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iPhoneアンテナ問題を斬る

2010.07.30

Updated by Michi Kaifu on July 30, 2010, 16:30 pm JST

アップルiPhone4のアンテナ問題は、センセーショナルに騒がれた挙句「ケースを無償配布」ということで日本でも決着しつつあるが、厳密に技術的には何がどう問題だったのだろうか。米国のアンテナ専門技術コンサルタント、Spencer Webb(AntennaSys Inc.)氏の実験と解説をもとに、簡単にまとめてみよう(なお、実験方法については、元のブログ記事を参照のこと)。

問題は二つある。一つは「アンテナの物理的位置」の問題、もう一つは「電波強度の表示方法」の問題である。

1. アンテナの物理的位置

かつて、携帯電話には外から見えるアンテナがついていた。現在は端末本体に内蔵されているだけで、なくなったわけではない。アンテナ部分を手で覆うと、アンテナの感度は当然悪くなる。アップルの記者会見でスティーブ・ジョブスが言ったように、これはどの携帯電話でも同じことだ。問題は、アンテナがどこにあるか、というだ。

従来の3GまでのiPhoneや他の多くの携帯電話の場合、アンテナは背面の中央に置かれている。携帯電話を片手で持つと、通常、端末の左右を指と手のひらで支え、端末の背面中央は手のひらの折れ曲がる部分に該当し、端末との間に空間ができる。このため、アンテナに直接手が触れず、電波の感度への影響は小さい。(写真参照)

▼写真:Antennasys.com
201007301630-1.jpg

これに対しiPhone4では、通常の使用方法ならばほぼ必ず手で覆う部分、すなわち端末を縦にして左下の縁に近い部分にある。このために、手で握った場合の影響が大きい。

▼写真:Antennasys.com
201007301630-2.jpg

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こうした影響は、おそらく事前に社内の無線技術者はわかっていたはずだが、にもかかわらずこのデザインで端末が出荷された理由は正確にはわからない。Webb氏の出演したポッドキャスト(This Week in Tech, July 3, 2010)での議論では、携帯電話の狭い面積を奪い合う社内各部門の戦いの中で、「デザイン」など他のチームに「アンテナ」チームが敗退した結果だろう、と推測されていた。

この問題を解決するためには、手とアンテナの間をなるべく離し、絶縁することが有効であるため、「ケース」が登場する。「Consumer Report」誌では、「ガムテープをアンテナ部分に貼り付ける」という方法が提唱され、Webb氏によればこれでもある程度解決されるようだ。

Webb氏は、iPhone4とiPhone3Gを使い、ケース(下図の"Bumper")のある場合とない場合で、いろいろな握り方による電波の強度を比較して結果を自身のブログで発表している。これによると、ケースがない場合には、手でアンテナ部分を覆う握り方で大幅に感度が落ちるが、ケースをつければほとんど落ちないことがわかった。さらに面白いことに、iPhone4は3Gと比べ、基本的には電波感度がかなり良いこともわかった。なお、もっとも感度のいい持ち方「VIP」とは、端末の両側上のほうをつまんでぶら下げる("Vulcan iPhone Pinch"、写真参照)ことだが、現実にはこんな持ち方では使えない。(図参照)

▼図出典:Antennasys.com
201007301630-3.jpg

▼もっとも感度のいい持ち方「VIP」
写真:Antennasys.com
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2. 電波強度の表示方法

さて、握り方によりアンテナ感度が変わることはわかったが、Webb氏によると、電波感度の落ちる握り方で持ったとしても、実際に通話が切れてしまうことはなかった、という。

上記の実験で、測定値としては「データ通信の速度」を使っている。端末上の「棒グラフがいくつ立っているか」は「驚くほど、まるっきりアテにならなかった」ということである。

アナログ携帯では、基地局からだんだん離れて電波が弱くなると、だんだん音が弱くなったり雑音が多くなったりした。しかしデジタル携帯はつながるかつながらないかのどちらかで、実際の電波の強さは音質とは全く関係がない。基地局から離れて、通話信号とノイズの比率が一定数値を超えれば突然切れる。このため、デジタル携帯においては、端末に表示される棒グラフは実際には「ほとんど意味がないが、棒が少なければ切れる可能性が高い」(ポッドキャストでのWebb氏発言による)ということはある程度言える。しかし、「(ソフトハンドオフのため)セルの端近くでは複数の基地局と同時に通信しており、種々の環境により、たとえ端末がじっと動かなくても通信先の基地局が切り替わることもあり、それぞれの基地局からの電波強度はまちまち」(同上)という場合もあり、セルの端だから必ず切れるとも限らない。

こうした事情もあり、デジタル携帯端末の電波強度表示はかなり「人工的」であり、端末メーカーがどう表示するかは、相当恣意的に決められる。「むしろ、棒グラフをやめて青信号と赤信号にしてしまったほうがすっきりするが、消費者が棒グラフがないと不安に思うからそのままにしてある。」(同上)

そして、どうやらiPhone4では、「他の端末なら2本ぐらいの感度でも4本の棒が表示される、といったように設定してあったらしい」(同上、すなわちキャリアがメーカーに対して推奨しているアンテナ表示基準があるが、これとは異なる表示としていた、ということになる)ということが問題をさらに大きくした。このため、わずかな感度の減少で一気に棒グラフが下がってしまう現象が起きた。基地局から遠い場合には、実は電波が弱いのにたくさん棒が表示されていたから、この「死のグリップ」問題がより頻繁に起こる、ということになった。しかし、上記のように棒の数と通話の可否の間の関連性はあいまいであるため、棒がなくなってしまっても実際には通話はちゃんとできることもある。

このため、アップルは「ケース配布」とともに、「AT&Tの推奨に従い、アンテナ表示ソフトを改良する」とも発表し、棒グラフが極端に上下する状況をなくす、ということになった。

この表示基準の違いは、アップルに好意的に解釈すれば、iPhone4の電波感度がよくなり、棒グラフをやや大げさに表示することで消費者に安心感を与えようとしたことが、表示の振れが大きい問題につながっているということかもしれない。

この実験では、他にもいろいろと面白い事象が報告されているので、ぜひ原典のブログ記事を参照してほしい。

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海部美知(かいふ・みち)

ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
(ブログ)Tech Mom from Silicon Valley
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