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ウエアラブル時代、東京オリンピックに向けたネットワーク作りのカギは「異業種連携」にあり――エリクソン首脳に聞く

2014.03.04

Updated by Naohisa Iwamoto on March 4, 2014, 16:15 pm JST

スマートフォンが急速に増加したとき、ネットワークはデータトラフィックの増加だけでなくシグナリングの増加への対応に追わた。通信事業者は度重なるサービスのトラブルに見まわれ、顧客に頭を下げるシーンも多く見られた。その要因となったスマートフォンの伸びは落ち着きを見せてきているが、今後の見通しとしてウエアラブル端末やM2Mなど新しい通信機器が増える可能性は高い。そのときにネットワークを提供する側はどのような備えをすればいいのだろうか。スペイン・バルセロナで開催されたMobile World Congress 2014(MWC 2014)で、エリクソンの戦略およびポートフォリオを策定するエリクソングループ戦略担当役員補佐のMikael Bäck氏に、ネットワークの将来展望を尋ねた。

20140304_ericsson001.jpg――スマートフォン急増の際のシグナリング問題から、得た教訓はありますか?

Bäck:これまでエリクソンでは、シグナリングの問題に広く取り組んできました。アメリカでスマートフォンが入ってきたとき問題になりましたし、日本でもそれから遅れて問題が広がりました。

エリクソンはこうした問題に直面したことから、「スマートフォンラボ」を設立しました。ここでの研究は通信事業者だけを対象にしたものではなく、ソフトウエアベンダーやデバイスベンダーも対象です。フェイスブックとの協力関係もありますし、多くの企業がコンピューター業界からラボに関わってくれました。

従来のソフトウエアベンダーには、携帯電話や無線インタフェース、シグナリングなどに対する知識・能力がない場合が多かったのです。パソコン向けのアプリケーションをそのままスマートフォンで使い始め、有線のインターネットと同じようにデータやシグナリングのトラフィックを発生させました。ネットワークに高い負荷を与えただけでなく、端末側のバッテリーも減るといった問題が多く発生したのです。

そこでエリクソンでは、iPhoneがAT&T に導入された7年前ほどから、スマートフォンの能力やOSの動き、アプリケーションの動きなどを、ソフトウエアベンダーに教示することに取り組んできました。

通信事業者側の対応も必要です。シグナリング問題の具体化は日本でも起こりましたがかなり遅い時期となった印象です。ソフトバンクモバイルはiPhoneの導入が早かった分だけ準備する時間がありましたが、NTTドコモとKDDIはスマートフォンへのシフトが遅かったため急速に対応を迫られました。無線ネットワークの問題ではなくIPネットワークに問題の中心があったため、パケットコアネットワークがシングルベンダーでコントロールしやすい状況の通信事業者のほうが速やかに対策をとれたと考えています。

――このような経験を踏まえて、今後の新しい端末にネットワークが対応するための方策を教えて下さい。

Bäck:こうした経験は、将来に向けた警鐘となります。明らかなことは、もはやネットワーク側だけ取り組んでいてはダメだということです。M2M、ウエアラブルといった端末を使ったサービスを提供する会社のニーズを知る必要がありますし、エンドユーザーに対する理解も必要です、

その役割をスマートフォンラボが果たしてくれています。ソフトウエアソリューション、スマートフォンOS、アプリケーションなど、さまざまなベンダーとラボで一緒に仕事をしているのです。世界に複数あるスマートフォンラボのうち、シリコンバレー(サンノゼ)のラボの周囲にはスマートソリューションのプロバイダーが数多くいて、連携が取りやすくなっています。

進んだソリューションがいち早く登場する日本も高い関心を持っています。日本はスマートデバイスのプロバイダーという意味でも力強い業界があります。新しいソリューションや端末への対策は、ネットワーク機器ベンダーや通信事業者だけでなく、それらを取り巻く人たちと連携して行っていく必要があるのです。

――将来のソリューションや新しい端末は、ネットワークにどのような要件を求めると考えますか。

Bäck:4Gや5Gという通信方式の進化もありますが、大切なことは10倍に増える端末をさばく必要があるということです。それも少ないレイテンシー(遅延時間)で通信する必要があります。高いピークレートだけではダメなのです。

少しかみ砕いて説明しましょう。2020年には、東京オリンピックが開催されます。それに向けて、自動運転車の実験が進められています。自動運転車が外部のインフラとやり取りをして制御するとしたら、ネットワークの信頼性は今よりも高いものが必要で、低いレイテンシーが確保出来なければいけません。ネットワークの性能が、安全に直結するからです。自動車などさまざまな機器をネットワークに接続するコネクテッドデバイスに向けたネットワークには、PCやスマートフォンよりも高い要件が求められるのです。

また、ユビキタスのカバレッジも必要になります。屋内でも地下鉄の駅でも、郊外に行っても電波が届かないといけません。すでに、日本はカバレッジという面ではかなり進んでいると思います。アメリカよりも優れているでしょう。

しかし、非常に高い容量のネットワークを提供するには高い周波数が必要になります。高い周波数は直進性が高く、距離も遠くまで届きません。屋内浸透性が低くなってしまうのです。屋内カバレッジに関してエリクソンは「Radio Dot」というシステムを提供しています。非常に高いパフォーマンスを保って、屋内カバレッジを提供できるシステムで、屋内ソリューションの将来のネットワークを担保するシステムと考えています。また、Radio DotはHetNetの構築が可能なことも特徴です。屋内と屋外のネットワークが相互に連携して、最適なカバレッジを作ることができます。

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――ビデオのトラフィックに対してはどんな対策がありますか。

Bäck:日本はモバイルテレビのソリューションを早くから実施しています。データトラフィックを使わずに、ワンセグなど地上デジタル放送によるビデオを、端末が直接受信できるわけです。

将来的にネットワークのトラフィックのドミナントな要素はビデオになると考えられます。そこで、メディアやビデオのデリバリをネットワークシステムの中で実現することに取り組んでいます。高い解像度のビデオソリューションが、家庭からモバイルへと場を広げるのです。そのときに、必要になるのは「放送」的な考え方です。エリクソンは昨年、LTEの電波の一部を放送のように利用する「LTEブロードキャスト」の実験をベライゾン、クアルコムと共同で行いました。スーパーボールの決勝戦という、同じ試合のビデオを多くの人が同じ場所で見るケースで、際立ったキャパシティがあることを実証しました。

オリンピックでも同じような条件が考えられ、データトラフィックによるビデオのストリーミングは困難が増していきます。2020年、東京オリンピックを考えると「LTEブロードキャスト」も含めて、限定的なエリアのサービスで多くのチャレンジがあると考えます。今から、オリンピック開催時のニーズに備えておくことが必要ではないでしょうか。

――今後のネットワーク構築に重要になるポイントを教えて下さい。

Bäck:まだ、ドミナント(支配的)な端末はスマートフォンですが、
トレンドシフトによりクルマや家電などと接続するデバイスが急ピッチで出てきています。ネットワークは、高いキャパシティ、高い信頼性で、人がいるところにすべてに提供する必要があるということです。

エリクソンが考える今後のネットワークは、高いピークレートだけではなく、極めて高い信頼性、広いカバレッジ、低いレイテンシーが求められます。こうした要件を満たすには、複数の周波数帯域をアグリゲーションする必要があります。そして、ネットワークにはどんな周波数を事業者が使えるようになってもすぐに対応できるような柔軟性が求められます。

20140304_ericsson002.jpgIoT(Internet of Things)が進むと、ネットワークには500億ものコネクテッドデバイスが接続されると予測されます。ネットワークの要件はさらに多くのものが出てくるでしょうし、データセンターでも多くのデータをさばく必要があります。

そうした世界では、ネットワークは非常にグローバルなものになると考えます。アプリケーションは、ローカルな違いがあって、日本とアメリカでも違うものが提供されるかもしれません。しかし、ネットワークは相当程度、世界で同じものになるでしょう。その上で、言語などローカル環境に適応しなければならない部分の対応が必要になるのです。

エリクソンは、テクノロジーリーダーシップとともに、世界の各地域におけるローカルのお客様にエコシステムを提供する「プレゼンス」が重要だと考えています。その中でも、テクノロジーが最初に起こるマーケットでプレゼンスを保つことが重要です。特に日本、そして北米、韓国といった先進マーケットのプレゼンスを維持しなければならないでしょう。これらのマーケットで起こる様々な新サービスや新端末などへの対応を組み合わせて、グローバルで要求されるネットワークをデザインしていきます。これは、デバイスのエコシステムに取り組む上でも、ネットワークのエコシステム上でも重要なポイントです。

最後に、エリクソンからのメッセージとして「ウエアラブル端末を作っているすべての会社は、エリクソンに来てください」とお伝えしたいと思います。エリクソンでは、新しいウエアラブル端末をネットワーク上でテストでき、ネットワークの要件を知ることができるからです。私たちエリクソンは、単に事業者向けのネットワークを構築するだけでなく、ソフトウエアやデバイスの先進ベンダーと一緒に、将来のネットワーク社会を作り上げていきたいと考えています。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。