──iPhoneとXperiaをはじめとするAndroid携帯の違いって、エクスペリエンスデザインを1社が完全にコントロールするのと、オープンマーケットでやることの違いで、言ってみればMacとWindowsの違いみたいな感じがしますよね。Macと比べるとWindowsはオープンでやることによって、サードパーティによるマーケットができるけれど、エクスペリエンスという意味ではMacの方が上手くてWindowsの方はちょっと弱いというか。
林 : そうですね。アップルの根本にある考えは、世の中の人々の生活に影響を与えようということだと思います。じゃ、そのために何をしたらいいか、と考えたら、もはやパソコンではなく、携帯電話が重要と言うことになってきた。何しろほとんどの人が常に持ち歩いているデジタルデバイスだからです。
アップルが全力を出して最高の携帯電話、人々を狂わせるような電話を作るとしたらどうなるかといったら、彼らはiPodで成功していますうから、iPodジェネレーションの人達が受け入れられるような携帯電話を作るしかない。だからそこにフォーカスしてやる。
日本のメーカーみたいに、ドコモ用に3機種、他用に3機種とか、そんなバラバラには作りません。うちが出すベストなものはこれ、と決めて、そこに全力を集中します。これからの時代はそういったことをやっていかないといけない。で、お金もかけて、全力も尽くしてつくったからには、それを、全力をかけて売る。1つの市場だけで売るなんてあり得ない。
1つの機種をグローバルに展開することにこそ意味があるのです。確かにiPhoneは、今、日本で一番売れている携帯電話ですが、日本でしか売っていなかったら、iPhoneはもっとずっと高い携帯電話になっていたでしょう。あれだけのソフトをつくっているからには、ソフトの研究開発費には、それなりに、おそらく日本メーカーより1桁か2桁かは違うお金をかけているからです。
でも、アップルはこのiPhoneを世界81カ国で展開している。1台当たりにかかるハードの製造コストは、あまり下がらないけれど、ソフトの開発費は、分母が大きくなればなるほど小さくなります。だから、アップルは、あの価格で、あんなに凄い製品を提供できてしまうのです。
──なぜ、日本の端末メーカーにはそれができないんですかね?
林 : 一つ重要なのは、日本のメーカーが「自分達、何の会社なの?」ってことがハッキリしないんですね。総合家電メーカーで、「主力製品は?」と聞かれても社員によって答えが違う。悪く言えば特徴がない。
メーカーに講演に行ってそういう話をして、「御社が全力を尽くして御社の携帯電話を作ってください」というと、みんな何のことだか分からなくてポカンとしているんです。でも、「御社が任天堂だったらどういう携帯を作りますか?」と聞いたら、みんなはっとした顔をしてDSフォンを想像しはじめる。
日本のメーカーで言えば、任天堂ぐらい自社のキャラが立ってないと、「自分の会社というのは社会においてどういった位置付けにある会社なのか」ということが分かってない。だから、「全力で」といわれたってどこに力を集中すればいいのかが分からない。
例えばソニーだったら、技術のソニーだといって最先端のテクノロジーに走る人がいれば、ソニーはデザインだといってそちらに走る人もいる。てんでばらばらで、同じベクトルに力が集中されていない。そこがアップルと他の違いだとおもう。
そして、端末メーカーだけじゃなくて、チップメーカーでも同じことが起こっています。インテルの何が強いかっていうと、インテルの取締役の人達って、技術の人がいるわけではないんです。「たぶん10年後くらいには、いちいち書斎に行ってパソコンの前に張りつくのは嫌だし、インターネットはソファーで座ってやってるんじゃないの」といった、ライフスタイルを議論している。
「ソファでインターネットをやるのに何が必要なのか」「Wi-Fiは必要だけれども、でも、Wi-Fiだけでなくて、もしかしたらブルートゥースも必要かもしれない」「じゃ、Wi-Fiとブルートゥース、全部ワンチップになったらいいな」と、そこでそういうチップのアイデアが出てきて、実際にそういったライフスタイルが出てくる5年くらい前にチップ化して、マーケティングして、そういった生活を広げていこうということを、マイクロソフトを巻き込んでやっていく。
生活に根付いたビジョンとかとそれを実現するための自社のアセット、そういったものを理解したうえで、そこにフォーカスして、自分の信じる道を人に押しつけていく力がないと、できないことです。
文:林 信行
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