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感謝の気持ちを伝えることに重きを置いた、新たなギフトの贈り方

Send a small thank you in a right way

2015.08.21

Updated by Eri Hosokawa on August 21, 2015, 07:00 am JST

「ありがとう」、「おめでとう」、「お疲れさま」など、感謝の気持ちを新たな形で伝えるeギフト市場がいま、注目を集めている。8月5日、市場の現状と今後を予測するラウンドメディアテーブルが、日本における同市場の草分けであるギフティ主催のもと開催された。登壇者は矢野経済研究所研究員の高野淳司氏、スターバックス コーヒー ジャパンの長見明氏、そしてギフティCEOの太田睦氏である。

▼登壇した矢野経済研究所研究員の高野淳司氏(左)、ギフティCEOの太田睦氏(中央)、スターバックス コーヒー ジャパンの長見明氏(右) DSC01009 のコピー

堅調に拡大を続けるeギフト市場

まずはじめに登壇したのは2015年6月にeギフト市場に関する調査レポートを発表した矢野経済研究所研究員の高野淳司氏。2007年に矢野研究所に入社し、クレジットカード、デビットカード、その他電子決済、ポイントなどを中心に市場調査を実施してきた高野氏は、2007年を境に商品券やギフト券などのギフト市場は低迷すると予測していた。しかし、2013年度のギフト市場規模は小売り金額ベースで17兆4,500億円にまで上昇し、あらゆる価格帯のギフトが含まれていたものの、安価な価格帯のカジュアルギフトだけでも約6兆円弱もの売り上げを記録した。ギフト市場の中でも日本国内のeギフト市場が占める割合は、2014年の時点で約82億円、前年度比182.2%。2020年度までに1100億を越える水準にまで拡大する見込みだ。

法人における特需やオンラインキャンペーンをはじめ、法人の販促ツールとしてのeギフトの活用の増加が市場拡大に大きく加担しているという。法人の利用進展により、eギフトを受け取った経験のある個人ユーザーが増加することでユーザーエクスペリエンスが蓄積され、結果、サービスの認知が一般消費者まで拡大するという。個人から個人にギフトを贈りあう新たなギフト習慣を浸透させるためには、今まで経験したことのないようなギフトの贈り方を提供する必要があると、高野氏は指摘した。さらに、ギフト自体のデザイン性、メッセージ性を向上させることでギフトを贈るという行動よりも、何かを伝えるというコンテンツを充実させなければならないと、デザイン性の向上が市場を拡大する上での戦略の1つであることも強調した。

eギフト市場を牽引する主要プレーヤーとして、電子マネーを発行し、ギフトを贈るサービスを展開するamazonやNTTカードソリューションを挙げた。NTTカードソリューションは2015年4月にはWebカタログギフトを展開するリンベルと提携し、3000円、5000円、10000円の3コースから自由に好みの商品を選べるサービスの展開も開始している。リンベルとの提携により、電子マネーを利用しない顧客に対してもノベルティや販促商品を提供することが可能となり、非常にユニークなサービス展開が注目を集めている。

日本におけるeギフト市場は他国と比べて極めて小さい

eギフトの生成から消し込みまでの一連のサービスを提供しているディストリビューターにはギフティをはじめ、コッコやギフトスマートなど、韓国で成功したビジネスモデルを日本で展開する企業を挙げた。韓国のビジネスモデルを採用する企業の動きが活発になっている背景に、韓国におけるeギフト市場の大きさが関係しており、2015年度には1000億を越える売り上げが予測されているほどである。これは上司から部下に、男性から女性にと、個人間でギフトを贈りあう文化が韓国には根付いていることが理由であると高野氏は説明した。最近では女性が男性にeギフトをおねだりするようなサービスを展開する企業もあるほどギフトを贈りあう習慣が浸透している。

そんな韓国をさらに上回るのがeギフト先進国でもある米国だ。米国におけるeギフト年間規模は2012年の約3,600億円から、2017年までには約1兆6,800億円まで拡大する見込みだ。 日本におけるeギフト市場は堅調に拡大を続けているとはいえ、市場参入が遅かったため、韓国や米国と比較すると市場規模の小ささが目立つ。2000年以降はISDN、ADSLと、インターネットの利便性が一気に高まり、欧米諸国と比較しても、日本におけるオンライン化は非常に早かった。しかし、2000年以降iモードの文化が非常に早い段階で進んだため、端末のあり方をある種形成してしまったことが日本におけるモバイルのあり方に影響を与え、結果、eギフト市場の拡大が他国に比べて大幅に遅れをとる要因となったのではないかと、高野氏は推測している。

eギフトシステムの導入の背景、実施による効果、今後の展望

高野氏に続き、登壇したのはスターバックス コーヒー ジャパンの長見明氏だ。スターバックス コーヒー ジャパンは2011年に会員のデータベースのリニューアルのためオンラインへの投資を開始し、2012年にはスタバカードの登録を立ち上げ、2013年にはクーポン配信システムを導入し、2014年からeギフトサービスを導入した。

長見氏は冒頭で、「人と人が向き合って会話をしながら、その間にある媒介としてコーヒーやお茶が存在できることが素晴らしいことです」と、飲み物を媒介としたコミュニケーションのあり方についてアピールした。 スターバックスが展開しているサービスは、メッセージカードと一緒にドリンクチケットを贈るというもの。感謝の気持ちに一杯のドリンクを添えて贈ってもらいたかったと、導入の背景を説明した。ドリンクチケットを贈られた人は引き換え用のバーコードを店頭で提示し、ドリンクを受け取る仕組みとなっている。

▼ドリンクチケット贈られた人にはギフトカード(左)がメールやSNSで送られてくる。「メッセージをみる」を選択すると、メッセージが表示され、「次へ進む」を選択すると、ドリンク引き換え用バーコードが表示される。giftee-card

価格は500円一律。送り主は500円を負担し、受け取り主は500円以下の商品を購入しても差額は返金されない。有効期限は資金決済法に触れず、かつライトに運営したいという方針から6カ月未満に設定している。よほど親しい関係でなければ、贈りたい相手が何を飲みたいのか分からない。また、贈られる人にとっても意識せずに使用できる価格帯を考慮し、500円一律のドリンクチケットのみを展開している。ホームページをはじめ、ギフティ、LINE、ことこをはじめ、イベントチケットを中心に扱っているyahooパスマーケットなどでの販売も試みている。

小売業から見た普遍的なサービス

正式な売り上げ額は公開していないものの、サービスを開始して約1年で当初の倍の売り上げに達していることに対して、「思ってた以上のスピード感でマーケットが成長しはじめている」と、長見氏自身も驚いていた。ブランディングやマーケティングの一環としてのサービスを開始したため、これほど売り上げに影響を及ぼすほどの効果を期待していなかった。3年ほどは赤字を覚悟していたというが、単体でも黒字化している現状だ。ドリンクチケット引き換え時には会員登録の必要がないため厳密には分からないが、新規ユーザーの増加が売り上げに繋がっているとの感触を受けているという。

ブランディングに注力しているスターバックスだからこそ、人と人が繋がる中でブランドの価値を上昇させつつ、かつ、ビジネスとして成長させることができるという、好循環な役割をもたらしてくれるのがeギフトサービスであると、長見氏は考えている。事前決済は顧客の来店に結びつけるという必須の仕組みであり、ウェブ上で発行するため、あらゆる情報をチケットに紐づけてPOSで消しこみが可能なため、顧客の情報収集システムとしても機能する。このようなサービスを自社のシステムに取り込めるという環境は大切であり、小売業としてeギフトは普遍的なサービスであると、eギフトサービスに高い期待を寄せていることが長見氏の発言からも伺えた。

日本におけるeギフトの利用シーンやユーザー特性

最後に登壇したのは2011年の3月1日、震災の直前に「Send a small Thank you(日頃の小さなありがとうを贈ろう)」というコンセプトをもとにサービスを開始したギフティCEOの太田睦氏。ギフティは太田氏自身がFacebookで友人のお誕生日を祝う際、メッセージと一緒に小さなギフトを贈りたかったと、サービスを開始した背景を説明した。

▼ギフティのウェブサイトから直接eギフトを贈りたい相手に贈ることができる IMG_1724 ▼「ギフトを見る」を選択すると、人気の商品や新商品など、さまざまな商品が並んでいる IMG_1728 サービスを開始して4年がたち、国内有数のカジュアルギフトサービスとして着実に会員数およびギフト送信数が増加している。2015年8月時点で、月間訪問者は100万人、月間ギフト送信数は3万から4万、会員数は29万人にまで伸びている。法人における利用シーンとしてはアンケートの謝礼や福利厚生などが多く、個人間での利用シーンに関しては12月のクリスマス、2月のバレンタイン、3月のホワイトデーをはじめ、父の日、母の日、お誕生日など、イベント行事を中心に活用される傾向にある。 実際に贈られたメッセージ内容を見ると、「相談乗ってくれてありがとう! これでも飲んで!」、「今日は美味しいごはんをおごって頂きありがとうございました!」、「今日は早く帰るっていってたのにごめんね」など、親しい仲間うちで贈られているメッセージが多いことが分かる。

日常的なコミュニケーションツールとしての利用が多く、一部では取引先に営業のお礼として利用している事例があるが、友人間、恋人間、夫婦間での利用が多い傾向にあるのではないかと、太田氏は分析している。男性に比べて女性の方がギフトを贈りあうという行動自体に親しみがあることから、ユーザーの7割近くは20代から30代の女性が占めているという。

ギフティが運営する異なる2つの事業

ギフティはカジュアルギフトサービス「giftee」の運営と、法人向けにギフト販売システム「eGift System」を提供するSaaS事業の2つを展開している。gifteeは店頭で引き換えることができるデジタルのギフトチケットの生成と配信、eGift Systemは提携企業の自社サイトでgifteeのシステムを導入、展開する事業となる。スターバックスのようなブランディングに注力している企業はブランドイメージを壊すことのない後者の事業が人気のようだ。 eGift SystemはPOSレジと連携しているため、時間帯、顧客層、購入内容などをデータ化できる仕組みとなっている。例えばアイスコーヒーとケーキを一緒に購入した場合も全てのデータが履歴として残るため、オムニチャンネル化、店舗送客、新顧客などのニーズに応えることが可能となる。

現在提携している企業にはローソン、ミニストップ、ファミリーマートなどのコンビニエンスストア系、ロクシタンやピーチジョンなどのメーカー系、スターバックスやラフィネなどのサービス系などがあり、システム導入を検討する大手企業は増えている。 現在ギフティはPCサイトとスマホサイトの2つのプラットフォームで展開している。アクセス数を分析すると、全体のアクセス数の約9割近くをスマートフォンが占めていることから、iPhoneアプリは来月9月末、アンドロイド版については年内、もしくは年明けにリリースを予定している。ウェブだけでは使用期限のリマインダーを送ることが難しく、また、ギフトを受け取る側へのお知らせする機能があるわけではない。そういった利便性向上のためにも、アプリの開発に取り組んでいる。

サービスを開始した当時は全国チェーンではなく、関西や関東で展開する個人経営の店舗を約100店舗ほどまわり、提携店舗を徐々に拡大していったギフティ。提携店舗数をただ増やすのではなく、ギフト性があり、贈りたい、贈られたいものは何かを中心に考え、サービスを展開していった。ギフティのターゲット層に位置する平均年齢30歳の従業員15名からなるギフティだからこそ、リアルな思いを体現するサービスを提供し、eギフト市場を牽引し続けてくれるのではないかと、同じくターゲット層に位置する筆者は、登壇者のスピーチを聞きながら感じていた。

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細川 依里(ほそかわ・えり)

1986年大阪府大阪市生まれ。映画「天使にラブソングを2」をきっかけに外国に憧れを抱き、15歳で渡米。高校はユタ州、大学はカリフォルニア州立大学にてグラフィックデザインを専攻。在学中にはフリーマガジンのインターンシップを経験。帰国後、女性ファション誌に編集者として携わる。趣味:ファッション、旅行、映画鑑賞。