「SDGs」をハッカソンで地方創生のアクションに落としこむ - 白山市×金沢工業大学(KIT) SDGs未来都市ハッカソン
2019.03.08
Updated by SAGOJO on March 8, 2019, 23:30 pm JST Sponsored by 金沢工業大学
2019.03.08
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2015年に国連で採択された、地球上のすべての人類が2030年までに達成すべき目標「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」。最近では日本政府も本格的に旗を振り始め、メディアで取り上げられる機会も増えたので、耳にしたことのある読者も少なくないだろう。
2018年度、石川県の山奥に新しくオープンした「金沢工業大学白山麓キャンパス KIT Innovation Hub(地方創生研究所イノベーションハブ)」の地方創生のビジョンについて、以前紹介した。実はその金沢工業大学(以降 KIT )は SDGs に対して、2017年から「特定の教員や学生による研究・活動に留まることなく、学部・学科を超えた全学体制」で取り組むことを打ち出し、第1回「ジャパンSDGsアワード」SDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞を受賞している。そして折しも、KITイノベーションハブ を擁する石川県白山市が2018年6月に「SDGs未来都市」として内閣府より認定を受け、両者は連携しながらSDGsの実現に向けて動き出した。
しかし「SDGs」の日本での認知度は*約15%程度。世界20カ国・地域の平均認知率が約52%であったのに比べても、低さが際立ってしまっている。理念としては立派でも、国連が定め、内閣府が旗を振ったということで、「お上のお達し」的な目標となってしまって、民間企業や個人の意識が追いついていない側面は否めない。(*2018年4月4日発表 電通調査より)
今回紹介するのは、2018年9月13日〜15日に白山麓の KITイノベーションハブ で開催された「白山市×金沢工業大学(KIT) SDGs未来都市ハッカソン」。ここには、SDGsという一見「遠大な」目標を、地域が具体的なアクションに落としこんでいくための知恵が詰まっていた。
「白山市×金沢工業大学 SDGs未来都市ハッカソン」の参加者は白山市とKITの取り組みに興味を持った県内外の企業、KITの学生が約30名ほど、KITが招聘したメンターや講師なども含めて総勢40名が集まった。
とはいえ、ハッカソンに集まったのはSDGsの専門家ではなく、学生や、営利企業で働く人々だ。「SDGs」に対する理解という意味では読者とそう変わらないだろう。
そこで、今回のハッカソンは、参加企業や団体の自己紹介、白山市SDGs未来都市のコンセプトの趣旨や、白山市の持つリソースや課題についてのインプットを経た後、ハッカソンに移る前に、SDGsの課題を解決するためのアイデアをカードの組み合わせから考えるゲームを行った。ゲームを使うことで、参加者たちのSDGsに対するリテラシーを自然に高めよう、という狙いだ。
実は、このときに使われた SDGsカードゲーム「X(クロス)」それ自体が、金沢工業大学で社会解決型ビジネスの研究を行う平本督太郎研究室の学生と金沢工業大学と株式会社リバースプロジェクトが共同で開発したものだ。
ゲームを始めると、会場のあちこちで笑い声が起こるのがわかる。SDGsへの理解を深めるだけでなく、ハッカソンのアイスブレイクとしても機能し、その後のハッカソンで参加者の自発性を引き出す仕掛けとして見事に機能した。
SDGsカードゲーム「X(クロス)」は、クラウドファンディングでの資金調達を経て、だれでも無料でダウンロードすることが可能になっている。興味のある方は、ぜひプレイしてみてほしい。
SDGsは2030年をターゲットにした世界共通の目標だが、それだけに、現時点ではそれを具体的かつ、長期的なアクションに落とし込めている個々のプレーヤーは多くない。それを変えようとする時、当イベントでファシリテーターを務めた金沢工業大学 産学連携局 福田氏の「SDGsという大きな射程を持つ目標を前にしたとき、人は「勉強してから動こう」と考えがち」という言葉はヒントになるかもしれない。
ハッカソン前の導入で行われたSDGsカードゲーム「X(クロス)」と同様に、ハッカソンという手法も、参加者が完全な知識や解決策を持っていることを前提にしない。それはイベント内の手法にとどまらず、実際にSDGsに向けたアクションを考えるときにも有効な考え方だ。
SDGsは17の各カテゴリごとに目標があるが、あるプレーヤーがすべての目標を達成しようと考えると非常に難しく、動きが取りづらくなってしまう。すべての課題を解決する完璧な解を求めようとするのではなく、個々のプレーヤーが持っているリソースやメンバーを最大化して、できるアクションを考える。そのために最適なのが、カードゲームであり、ハッカソンというわけだ。
ハッカソンであれば、主催者が考えるべきは参加者がアイデアを出せる機会をつくることと、その場の進行をするだけだ。市民や企業・地域、立場も能力も異なる人々が集まって活発に意見を交わせば、化学反応が生まれ、必ず面白いアイデアが出てくる。面白いプロジェクトのアイデアが生まれると、ストーリーを共有しているその場に立ち会ったメンバーはそのままプロジェクトの主体として巻き込まれてゆく。主催者は、そのプロジェクトが具現化するためにサポートすることにエネルギーを注ぐ。それが今回、ハッカソンを主催した白山市と金沢工業大学が取った方法だった。
ハッカソン期間は2泊3日。参加者がプロジェクトのブラッシュアップをしている間、このイベントを主催した白山市職員の方に、どんなプロジェクトが生まれてほしいかと聞いてみると「地域資源を経済に変えていくアイデア」という返事だった。
白山市とKITがSDGsのプロジェクトを行う舞台として考えている白山市南部白峰地区は2017時点で人口827人の里山だ。人口も、経済規模も極めて小さい。もちろん新しいアイデアが生まれるのはうれしいことだが、そのアイデアを実現させるために地域がさらに体力を削られてしまうと、プロジェクトが持続できなくなるばかりか、もともと弱っていた地域の致命傷になってしまうことすら考えられる。そのため、地域の体力を使って動かすプロジェクトよりも、外部プレーヤーも参画しながら、なるべく早期に地域の資源を経済へと還元していくアイデアが求められる、ということだった。
白峰地域のような里山にとって、プロジェクトの担い手不足が深刻で、早期に地域に価値を還元できないようでは長続きしないというのは、目を背けてはいけない現実だろう。もちろん簡単なことではないが、地域のリソースを消耗させることなく地域に価値を還元することができれば、それは全国の地域に応用可能なモデルになるはずだ。
ハッカソンに参加していた企業の方にもお話をお伺いした。株式会社 楽天AirMap プラットフォーム企画部の久住さんに、学生と一緒にプロジェクトを考えることになった時に感じたメリットを聞いてみると、「枠にとらわれないアイデア力もさることながら、具体的にこれをやりたいと決まっている子が多いので、話が進みやすかった」と話してくれた。
ハッカソンという場ではもちろん、実際のアクションに落とし込む場においても、アイデアを「発散」するばかりではなく、具体的なプランに落とし込んでいく「収束」の動きがスムーズにできることが重要だ。そんな時、理屈を超えて、「面白い」「やってみたい」という感覚で具体的にやりたいことがある若者の存在は推進力になりうる。久住さんも、何か面白いプロジェクトが発足すれば、ぜひ会社としても取り組みたいとのことだった。
ハッカソンは3日目の午後、各チームのプレゼンテーションの場で、白山の自然を活かした、合計9つのプロジェクト案が発表された。水や土地をセンサーによって定量的に可視化するサービスや、イノシシなどの害獣を察知するサービスと婚活をつなげるなど、ユニークなアイデアも。
発表されたプロジェクトに対して、株式会社サイボウズなどのメンターや白山市職員が審査を行い、プロジェクトの実装に向けてさらなるアドバイスが送られた。
今回のハッカソンではKIT イノベーションハブは白山市と産業を繋ぐまさに「ハブ」として機能した。しかし今後、実際にプロジェクトが動き出した時も、白山市は、KITという教育・研究機関と連携して取り組んでいく考えだ。教育・研究機関は地域行政に比べるとしがらみが少ないため、KITが企業と地域の橋渡し役として入ることで、スピード感を持ってプロジェクトを進めることができるというわけだ。
今回のハッカソンでは、ユニークなアイデアとそれを一緒に考えた仲間が集まった。次は、そのアイデアを実現させるために動く番。里山都市計画は二泊三日の間、議論しあった仲間も巻き込みながら、さらなるステップへと進む。実際に現在、ハッカソンで発表されたいくつかのプロジェクトは実装へ向け、進行中だ。進行しているプロジェクトについては、今後も引き続き、レポートしていきたい。
(取材・執筆 白川 烈 / 編集・写真 スガ タカシ)
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