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「東京・春・音楽祭」でクラシック音楽とローカル5Gなどの無線技術が共演

2025.05.26

Updated by Naohisa Iwamoto on May 26, 2025, 11:08 am JST

東京の春をクラシック音楽で彩る「東京・春・音楽祭」。21年目となる2025年は、3月14日から4月20日にかけて東京・上野で開催された。オペラやオーケストラ、室内楽などの東京文化会館のホールでの演奏会だけでなく、上野ならではの美術館、博物館などで開催するコンサート、街角での音楽との出会いの場など、多様な形で音楽と触れ合うことができるクラシックの祭典である。ライブストリーミング配信の「ネット席」も提供してきたように、IT活用による音楽の楽しみ方の拡大にも積極的に取り組んでいる。

そうした東京・春・音楽祭2025では、会場となった東京文化会館やその周辺で、ローカル5Gと60GHz無線を活用する新しい試みが行われた。協賛パートナーのIIJとIIJエンジニアリングが構築したネットワークを活用した実用試験である。

1つ目のローカル5Gの活用では、メイン会場の東京文化会館の中に独自のネットワークを構築した。狙いは大ホール内でライブストリーミング用の映像を無線伝送することと、QRコードチケット読み込み端末の接続に利用することである。

▼実用試験に用いたローカル5G基地局

東京・春・音楽祭の開催時期は、ちょうど上野公園の桜が見頃となり、会場周辺で携帯キャリア通信網が輻輳するリスクが高い。また東京文化会館内は公演中に携帯電話抑止装置が作動するため、館内でキャリア網の利用が難しい。こうしたことから、運営スタッフ向けにWi-Fiに加えて専用ネットワークのローカル5Gを活用することになった。会期中には、ローカル5Gを利用して来場者のQRコードチケットの読み込み、確認を実施。また、大ホール内でローカル5Gを介してカメラ映像・音声の4K 30p 30Mbpsのアップロードを行った。ハイテクインターの機器を利用した試験を実施し、いずれも実用レベルであることが確認できたという。

▼iPhoneと専用アプリでQRコードチケットを読み込み

もう1つは、60GHz無線の活用。回線が敷設できない施設で高速通信を実現するユースケースだ。東京・春音楽祭の公演会場の1つとして使われる国立西洋美術館は、世界文化遺産に登録されている。文化財、建物保護の観点から有線ネットワークの構築が難しく、前述のように携帯キャリア通信網も輻輳のリスクが高い。そこで、高速通信が可能で、電波干渉が少なく、免許不要で使用できる60GHz帯無線技術の実用試験を行った。課題は、周波数が高いために障害物に弱く、見通しできる範囲に無線設備を設置する必要があること。今回は国立西洋美術館と東京文化会館の間の接続にパナソニックシステムネットワークス開発研究所製の60GHzブリッジを用い、IIJグループのノウハウを生かしたネットワーク設計により映像伝送に成功した。

▼60GHz無線機を使って、手前の国立西洋美術館から奥の東京文化会館に映像伝送

IIJおよびIIJエンジニアリングでは、東京・春・音楽祭で得た成果をもとに、コンサートやスポーツ、展示会などのインターネット環境構築に、ローカル5Gや60GHz無線が選択肢になるよう取り組みを進める。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。