WirelessWire News Technology to implement the future

by Category

[Deloitte Mobile Survey 2012 #6]アプリケーション活用の状況〜新興国は「ソーシャル先進国」

2013.02.05

Updated by WirelessWire News編集部 on February 5, 2013, 15:00 pm JST

はじめに

本稿では、本連載シリーズ最後の章として、携帯電話(スマートフォン・フィーチャーフォン)の『アプリケーション活用の状況』と題し、調査対象新興国における、モバイルインターネットを通じたアプリケーションやサービスの活用状況についての調査結果を共有したい。また、新興各国でのアプリケーション・サービス領域における市場参入論点を併せて述べたいと考えている。

本調査は全世界15カ国26,000人を対象とした調査であるが、本報告では成長著しい新興国の中でも アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコの結果を中心に分析を行い発表している。なお、本調査はオンライン調査であることもあり、同新興国の結果については比較的富裕層かつアーリーアダプター中心の回答であることを留意いただきたい。

1. 新興国では"2Gモバイルインターネット・ライトアプリ"が主流

先ずは、モバイルでアプリケーションを活用する際の基本となる、モバイルネットワークサービスの整備状況を共有したい。【図表1】で記載のとおり、3Gネットワークのシェアは日本を除く調査対象国において、南アフリカ21%、トルコ20%、ブラジル17%となっており、都市部・富裕層においては3Gが浸透しているものの、未だ2G(GSM等)が、幅を利かせている状況である。

▼【図表1】対象国のモバイル市場の概観
201302051500-1.jpg
出所: 平均年収は東洋経済およびJETRO調べ、ジニ係数はCIA、トップ携帯電話キャリア及びキャリアシェアは矢野経済研究所「2011-2012携帯電話世界市場動向調査」、携帯電話ARPU及びプリペイド率はトップキャリア各社公表値(アルゼンチンの携帯電話ARPUおよび携帯電話普及率は、国内第2位キャリアであるTelecom Argentinaの公表値)、インターネット普及率およびブロードバンド普及率・携帯電話普及率・固定電話普及率は総務省

また、端末としてはモバイルインターネット接続可能な端末が多くなっているが、チャット、写真、SNSといったライトなアプリケーション利用が多い。リッチなアプリケーションやソーシャルゲームといったコンテンツは未だ広く普及しておらず、今後の成長領域であると考えられる。よって、現状では、"2Gモバイルインターネット・ライトアプリ"が主流という視点で、アプリケーションやサービスの利用動向を認識する必要がある。

将来的に、コンテンツ・アプリケーション事業の新興国への展開を見据える場合、各国での3Gネットワーク整備状況や、"3Gスマートフォン"の浸透具合が重要な指標になると考える。特に注目すべき国はブラジルだ。持続する経済成長と併せ、2014年サッカーのW杯や2016年の夏季オリンピックを控える同国では、都市部やW杯開催都市でのLTE商用化を目指している。新興国でのLTEシフトと、それにあわせたスマートフォンアプリの高度化は想像以上に早く立ち上がる可能性を秘めている。

新興国のスマートフォンコンテンツ・アプリケーションについて筆者は、Androidベースでの展開がファーストチョイスとなると考えている。今回調査対象国においては、購入価格が非常に高いApple/iOSのシェアは著しく低く(第2回デバイス普及状況と機種の回を参照されたい(https://wirelesswire.jp/Global_Trendline/201210021800-3.html))、他の成長市場であるAESANやアフリカでも勢力を伸ばしている、Samsung等の韓国・中国企業の廉価版Android端末がシェアを拡大すると予想するからだ。

===

2. 新興国は"モバイル×ソーシャル"先進国

新興国では"2Gモバイルインターネット・ライトアプリ"の普及時期が、Facebookを中心としたソーシャルネットワーキングサービス(SNS)拡大期であったことから、ソーシャルメディアを軸としたモバイルネットワーク活用が行われていことが特徴である。これらの国では固定網でのインターネットやコミュニケーションインフラが十分に整備されていないケースが多く、SNSそのものがインターネットサービスインフラとなっている状況もある。

また、特に、今回調査対象の各国においては、Facebook利用者が米国に次ぎ2位になったブラジルを中心に、日本と比較しても非常にソーシャルメディアの利用が進んでおり、スマートフォンによるネットサービスの中心となっている。【図表2】

【図表2】対象国及び、日米でのFacebook普及率
201302051500-2.jpg
Source: Socialbraker (as of 23 Jan )

このことは、「今後定額利用したいサービス」で、SNSが上位を占めていること【図表3】や、「インターネット接続時に1週間に1度以上すること」として情報検索や記事閲覧よりもSNS利用が上位にきている【図表4】といった調査結果に現れており、今後もソーシャルメディアを軸としたアプリケーションやサービスの発展が見込まれる。

【図表3】アプリ利用動向(定額利用を行いたいサービス)(※画像をクリックして拡大)
201302051500-3.jpg
出所: デロイト グローバルモバイル消費者調査 - 日本、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコ、2012年5月
脚注: モバイルネットワークを使い定額料金でネット接続する回答者 日本545人、アルゼンチン350人、ブラジル447人、メキシコ301人、ロシア569人、南アフリカ1228人、 トルコ296人、好きなサービスを無制限利用できる契約を希望した回答者 日本256人、アルゼンチン144人、ブラジル171人、メキシコ148人、ロシア170人、南アフリカ572人、トルコ97人

【図表4】インターネット接続時に、スマートフォンで1週間に1度以上すること(※画像をクリックして拡大)
201302051500-4.jpg
出所:デロイト グローバルモバイル消費者調査 - 日本、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコ、2012年5月
脚注:スマートフォンでインターネット接続する回答者 日本724人、アルゼンチン320人、ブラジル505人、メキシコ458人、ロシア334人、南アフリカ1212人、トルコ335人

===

3. モバイル×ソーシャルがマネタイズの鍵

新興各国でSNSが拡大する一方、コンテンツビジネスとしての収益性は十分に獲得できていない状態であるが、今後は、SNSの強大なユーザーをベースとして、モバイルに親和性の高いゲームやEコマースといったアプリケーション利用が拡大し、コンテンツビジネスとしてのマネタイズが進むことが想定される。

また、モバイルキャリア自身が、SNSプラットフォーム(FacebookやTwitterなどの有力SNSをコネクトするサービス)やコンテンツポータルを構築する動きも加速しており、アプリケーションビジネス展開においては、モバイルキャリアとの連携も視野に入れる必要がある。

また、本調査におけるモバイル広告に対する接触率や、広告を見てからのアクションについても、日本と比較し、高い数値が出ていることから、モバイル広告に対する受容度は高く、今後はSNSサイト内広告やアプリケーション内広告等のモバイル広告事業が拡大することで、エコシステム全体の底上げに寄与することが想定される。【図表5】

【図表5】モバイル広告に対する考え方(※画像をクリックして拡大)
201302051500-5.jpg
出所:デロイト グローバルモバイル消費者調査 - 日本、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコ、2012年5月
脚注:スマートフォンでネット利用する回答者 日本507人、アルゼンチン324人、ブラジル523人、メキシコ466人、ロシア349人、南アフリカ1242人、トルコ342人

新興国でのモバイルアプリケーションの拡大は、スマートフォンの高度化とSNSの広がりと同期を取って進むと考えられる。

===

4. アプリケーションのダウンロード状況について

今回調査における各国でのアプリケーションダウンロードについて、結果を共有したい。【図表6】

【図表6】フィーチャーホン/スマートフォンアプリケーションのダウンロード経験
201302051500-6.jpg
出所:デロイト グローバルモバイル消費者調査 - 日本、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコ、 2012年5月
脚注:フィーチャーフォン/スマートフォンを所有している回答者 日本1702人、アルゼンチン1647人、ブラジル1518人、メキシコ1637人、ロシア1798人、南アフリカ1969人、トルコ848人

南アフリカが唯一84%と高い数値となっているが、その他の国は概ね50%程度に留まっている。同様に、ダウンロードをしない理由については、「アプリの料金を気にする」、「そもそもアプリケーションがダウンロード出来ない」といった回答が多くなっている。【図表7】携帯電話の機種によっては、Facebook、Twitter、メッセンジャーといった基本アプリがプリインストールされていることもあり、ダウンロードしないユーザーも数多くいることが想定される。

【図表7】アプリケーションをダウンロードしない理由(※画像をクリックして拡大)
201302051500-7.jpg
出所:デロイト グローバルモバイル消費者調査 - 日本、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコ、 2012年5月
脚注:フィーチャーフォン/スマートフォンでアプリをダウンロードしない回答者 日本803人、アルゼンチン738人、ブラジル587人、メキシコ669人、ロシア650人、南アフリカ289人、トルコ341人

但し、今後は、スマートフォン普及と高機能化にあわせ、Androidを中心としたアプリケーションマーケットへのアクセスが発展し、ダウンロードや購買意識についても変化がみられると考えている。(南アフリカのみアプリケーションダウンロード経験率が高いのは、前述の通り、都市部での3G網の整備、高機能スマートフォンの普及によるものと推測される)

参考までに挙げたのが、ブラジルのアプリダウンロード人気サイトでのアプリランキングである【図表8】。音楽ファイル検索サービス、写真共有サイト、メッセンジャーなど、主に無料で使えるコミュニケーション系や、簡易なエンタメ系アプリケーションが上位を占めている。

【図表8】ブラジル人気サイトでのAndroidアプリダウンロードランキング (2013年1月)
201302051500-8.jpg
source: http://www.baixaki.com.br/

モバイルアプリケーションの市場は未だ十分な規模を獲得できていない。しかし、前述のとおり、モバイルキャリアによる決済インフラの整備や、Eコマース市場の浸透などにより、有料のモバイルアプリや、アプリ内課金などについての意識も変化し、ビジネスとしての規模拡大に繋がっていくと考えられる。

===

5. NFC活用アプリにビジネスチャンス

本調査では、将来的なNFCの利用動向についても調査をしている。NFCに興味があると答えた割合は全体の50%前後と高い興味を示すとともに、利用方法についても、買い物、交通費支払い、クーポンの獲得などに始まり、端末同士の情報共有等にも高い興味を持っている事が分かった。実際のサービス展開についてはNFCの展開ロードマップに依存するが、日本のNFCを活用したアプリケーション群は世界に類を見ない先進性を保持しており、先進国でのサービス展開が望まれる重要な領域であると考えられる。【図表9】

【図表9】NFC対応デバイスでしたいこと(※画像をクリックして拡大)
201302051500-9.jpg
出所:デロイト グローバルモバイル消費者調査 - 日本、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコ、 2012年5月
脚注:フィーチャーフォンやスマートフォンを持っていて、NFCに関心のある回答者 日本557人、アルゼンチン1052人、ブラジル1148人、メキシコ1258人、ロシア1273人、南アフリカ1525人、トルコ637人

===

6. まとめ

本連載では、全15カ国のデロイトが実施した『グローバルモバイル消費者調査』のうち、新興国 6 カ国(アルゼンチン・ブラジル・メキシコ・ロシア・南アフリカ・トルコ)の分析結果を中心とした連載をさせていただいた。調査データが整備されている、北米、欧州、日本と比較し、今まであまり明らかになっていなかった国のモバイル消費者動向が垣間見えたのではないかと考えている。

特徴的であったのは、モバイルネットワーク・スマートフォン・ソーシャルメディアの積極的な活用であり、今後も国全体の経済成長に合わせ、モバイル消費市場の継続的な拡大が見込まれることである。日本企業にとっても、グローバル化による成長を獲得するための、重要な検討対象であることは確かである。

また、本調査は、継続して2013年版の調査・分析がグローバルベースで進められており、変化の激しい市場において継続的な情報提供と新たな視座の提供が出来ればと考えている。

デロイト「グローバルモバイル消費者調査2012」について

【調査目的】
世界15ヶ国のモバイル利用状況を把握するとともに、今後の利用状況予測に関する情報を提供する。

【調査概要】
●対象国:全15ヶ国
アメリカ、アルゼンチン、イギリス、カナダ、クロアチア、ドイツ、トルコ、日本、フィンランド、ブラジル、フランス、ベルギー、南アフリカ、メキシコ、ロシア
●調査方法:各国公用語によるオンラインアンケート
アルゼンチン、ブラジル、クロアチア、メキシコ、南アフリカ、トルコについては、サンプルが都市部在住の専門職(比較的高所所得者層)に集中する結果となっている。その他の国については全国から回答を得ている。
●調査期間:2012年5〜6月
●分析対象回答者数:25,960名

 
文・武藤 隆是(デロイト トーマツ コンサルティング株式会社 シニアマネージャー)

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら