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イスラエル工科大学(テクニオン)名誉フェロー IRI 藤原洋氏

日本人初のテクニオン名誉フェロー、IRIの藤原洋氏がイノベーションを語る(1)

2018.02.05

Updated by WirelessWire News編集部 on February 5, 2018, 11:42 am JST

日本人には、まだあまりなじみのないイスラエル工科大学(テクニオン)に、2016年4月、インターネット総合研究所(IRI)の創業者である藤原洋氏が研究センター「The Hiroshi Fujiwara Cyber Security Research Center」を開設した。インターネットの創成期から、その技術・ビジネス両面で先頭を走りつづける、アントレプレナー藤原氏に、「イスラエルに研究センターを開設した思いと狙い」を存分に語ってもらった。2回に分けて掲載する。

テクニオンとはどんな大学なのか?

テクニオンは、1912年に設立されたイスラエル最古の国立の技術大学であり、かのアルバート・アインシュタインが大学設立の中心人物です。また聞きではありますが、アインシュタインは、ドイツに居るユダヤ系の研究者が研究を続けられるのかどうかという点に、不安を感じていたらしいのです。そのために、ユダヤ人にとっての故郷である今のイスラエルの地に大学を作ることにある種の使命感を持っていた、と聞いています。

私は、元々宇宙物理学をやっていたので、アインシュタインが奔走した、というのがとても心に響きました。実際、ナチスの迫害が始まり、ヨーロッパ各地や旧ソビエト連邦から、約10万人の科学者、技術者がテクニオンに集まるようになりました。いわば、ユダヤ民族のハブの役割を果たしているのです。

全ノーベル賞受賞者の約28%はユダヤ人、といわれていますが、テクニオンでも現役のノーベル賞受賞者が教えています。米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)を一つのリファレンスとしていますが、MITと異なるのは、医学部と病院があることです。臨床研究ができ、バイオサイエンス分野が強いのです。アルツハイマーの特効薬の原理を見つけて、ノーベル賞を受賞した人もいます。テクニオンは、企業にとって優れた研究者の輩出機関である、といえます。

日本とイスラエルとの橋渡しをしたい

マイクロソフトやGoogleなど多くの一流企業が、テクニオンの卒業生を囲い込むために、近年多額の寄付をしています。一方で、日本は、ベンチャー投資などはやっているものの、産業界、特に情報通信業界は、あまりイスラエルとのコネクションがありません。われわれIRIは、日本とイスラエルとの橋渡しをしたい、と思っています。われわれ単独でというよりも、業界の方々に声をかけて、業界全体として進めていきたいのです。お声がけした通信会社のトップは、研究開発人材、特にサイバーセキュリティ関係は受け入れたい、と仰っていました。

イスラエル工科大学(テクニオン)名誉フェロー IRI 藤原洋氏

私は、今年(2018年)6月に、テクニオンから日本人として初めて名誉フェローを授与されることになりました。授与式というものがあるので、大勢の皆さんにお声がけして「一緒に行きませんか?」と呼びかけているところです。イスラエルへ行ったことのない方々を連れて行くことも「橋渡し」のきっかけになると考えています。

学生はアントレプレナー志向

テクニオンのもう一つの特徴は、学生の3/4はアントレプレナー志向、ということです。そのうちの1/4が実際に起業し、残りはGoogleなどのトップ企業に就職します。実際、テクニオンOBが作った企業でNASDAQに上場しているのは、現在70社を超えています。イスラエル発のベンチャー企業の実に57%はテクニオン発だといわれています。イスラエルには他にも、ベングリオン大学、テルアビブ大学、ヘブライ大学といった一流の大学がありますが、テクニオンはこの点で突出しています。

イスラエル工科大学(テクニオン)名誉フェロー IRI 藤原洋氏

なぜこのような起業ができるかというと、非常に進んだベンチャーキャピタルの環境がイスラエルにはあるからなのです。イスラエルは、GDPと比較したベンチャーキャピタルファンドの組成額はダントツで世界一で、米国の2倍近くになります。具体的には、5000億円のベンチャーファンドが人口860万人の国にあるのです。

日本にも、合計約2000億円のファンドがありますが、そのうち半分はシリコンバレーなどの海外に投資しています。イスラエルのベンチャーキャピタルは、100%イスラエル国内に投資しているため、アントレプレナーが育ちやすいのです。この部分のリーダシップを担っているのがテクニオンなのです。

教育の質(学生の質、教授陣の質)も非常に高いレベルにあります。テクニオンに留学してきた米国の学生がメンタルをやられてしまった、という話も聞きました。よくいわれることですが、ユダヤ人はあらゆることについて「なぜ?」と突き詰めます。学生も、教授もお互いに徹底して「なぜ?」で、疑問が解けるまで質問合戦が終わりません。米国人でさえ耐えられないほどなんだそうです。

日本人は、質問をする前に「こんなことを聞いたら恥ずかしいのではないか」と考えたり、「偉い教授にはくだらないことは聞くものではない」と考えるような傾向がありますが、イスラエルでは全く違うのです。「質問をする」というのは、理解を深めるための最も大切なアプローチであるはずで、やはりこの「なぜ? なぜ?」はユダヤ民族の特徴なんだと思います。

セルゲイ・ブリン、ラリー・ペイジ、マーク・ザッカーバーグなどはユダヤ人で、自分が納得しないと前に進まないという人たちなのではないでしょうか。テクニオンの研究者と話をすると、必ず何か聞いてくる。「なぜ? なぜ?」文化の結集がテクニオンになっているのです。

なぜ Cyber Security Research Centerなのか?

今回、テクニオンの中にCyber Security Research Centerを作ったのは、サイバーセキュリティはイスラエルを代表する「強い」テクノロジーだからです。ただし、「サイバーセキュリティ」はある種シンボリックなテーマだと考えて欲しいですね。テクニオンでは様々な技術を研究しており、Deep Learningも、IoTのセンサーネットワークも、Big Data解析もあります。それらが結集して、先進的なサイバーセキュリティ技術が生まれるのです。

なぜイスラエルのサイバーセキュリティが強いか、という点は既に多くの人が語っていますけれど、私は次の4点が重要だと思っています。

1. 国の規模が小さい
2. 徴兵制がある
3. 研究開発型ベンチャーのためのエコシステムがある
4. 外部脅威への危機意識が強い

徴兵制に関する一つのポイントは、最初の6ヶ月間の基礎訓練です。男女共に18歳で兵役につき、最初の6ヶ月は同じ釜の飯を食って厳しい訓練を受けます。その中で、生涯の仲間になるくらいの「濃い関係」ができるようです。さらに、最優秀な人材を活かすための仕組みが二つあります。数学・物理の優秀な人材のためのプログラム「タルピオット」と「8200部隊」という諜報機関です。優秀な人材はこのどちらかに配属され、キャリアパスとしても評価されます。

8200部隊出身者は、一流企業に良い条件で就職も可能ですし、ベンチャーキャピタルの支援により良い条件で起業ができるようです。8200部隊は南のベエル・シェバにあり、イランの原子力施設を攻撃したワーム「スタックスネット」にも何らかの関与をしたかもしれないといわれています。防御もするが攻撃もする、攻撃の技術が高いからこそ防御ができるのですね。イスラエルのサイバーセキュリティ能力が高いのは、表立ってはいわないにせよ、トップクラスの攻撃能力を持っているから、に他ならないのです。このような経験をした人材が、兵役終了後、テクニオンに集まってくるのです。

※後半は、エコシステムとオープンイノベーションについて語ってもらいます。

イスラエル工科大学(テクニオン)名誉フェロー IRI 藤原洋氏

Hiroshi Fujiwara Cyber Security Research Centerとは?
イスラエル首相府、Israel National Cyber Bureauとインターネット総合研究所代表取締役 藤原洋博士の支援で2016年4月に発足。本研究センターでは、様々な学部の教授・研究者が、グローバル企業とのコラボレーションの下、コンピュータ化された様々なシステムに関する弱点とその保護の方法を研究している。主な研究分野としては、ソフトウエア・ハードウエアの保護、OSのセキュリティ、クラウドのセキュリティ、IoTセキュリティ、コンピュータ・ビジョン、暗号と暗号解読、医療および航空システムに関するセキュリティなど。これらの研究に助成金を出すとともに、国際会議などを通して成果の普及にも取り組む。

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