地域独自の魅力は“地元密着英語”で伝えよ - インバウンド観光に向けた群馬県の取り組み
2018.11.28
Updated by 創生する未来 on November 28, 2018, 08:31 am JST
2018.11.28
Updated by 創生する未来 on November 28, 2018, 08:31 am JST
先進国のなかでも、まだまだ英語人材の不足が顕著な日本。2020年開催予定の東京オリンピックをはじめインバウンド事業が注目を浴びるなか、英語教育への熱が高まっている。特に、「ゴールデンルート」と呼ばれるインバウンドの定番エリアから外れた地方の観光地こそ、インバウンド観光に対応し、外国人観光客を獲得するために英語習得は必須課題と言える。だが、各一画的な接客英語を会得するだけでは、込み入った地方の特性を伝えることは難しいだろう。
そんな地方の英語課題を解決すべく、土地独自の観光・サービス業に特化した語学教材が、群馬県の大学教授の手によって開発された。
『おらが群馬でおもてなし英語』は、群馬県で観光・サービス業に従事し地域を支える人々が、英語での接客・接遇に挑戦できるように作られている。接客の現場では文法の知識よりも実際にコミュニケーションが取れることが重要であるため、なるべく文法用語を用いず、また文法的な説明を最小限にとどめるという方針のもと、日常的な表現や決まり文句を実際的な会話で紹介することを重視している。
また、単に英語で接客・接遇を行うだけでは十分なインバウンド対応とは言えない。インバウンド観光で重要なのは、その土地の文化や歴史の魅力をどれだけ伝えられるかであり、日本を訪れる外国人観光客がもっとも求めている価値のひとつでもある。
そのため、『おらが群馬でおもてなし英語』では、群馬県の各観光地それぞれが背景にもつ歴史的変遷、文化的変容に関しても日本語と英語の両方で書かれたエッセイを掲載。
例えば、群馬県の特産でもある養蚕文化を始め、富岡製糸場やそこで働く工女が群馬県の発展、日本の近代化を支えたことを英語で示したり、全国的にも有名な伊香保温泉では、1576年に真田昌幸によってつくられた本線石管を使って今なお源泉が各旅館に運ばれているといった歴史あるエピソードを紹介するなど、群馬県に住まう人自身がその地の歴史や文化の価値に気づく仕掛けも施されている。
群馬県には自然や温泉などの観光資源が多くあり、従来から外国人観光客が頻繁に訪れる観光地だ。加えて、平成26年の富岡製糸場と絹産業遺産群の世界遺産登録を機にこれまでにないインバウンド観光の盛り上がりを見せている。この観光需要の高まりにあわせ、飲食・宿泊業従事者や観光ガイドなど地域社会で観光を担う人々の間では英語による接客・接遇に対応できるインバウンド人材の育成が課題となっていた。
『おらが群馬でおもてなし英語』を開発した高崎商科大学は、平成25年に文部科学省の補助事業である「地(知)の拠点整備事業」に採択されて以来、若者人口の減少や高齢化による中心市街地の衰退など、沿線の抱える課題に対して、「観光まちづくり」とそれを担う「人材づくり」という視点から、高崎市や富岡市などの自治体と連携し全学的に地域を志向した教育・研究・地域貢献を推進してきた。
今回、渡邉教授が開発した教材『おらが群馬でおもてなし英語』は、大学の語学教員が地域課題の解決に語学という面からアプローチした成果という性格を持っている。
群馬県では、富岡市内観光事業者を対象とし、『おらが群馬でおもてなし英語』を用いた英語講座も実施。
今後は、群馬県全体でインバウンド観光に対応できる人材を育成するための教材として、また観光業界を目指す高校生・大学生向けの教材としての活用を視野に入れ、利用者の意見を取り込みながら継続的に改良を行っていくという。
『おらが群馬でおもてなし英語』は、基本的に群馬県内でしか活用できないうえに、土地の人間にしか価値がない英語教材という点で、非常にマニアックでユニークだ。
しかしインバウンド観光に向けた英語習得の目的を、接客ではなく、土地ごとの具体的な特色を伝えることに置いた英語教材というアイディアは、ほかの地域でも充分に活用可能だろう。
訪日外国人も日本に来るのが2度目以降となるリピート層が増え、よりディープな「その土地ならでは」の体験を求めている。県なら47、もっと細かく分ければ数百数千。土地ごとの魅力を英語を通じて掘り起こし、体験してもらうことで、地域は世界にファンをつくることができるはずだ。
(文:齋藤玲乃)
参照:インバウンド観光に対応できる地域グローバル人材の育成 接客コミュニケーションから歴史・文化解説まで対応した語学教材 高崎商科大学 渡邉美代子教授『おらが群馬でおもてなし英語』発行(プレスリリース)
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