December 1, 2025
中村 航 wataru_nakamura
1985年生まれ。福岡県福岡市出身。翻訳者。テクノロジーやファッション、伝統工芸、通信、ゲームなどの分野の翻訳・校正に携わる。WirelessWire Newsでは、主に5G、セキュリティ、DXなどの話題に関連する海外ニュースの収集や記事執筆を担当。趣味は海外旅行とボードゲーム。最近はMリーグとAmong Usに熱中。
私たちの脳は、生まれたときから老年期まで、一貫してゆっくりと変化するのではなく、「5つの異なる時代(エポック)」を通じて大きく作り変えられているーーそんな研究結果をケンブリッジ大学などの国際研究チームが科学誌『Nature Communications』に発表した。
私たちの脳は、子供の頃に急速に発達し、成人してからは年齢とともにゆっくりと機能が低下していくと一般的にイメージされている。しかし、精神疾患や認知症などが特定の年齢で発症しやすい理由に関しては、その根本が解明されていなかった。
そこで、研究チームはこの謎に迫るため、「脳の配線(神経ネットワーク)が劇的に変化するタイミング」に着目。0歳から90歳までの3800人以上の脳スキャン画像を分析し、脳内の水分子の動きを追跡することで、配線のつながり方を詳細にマッピングした。
その結果、脳の配線パターンは徐々に変わるのではなく、以下のような5つの「時代」に分けられることが明らかになった。
1.誕生〜児童期(0歳〜9歳頃)
人生で最もダイナミックな成長期。爆発的に神経接続が形成され、同時に不要な回路の刈り込みが進む。
2.思春期~若年成人期(9歳〜32歳頃)
ネットワークの再編が続き、脳全体のつながりが効率化される。知的能力や社会性の基盤が整う。
3.成人期(32歳〜66歳頃)
構造が最も安定する長い時期で、性格や認知能力が比較的確立された状態になる。
4. 前期高齢期(66歳〜83歳頃)
脳の白質(情報伝達部位)の劣化が始まり、ネットワークの結びつきが徐々に弱まる。老化の入り口となる段階。
5. 後期高齢期(83歳以降)
脳のネットワークがより局所的に働くようになり、広域的な連携が失われていく。
特に注目されるのは、脳の再編が30代前半まで続くという発見だ。従来の「脳の発達は20代前半でピークを迎える」というイメージとは異なり、学習や環境への適応がより長いスパンで進む可能性を示している。
この成果は、教育やキャリア支援の考え方に影響を与えるだけでなく、9歳、32歳、66歳、83歳という「転換期」に現れやすい課題(学習障害、うつ、認知症など)の理解と予防にも役立つと期待される。
参照
Topological turning points across the human lifespan
Brain has five ‘eras’, scientists say – with adult mode not starting until early 30s | Neuroscience | The Guardian
Scientists Identify Five Distinct Eras of Human Brain Aging | Scientific American
Scientists identify five ages of the human brain over a lifetime | EurekAlert!
Human brains have 5 distinct ‘epochs’ in a lifetime, study finds