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インド編(3)インドの携帯電話キャリア Tata TeleservicesとVodafone India

2010.09.30

Updated by Mayumi Tanimoto on September 30, 2010, 19:30 pm JST

○インド第4位のキャリアであるタタ・テレサービシズは、3つのブランドでサービス展開し、それぞれが異なる市場をターゲットとしている。

○ボーダフォンインディアはインドを重要市場と考えるボーダフォンのインド拠点である。インドを市場として重視しているだけではなく、才能発掘の場としても重要視している。

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(cc) Image by McKay Savage

第3回目の今回はNTTドコモが出資したこともあり日本で注目度の高いキャリアであるタタ・テレサービシズ(Tata Teleservices)と、ボーダフォンインディア(Vodafone India)について紹介したい。

1. タタ・テレサービシズ

インド第4位のキャリアであるタタ・テレサービシズ(Tata Teleservices)は、90社を傘下にし、36万人以上を雇用する巨大企業タタ・グループのテレコム部門として1996年に設立された。インド初のCDMA 1xサービスを開始し、2002年にはHughes Tele.comを買収し、インドの20以上のサークルでサービス展開を始める。

2010年9月の時点で7千500万人の契約者数を持ち、インド第4位の携帯電話キャリアとなっている(参考資料)。

インド全土には3千以上の小売店舗があり、2500店舗以上のフランチャイズ店を持つ。

Tata Teleservices
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2. ターゲット別に3つのブランドを展開

タタ・テレサービシズは、現在インドでは3つのブランド名で事業を展開している。

まず一つ目のタタ・インドコム(Tata Indicom)は2005年1月からCDMA標準の携帯電話サービスを提供し、インド全域22のサークルをカバーしている。インド全域で18,500の基地局を持ち、5千以上の町や村にサービス展開する(参考資料)。

Tata Indicom
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タタ・テレサービシズは自社サービスの拡大に、インド編第2回で紹介したバーティ・エアテル(Bharti Airtel)と似たような手法を使用している。

農村地帯では、個人エージェントを雇用し、訓練した上で、各村々を自転車かリヤカーでまわり、携帯電話やバウチャーを販売しているのである。バーティ・エアテルが車で農村を回っていることを考えると、少々泥臭い感じの販売方法である。

バーティ・エアテルはNokiaや肥料大手と提携していたが、タタ・テレサービシズはタタ・グループの一員であることを活用し、グループ企業のネットワーク経由で販売網を拡大している。

タタ・インドコムはコンテンツサービスに力を入れているのもユニークだ。まず、同社が提供する「Tata Zone」と呼ばれるポータルでは、映画や音楽、ゲーム、着メロなどの携帯おなじみのコンテンツが販売されている。

日本の携帯技術やコンテンツの世界輸出をという声が方々から上がっているが、すでにインドの携帯ユーザーはこのようなサービスから、着メロやゲーム、漫画を楽しんでいるのである。

農村ユーザー向けのサービスにも力を入れており、タミル・ナードゥ州では、地元の漁師向けにお天気情報や魚介類価格情報を提供している(参考資料)。

2010年9月には有償の緊急医療サービスの提供を開始している。ユーザーが携帯電話サービスで医師と直接話して治療支持や相談を受けられるサービスである(参考資料)。

タタ・インドコムの顧客にとってはオンラインで支払いすることも当たり前になっている。「i-choose」と呼ばれるサービスでは、プリペイドサービスの料金追加や、ポストペイドサービスの料金支払いも可能になっている。携帯電話の通販も可能で、料金支払いから72時間以内に携帯電話が提供される。

i-choose
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二つ目のブランドは、日本のNTTドコモが2008年11月に26%の株式を取得したことで発足したタタ・ドコモ(Tata DoCoMo)である。

Tata DoCoMo
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同ブランドは、GSM標準でサービスを提供し、18のサークルをカバーしている。17のサークルに対しては、事業開始後1年以内にサービス提供を始めるというスピード経営ぶりだ。2010年から2011年の間には全インドをカバーするサービス提供を予定している(参考資料)。

タタ・ドコモは、NTTドコモとの合弁企業である点を生かして、独自ブランドの携帯電話を提供している。2010年9月には、アルカテル(Alcatel)およびヤフー(Yahoo)と共同で「Called OneTouch Net」と呼ばれる携帯電話の提供を始めている。この機種は別名「ヤフー電話」と呼ばれるほどヤフーのサービスを含んだ機種で、ヤフーメール、ヤフーメッセンジャー、ヤフー検索、ヤフーカレンダー、フリッカー、等がプリインストールされている(参考資料)。

また同社の提供するポータルである「Dive-in」へのアクセスも提供されている。このポータルからはゲーム、漫画、スポーツ速報などが利用できる。

Dive-in
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3つ目のバージン・モバイル・インディア(Virgin Mobile India)は、CDMAおよびGSMでのサービスを展開し、インターネットサービス等も提供している(参考資料)。

Virgin Mobile India
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タタ・インドコムが農村や法人向けサービスやコンテンツサービスに力を入れ、タタ・ドコモは独自ブランド携帯やポータルからのサービスに力を入れているが、バージン・モバイル・インディアは、イギリス本社のサービスが若者をターゲットにしているのと同様、インドでも若者向けのお手ごろなサービスに注力している。

2010年9月からは、GSMプリペイド携帯ユーザー向けにインドどこに電話しても一分40パイサ(1ルピー=1.88円換算では約0.7円)という超激安価格のサービスの提供を始めた。インドでは21歳から25歳の若者は、他の層に比べると長距離電話を掛ける確立が20%ほど高いため、激安長距離電話は若者が携帯電話キャリアを選択する際に大きな魅力となる(参考資料)。

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3. Vodafoneグループのインド進出を担うVodafone Essar

Vodafone Essar
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契約者数ではインドの携帯電話キャリア第3位のVodafone Essarは、2007年に設立された。イギリスのVodafoneが52%の株式を所有し、Essar Groupが33%、その他インド人投資家が15%の株式を所有する合弁会社である。

Vodafoneはインドをグループにとって最も重要な市場であると公言しており、同社の海外事業戦略の最も重要な子会社の一つである(参考資料)。

同社は現在インドの23のサークルでサービスを提供し、ムンバイ(ボンベイ)、デリー、コルカタ(カルカッタ)、チェンナイの主要大都市をカバーしている。

Vodafoneはインド進出に当たり、インドで携帯電話事業を展開していたHutchinson Essarを買収し子会社とし、Vodafone Essarを設立した。Hutchinson Essarは元々香港資本のHutchison WhampoとインドのEssar Groupが合弁事業として展開していた会社であり、1994年にボンベイ市(現ムンバイ市)で営業を開始した。

Vodafone Essarの33%を所有するEssar Groupは1969年にインドのラジェスタン州出身のShri Shashi Ruia及びShri Ravi Ruiaにより設立された企業である。インドにおいてテレコム、運輸、製鉄、建設、エネルギー、石油事業などを幅広い事業を展開しており、製鉄部門であるEssarSteelはインドで10位以内に入る大規模製鉄会社となっている。1990年代以後はカナダやアメリカ、アジアの企業を積極的に買収し事業を拡大している(参考資料)。

3Gサービスの提供に当たっては、Vodafone Essar はインドの3G帯域オークションでで9つのサークルで免許を取得したが、サービス提供に当たっては、Nokia Siemens Networks もしくは Ericssonとの提携を示唆している(参考資料)。

VodafoneはGSM陣営に所属する各社とは競合しながらも、インフラの共同利用を推進するなど友好関係を保っている。Bharti Infratel 及びIdea Cellular とはIndus Towersを設立し、移動体通信のパッシブインフラを共同で設立、使用している(参考資料)。

Indus Towersは3社で運営されるが、他社の参加も可能であり、Vodafone、Bharti Infratel、Idea Cellularのいずれが支配的な立場にあるわけではない。インドでは携帯電話インフラへの投資額がかさむため、このように携帯電話各社の利益となるインフラ共有の試みは、インド全体での携帯電話普及率を後押しするため、携帯電話ユーザーの増加を望むインド政府の方針に沿ったものとなっている。

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4. インドで才能発掘

Vodafone Essar IIT Centre of Excellence in Telecommunications at IIT, Kharagpur
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Vodafone Essarは、インドでのR&D投資にも積極的である。G S Sanyal School of Telecommunicationsと共同で設立したCentre of Excellence in Telecommunication at IIT, Kharagpurは、インキュベーションセンターとして運用し、学生の旅費や技術研究を支援している。

このようなインキュベーションセンターを運用する背景には、インドで発掘した才能や技術を、Vodafoneグループの世界戦略に生かすという戦略があるためである。インドを将来性のある市場と捉えるだけではなく、アイディアや技術を生み出す場、才能を発掘する場としてみているわけである。

このような考え方は、中国に研究センターを持つBTや、エジプトに研究センターを設立したフランスのオランジェ(Orange)と同様である。世界の携帯電話キャリアや通信事業者は、インドの才能に注目しているわけである。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。