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紅葉狩りのつもりが冬山登山に「立山中高年大量遭難事故」の教訓

2024.09.17

Updated by WirelessWire News編集部 on September 17, 2024, 15:17 pm JST

山岳防災気象予報士の大矢康裕氏が、JRA-55(気象庁55年長期再解析)にある過去の気象データを使い、過去の山岳遭難事故の起こったときの気象条件や遭難の原因を紐解き、将来の遭難リスク回避に役立てるための連載「過去の気象解析データで山岳事故をなくせ」。今回は、1989年10月8日に起こった立山中高年大量遭難事故について語ってもらった。聞き手は気象予報士の資格を持つサイエンスライターの今井明子氏。

今井明子(以下、今井):今は紅葉を目当てに登山する人が多い季節だと思います。今回取り上げる立山中高年大量遭難事故はどのようなものだったのかを教えていただけますか。

大矢康裕(以下、大矢):この事故は1989年の10月8日に起こりました。北アルプスの立山付近は9月の中旬から10月の中旬頃までが紅葉の見ごろで、紅葉目当てで登山する人がたくさんいます。この時期に、京都や滋賀の税理士を中心とした10人のパーティーが標高約2450mの立山の室堂という場所からスタートし、立山から剱岳にまで行くという計画で登山をしました。

今井:室堂といえば、立山黒部アルペンルートと呼ばれる山岳観光ルートの中にあって、バスやケーブルカーなどの公共交通機関で行ける場所ですよね。私も春の名物である「雪の大谷」を見るために室堂まで行ったことがありますよ。20m近い雪の壁が圧巻でした。

大矢:そうですね。実は「立山」という山はなく、雄山・大汝山・富士の折立という3つの山を合わせた名称です。今回の登山ルートは、室堂から入山して一ノ越という峠を越え、雄山を通過し、北の真砂岳を通過し、別山乗越という峠から剣岳を往復し、室堂に戻るという計画でした。

この登山では、入山したときは晴天だったのですが、徐々に天気が下り坂となり、一ノ越に着いたときには吹雪になっていました。その先の雄山に着いた時点で標準コースタイムの2倍程度の時間がかかっていたんです。ここで引き返せばよかったのですが、そのまま登山を続行してしまいました。

真砂岳の手前には大走り分岐と呼ばれる場所があり、そこから室堂への下山ルートに入ることができるのですが、この分岐のところに来た時点で、歩けなくなる人が出ました。おそらく低体温症の症状が出たのでしょう。この時点で救助要請をしたのですが、結局、低体温症は悪化し、10名中8人の方が亡くなってしまったんです。

今井:痛ましい事故ですね。室堂のように交通の便がよく、ホテルまで建っているような場所から出発して、さほど奥山に分け入って登るような感じでもないのに、そんなに亡くなってしまうとは。

大矢:そうなんですよ。天気が良ければ、雄山は2時間半ほどで登れて、1時間半程度で降りられるはずの場所なんです。

今井:この日の過去の気象データを読み解くと、どのような気象状況だったのでしょうか。

大矢:では、まずは地上天気図を見てみましょう。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の前半部分です。
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