT研究所において、深紫外光ICTデバイス先端開発センター 井上 振一郎 センター長らの研究グループは、光出力150mWを超える世界最高出力の深紫外LED(発光ダイオード)の開発に成功しました。波長200~300nmで発光する深紫外LEDは、塩素などの有害な薬剤を用いない光のみによるウィルスの殺菌・無害化や水銀ランプの代替などが期待されています。水銀フリーかつ小型で手軽に機器に取り付けることができるため、医療から環境、ICT分野まで幅広い分野の産業、生活、社会インフラに対して画期的な技術革新をもたらす可能性があります。しかし、これまでは、本格的に普及させるにはその光出力が十分ではありませんでした。
今回、本研究グループは、深紫外LEDの光取出し特性と放熱特性を同時に向上させる独自のナノ光・ナノフィン構造をナノインプリント技術を用いてチップ全面に形成することで、光出力飽和現象を大幅に抑制し、発光波長265nm、シングルチップ・室温・連続駆動において世界最高出力となる150mW超を達成しました。この結果は、殺菌性の最も高い265nm帯LEDにおいて実用域の100mWを超える初めての報告であり、深紫外LEDの今後の社会普及を一段と加速させる技術として期待されます。
本研究は、株式会社トクヤマと共同で行ったものです。また本成果の一部は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)A-STEP事業(課題番号: AS2525010J及びAS2715025R、研究責任者: 井上 振一郎)の支援の下に実施されました。なお、本成果は、米国応用物理学会誌 Applied Physics Letters(電子版: 日本時間2017年4月4日(火)13:00)に掲載されます。
【背景】
深紫外波長帯(200~300 nm)で発光する半導体発光ダイオード(LED)は、その高い光エネルギーにより、極めて強い殺菌作用を持ち、ウィルスの殺菌、飲料水・空気の浄化をはじめ、食品の安全・衛生分野や、院内感染の予防、光線外科治療といった医療分野などでその活用が期待されています。
また同時に、最も発光波長の短いLEDであることから、3Dプリンタやスキャナの高精細化、樹脂の硬化、印刷、環境汚染物質の分解、物質の光同定分析、ICT応用など、幅広い領域でその利用が期待されています。しかしながら、従来の深紫外LEDの光出力は高いものでも数十mW程度と低く、実用面で普及させるにはその出力が不十分な状況でした。
深紫外LEDは、窒化物系半導体(AlGaN: 窒化アルミニウムガリウム)を用いて作製されますが、近年の結晶成長技術の進展によって内部量子効率は大きく改善されている一方、光取出し効率が極めて低く、発熱や光出力飽和現象などの問題が顕在化することから高出力化が難しく、それらの課題を解決する新しい技術の開発が求められていました。
【今回の成果】
今回、新たに開発した窒化アルミニウム(AlN)基板上深紫外LEDに対するナノインプリント技術を用いて、LEDチップ全面に光取出し特性と放熱特性を同時に向上させる独自のナノ光・ナノフィン構造を形成することで、従来構造と比べ光出力を大幅に増大させることに成功しました。これにより、シングルチップ(チップサイズ: 1mm×1mm、電極メサ面積: 0.35mm2)の深紫外LED、殺菌作用の最も高い発光波長265nm、室温・連続駆動下において、深紫外波長帯 世界最高出力となる光出力150mW超を達成しました。
従来のフラットな素子構造では、注入電流が増加するとともに、外部量子効率と光出力が大きく低下する現象が見られましたが、今回開発したナノ光・ナノフィン構造を形成した深紫外LEDでは、注入電流を増加(最大850mAまで)させても外部量子効率の低下は極めて少なく、光出力も増大を続けました。
この結果、従来構造に対し、最大注入電流時において、約20倍という大幅な光出力の向上を達成しました。また、スペクトル解析の結果、高注入電流時でのLEDのジャンクション温度の上昇が従来構造に対し抑制されていることを明らかにしました。
【今後の展望】
殺菌から医療、環境、工業、ICT分野に至るまで広範囲にわたる応用分野へ深紫外LEDの普及を加速させるためには、高出力化への取組と共に低コスト化も重要な要素の一つです。
本成果は、ナノ構造を駆使して光出力を大幅に向上させる技術でありながら、ナノインプリント技術を用いることで、従来の電子ビーム描画等の加工法を用いる場合と比較すると、圧倒的な製造時のコスト低減を可能にする手法です。
今回新たに開発した高スループット・低コストに作製可能、かつ小型・ポータブルで高出力な深紫外LEDは、水銀ランプなどの既存大型光源では難しかった様々な新しい組込み型アプリケーション実現の可能性を飛躍的に高めるものと期待されます。
【リリース全文】
http://prw.kyodonews.jp/prwfile/release/M101990/201704030555/_prw_PR1fl_o31dMn13.pdf
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