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イスラエル 技術 構造 イメージ

イスラエルの技術的優位性を支えるもの

Israel's technology strength

2024.01.26

Updated by Mayumi Tanimoto on January 26, 2024, 12:01 pm JST

イスラエルとハマスの紛争が始まってそろそろ3カ月になりますが、どのように収束するかは見えていません。ニュースで目にする映像において目立つのが、イスラエルの軍事技術です。

イスラエルは先日、長距離迎撃システムであるArrow 3を使用しました。Iron Domeはレバノンやガザから頻繁に発射される短距離のロケットからイスラエルを防衛しています。Iron Beamはレーザーによりイスラエルを防衛します。このような迎撃システムは1980年代から開発され、アメリカから年間数十億ドルの軍事援助を受けています。また、イギリスを始めとする欧州各国はイスラエルへ武器や部品、技術を提供しています。

このような強大な軍事技術を持つイスラエルのテック業界は世界でもトップレベルであり、シリコンバレーに次ぐ2番目の規模といえます。さらに、イスラエルの総雇用の14%、国内総生産(GDP)の5分の1を占めています。

日本の人は忘れがちですが、IT技術の多くは元々軍事技術であり、軍事に投資する国のテック企業の強さは軍事力と深く繋がっています。イスラエルのこのテック業界の大きさとスタートアップの多さは、国益による需要を背景としています。

イスラエルが技術を重視するに至った理由は、1948年のアラブ・イスラエル戦争で人口の10%近くの国民を失ったことに遡ります。軍事的優位性を保つためには、兵士の数だけでは勝つことができないため、人的資源を強化し、技術力を高めて軍事的優位性を保つほかなかったのです。

イスラエル自体は小さな国で、国民の数が多くはないために人員損失は大きな痛手になります。人的資源への投資を決めたイスラエルは、「アカデミック・リザーブ」と呼ばれるプログラムを準備し、高校生総数の1パーセントは兵役を免除するかわりに学位の取得が奨励されます。

政府は戦略的にテック・スタートアップへの投資を行っており、イスラエル国防省の兵器開発部門の元責任者であるイサク・ベン・イスラエル氏によれば、96%のスタートアップが失敗する一方で、失敗は責められることはありません。それどころか、有望なスタートアップは最大で30万ドルまでの返済義務がない起業初期の資金(シードマネー)を政府から受け取ります。

最近では特に、サイバーセキュリティとAIへの投資を重視していますが、これはセキュリティが諜報活動において重要な地位を占めること、またAIが自動化を推進することが理由です。

イスラエルは、常に国民が「共通の脅威」にさらされており、単なる商業的利益よりも生存という大きな課題があることが背景にあるため、技術への投資に対する障壁がありません。安全保障が最優先となるため、有望なスタートアップの発掘や起業の支援にも障壁がなく、福祉や娯楽に先んじて安全保障を優先しなければならないという「理由」が存在するからです。

さらに、技術の取捨選択では「すぐに使え」「実際に効果があるもの」という極めて現実的な視点があることも重要です。生存に関わるので意味があることにのみ投資します。非常にシンプルで分かり易い順位付けです。

開発された技術は自国内ですぐにテストができる、という環境も大きいでしょう。このようなイスラエルのシビアな技術投資の現実から日本は学ぶべき点が多くあります。

まず、少子高齢化の日本ではイスラエルと同じく人材は量より質であることです。「考える」教育を若者に提供し、金銭的な支援も提供することです。日本は、人材育成を家庭や民間に押し付け過ぎています。これでは国は豊かになりません。

次に、国が支援する技術分野は「実利性が高いもの」であるべきです。利権やぼんやりしたイメージで選んでいる余裕はありません。DXで効率化、などという悠長な事を言っている暇はないのです。

第三に、隣国からの脅威にさらされる日本は、軍事技術に投資し、イスラエルのように自国を自分で守る事を進めなければなりません。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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