──通信事業者として、日本発で、iPadのようなパワーある端末を出していくには、どうしていけばいいんでしょうね。
林 : 通信事業者として、と考える時に難しいのが、通信事業者単位の発想では、日本にしか目が向かなくなってしまうことですね。既に3Gの電話が1億台以上あって、既に飽和している市場です。そこに対して、これからものを作っても、かなりドラスチックに違うものじゃないと、売れることはない。
iPhone、iPadが成功した理由の一つは、大きなお金をかけて、世界で共通して使える高品質なデザインとソフトウェアを作ったから。開発にコストをかけていても、80カ国で展開して市場を大きくしているから、1台当たりのお金は安くなっているんです。日本の1億人だけしかマーケットとして考えていないと、どうしてもそんなにコストをかけられない。だから、できあがるもの水準は下がってしまう。
これからの通信事業者には、メーカーに体力を持たせ、グローバル展開を助けるという、メーカー基点の考え方が重要になるという気がします。とはいっても、実際に世界のメーカーと互角に勝負できるようになるには4、5年はかかると思います、それまでの間は、少しずつグローバルに展開して儲けていくというモデルをメーカーにがんばって学んでもらうしかない。
従来の通信事業者の発想だと、「じゃあそのためにメーカーにお金を払って援助しよう」という発想になりがちなのですが、援助される側はその通信事業者に縛られる感じになってしまいます。しかも、そういうイージーマネーのものは、あまり身につきません。そこは3年プロジェクトぐらいで、自分達で血を流して努力して、世界で勝てる端末をがんばって作って欲しいなと思います。
携帯端末っていうのは非常に重要なんです。生活者が常に持ち歩くデジタル機器は携帯端末しかありません。(日本の携帯メーカーの多くは家電メーカーでもあるので)家電メーカーとしては、生き残りのために、なんとしてもここを押さえなくてはいけないんです。
実際、iPhoneを使って、家のAV機器が全部コントロールできたり、ガレージの開け閉めもできるような仕組みがこれからどんどん出てきます。これを他の家電機器にもつなぐのは、もう自然の流れです。そこを他社に握られて、家電メーカーとして本当にいいんですかという話です。
逆に、通信事業者は、メーカーには干渉しない方が良い。キャリアの色がつくということは、そのキャリア以外では売れなくなるということなので、端末のマーケットが小さくなります。すると、それだけ儲けが少なくなって、メーカーの次の研究開発費も減ってしまいます。覚悟をある程度決めて、あまりメーカーに干渉しない方が良いんです。
文:林 信行
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