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北米編(6)米国のユーザー、SMS、そして未来

2010.06.17

Updated by Michi Kaifu on June 17, 2010, 12:00 pm UTC

○ここまで5回にわたり、おもに業界という視点から米国市場を見てきた。今回は、米国事情シリーズの最後として、おもに「ユーザー動向」と「SMS」を中心に、米国のモバイル業界団体CTIAの統計などをもとに、米国市場の総括をしてみよう。

1. 成長はスローダウン

米国携帯市場の加入者数や売上の推移を見ると、近年は成長が鈍り、飽和に近くなっている様子が見える。現在、米国の携帯電話加入者数はほぼ3億人で、まもなく普及率100%に達する。

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出典:いずれもCTIA統計(PDF)をもとにENOTECH作成

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2. 「データ成長」の真実

クルマ社会の米国では、どこまで行っても音声が中心的な存在である、と信じられていた時代があった。米国では車の運転が生活時間の大きな部分を占め、運転中は他にすることもないため携帯電話でおしゃべり、というスタイルが米国の携帯電話商売の屋台骨を支えていた。近年は日本などと同様、ハンズフリー規制を導入する州が多くなってきているが、それでもBluetoothのイヤフォンをつけて話をしている人は多い。

1998年にアナログからデジタルへの移行が本格化して以来、加入者増大・容量増大・料金低下のすべてが寄与して、米国の携帯電話音声利用分数は順調に伸びてきた。しかし、2007年を境に全体市場がスローダウンし始め、音声の利用もこの年を境に伸び率が目立って鈍っている。

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出典:CTIA

2007年といえば、iPhoneが発売され、スマートフォン・ブームが新しい局面を迎えた年でもある。(北米編第四回参照)キャリアの売上のうち、データの売上が占める比率は年々ほぼ一本調子に伸びており、現在はARPUの30%程度をデータが占めるようになっている。Chetan Sherma氏によると、このペースが続けば、2013年半ば頃にはデータ売上が音声売上を追い越すことになると予測されている(参考資料)。

スマートフォンを契約すると、例えばスマートフォンの約半数を占めるブラックベリーならば、音声契約が最低限のパッケージで40ドル、データ契約が20ドルで、ちょうど30%程度になる。

とはいえ、スマートフォンの普及率はまだ全体の20%程度であり、全体のデータARPUが30%になるためには、それ以外のフィーチャーフォン・ユーザーもかなりのデータを使っている必要がある。日本のiモードのようなキャリアの提供するブラウザ・サービスもあるが、あまり普及していない。

では、そのギャップは何が埋めているのだろうか。

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3. 「謎のSMS」とショートコード

実は、マス・ベースでの米国のデータ(非音声)利用は、圧倒的に「テキスト・メッセージ(SMS)」が支えている。各キャリアともに、データ売上の詳細な内訳は発表していないが、各社のデータ売上の「かなりの部分」をSMSが占めていると推測される。SMSは電話番号とキャリア間接続を利用した「電話」の世界の仕組みの一部であり、ネットに接続する「データ契約」とは別の料金体系を持つ。(基本は一本20セント、ただし割引プランあり)

SMSは、iPhoneアプリのような上位層展開可能性があまりなく、技術的な華がないためにメディアにもあまり取り上げられない。しかし、番号ボタンだけのフィーチャーフォンでも利用でき、端末やキャリアを問わず、誰でも利用できるサービスとして、マス層ユーザーに支持され、またキャリアの中でも重要なサービスとなっている。その位置づけは、日本における携帯メールの重要性とほぼ同等になりつつある。

SMSといえば、欧州およびGSM圏新興国のもの、というイメージが定着しているが、実は2007年以来の米国でのSMSの成長率は驚くべきものがある。

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出典:CTIA、Cellsigns、ENOTECH

データが不完全で恐縮だが、ここ数年は一年に倍以上といったペースで送信量が増えていることがわかる。

米国におけるSMS利用がブレイクしたのは、北米編第四回で紹介したように、2001年から始まった「アメリカン・アイドル」のテレビ連動投票と、2003年の「CSC(Common Short Code)元年」がきっかけと言われる。それまでは同一キャリアの中でしか送受信できなかったが、キャリア間接続と5桁の「ショートコード」を複数キャリア間で共通化する仕組み1を整えたために、全米の消費者を対象にした著名なマス商品の販促や人気番組でSMSを利用する事例が多くなった。

キャリア側の仕組み整備と並行して、端末側ではスマートフォンの普及、使い方としてはSMS経由でSNSへのアップロードの流行も追い風となり、2007年頃には音声のスローダウンをSMSを中心としたデータ売上がカバーする状況が定着した。

当初は、ティーンの間の流行現象(特に女の子が熱心に利用する)として話題になったが、現在では広い年齢層のユーザーにも使われるようになっており、2008年のニールセンによる調査では、54歳以下のユーザーは平均で毎月100本以上のSMSを送受信していると推計されている。ただ、現在でもティーンの間では圧倒的にポピュラーな「通信手段」かつ「カルチャー」となっている。(参考記事:朝から晩まで"テキスト"している米国の若者 - 10代のケータイ利用動向調査

日本ではSMSは、ランダムに番号を発生しやすくスパムの標的となったこともあり、キャリアはパソコンのeメールと相互通信のできる「携帯メール」へと早々に移行した。しかし、今のところ米国ではスパム問題は深刻になっていない。その理由はあまりはっきりしないが、(1)北米編第五回で紹介したように、番号体系が携帯・固定で共通であるため、ランダム発生では携帯に着信させられない確率が高く、「歩留まり」が悪い(2)業者にとっては料金が高い(割引プランでも一ヶ月1500本までで15ドル)、といった事情から、スパム業者にとって割が合わないからではないか、と筆者は推測している。

一方、最近は車を運転しながらSMSを打つ人が増え、非常に危険であることから、カリフォルニア州では「ハンズフリー規制」に加え、「運転中テキスト禁止」という法律まで作らなければならなくなった。また、ティーンの子供を持つ親にとっては、一ヶ月何万通というSMS中毒現象が深刻な問題となり、またSMSを使ったテストのカンニングや、「ネットいじめ」(cyber bullyという単語が存在する)といった、日本と同様の問題もある。親や先生の世代には理解しづらいからこそ、ティーンにとっては面白い、という現象は、いつの時代にもあるカルチャー・ギャップであろう。

▼2009年2月のCBSニュースで報道されたティーンの「テキスティング」の様子

  1. CSCAという団体が、ショートコードを使いたい企業からの希望を受付け、キャリアとの調整を行い、キャリアでは5桁のコードを本来の当該企業の受付電話番号(10桁)に読み替える設定を行う。http://www.usshortcodes.com/csc_about.html

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4. ケータイの新天地

米国でも、市場の飽和、音声ARPUの減少、データ利用量増加による周波数不足、などといった先進国共通の悩みを抱えているが、一方で、スマートフォンを中心としたデータ利用の本格普及はまだこれからであり、SMSも爆発的成長の真っ最中で、まだまだ伸び代がある。

また、通常の電話再販サービスとしての「MVNO」はほぼ壊滅状態ながら、その枠組を利用して、電子書籍や医療機器などの専用端末に無線を付加する仕組みが次の世代の新しいサービスの可能性として期待され、種々試されている。

スマートフォンだけでなく、米国の市場は「ケータイの新天地」を求めて、いろいろな方面で数多くのプレイヤーが試行錯誤を繰り返す、活気あるフェーズに入っている。

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海部美知(かいふ・みち)

ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
(ブログ)Tech Mom from Silicon Valley
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