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温泉で死にたくなければIoTを活用すべし

Use IoT if you do not want to die at spas

2017.04.19

Updated by Mayumi Tanimoto on April 19, 2017, 07:15 am JST

先月ロンドンで開催されたSmart IoTは、最近のIT系イベントの中では最も盛り上がっていましたが、いくつか気になる企業がありました。

イギリスのIoT系スタートアップ企業が集まるブースで目立っていたのがスマートシティ系のプロジェクトです。その中でも訪問者が多かったのがイギリス北部の大都市の一つであるマンチェスターで実施されているThe CityVerve Projectでした。CiscoやBT、マンチェスター市、10社のベンチャーが参加するコンソーシアムであり、イギリス政府が56億円を拠出するIoTプロジェクトの一つです。34の都市と競争して予算1千万ポンド(約14億円)を獲得しています。

マンチェスター市の革新的なビジネスや技術の集積地であり、6万人が働いてるManchester Corridorで実施されていますが、なかなか面白いなと思ったのが、単なる便利な都市を作るという視点で運営されているだけではなく、ビルオーナーやテナントのコスト削減、利用者の健康管理という現実的な点にも注目している点です。スマートシティというと、「こんな風な未来都市ができます」という感じのプロジェクトが多いわけですが、こういう視点はコストに敏感なイギリスらしいです。

参加企業の一つであるSPICA Technologiesは、環境のモニタリングを担当しています。バーミンガム大学初のベンチャーで、バーミンガム市のインキュベーションプロジェクトであるInnovation Birminghamの支援を受けているスタートアップです。

同社のDevicepoint™を使うと、IoTを使ってビルで使われる水の品質チェックが可能です。おもしろいなと思ったのは、水道管などにさっと取り付ければ使用可能で、スマートフォンやタブレットのインタフェースからリアルタイムでアラートや水質情報を受け取れる点です。従来の方法に比べると、40%以上のコストが削減可能ですし、何よりアラートを24時間受け取れるのできめ細やかな対処が可能です。

このソリューションが特に便利なのは、レジオネラ菌による感染の防止です。この菌は、環境中に普通に存在する菌なのですが、建物の冷暖房や手洗い場などの水で増殖し、空気中から吸い込むと、高齢者や乳児、免疫力が弱っている人の場合、レジオネラ肺炎などを起こす事があります。最悪の場合は死亡します。

 

レジオネラ菌による汚染は、ここ最近イギリスでかなり問題になってきており、こういうソリューションの需要が高いのは納得です。特に、ビルオーナーや、管理請負会社にとっては、汚染防止は死活問題です。

ロンドンオリンピックで開催2週間前に警備員を雇うことを忘れたことが発覚して大有名になった警備会社のG4Sは、従業員が職場でレジオネラ菌に感染したことが発覚し、職場の安全管理違反で、180万ポンド(約2億5千万円)の罰金と訴訟費用を支払うはめになっています。

この様に、オフィスビルだけではなく、病院、学校などでの感染もおきていますが、単なる健康問題ではなく、安全管理義務違反という法令問題になってしまうわけです。G4Sの場合は感染者が一人でしたが、これが集団だった場合賠償金は莫大なものになります。

ビルオーナーや管理会社の場合、こういうソリューションを入れているというのは、物件の安全性をアピールするポイントにもなりますね。

レジオネラ菌感染は実は日本でも結構起きていて、温泉施設や超音波加湿器からの感染で年間数人が死亡しています。ジェットバスやシャワーで発生した霧を吸い込むと肺から感染してしまいますので、スポーツクラブやプールも危険です。(ですから私は日本で温泉に行くときはジェットバスがないところ、清潔かつ小規模な施設を選ぶようにしています。)

日本は高齢化社会ですし、温泉好きの人も多いので、こういうソリューションの需要はかなり高いんじゃないでしょうか。

温泉施設でレジオネラ菌に集団感染 広島県

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。