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米国CTIA-IT 2010展示会総括

2010.10.29

Updated by Michi Kaifu on October 29, 2010, 14:30 pm UTC

米国の携帯通信業界団体であるCTIA(Cellular Telecom and Internet Association)では、例年春と秋の2回、展示会を催している。春は携帯業界全般が対象、秋はモバイルデータ通信まわりに特化した「CTIA-IT」という小規模なものである。カリフォルニアで開催されることが多く、今年はサンフランシスコのモスコーニ・センターで、10月6〜8日にかけて開かれた。その展示会の様子をざっと総括してレポートする。

1. 「企業向け利用」がテーマ

筆者は過去12年にわたり、CTIAは春も秋も皆勤賞であるが、近年を振り返ると、ぐるっと一回りして、元の場所のちょっと上に戻ってきたような感覚がある。2000年前後のCTIA-ITは、ユニファイド・メッセージングや業界別アプリ向けミドルウェアなどといった、地味な企業向けのプロダクトが中心であった。2000年代半ばには「モバイル・エンターテイメント」がバブルとなり、音楽・映像・ゲームなどのアプリやMVNOが場違いな露出度の高いコンパニオンをブースに並べ、ヒップホップ・アーティストが基調講演に登場する仕儀となった。しかしiPhoneが発売された2007年頃、派手系エンタメ・ベンチャーがことごとく姿を消し、代わって主役となったのがスマートフォンである。そして、台風の目であるアップルとグーグルがほとんど姿を見せないまま、時代はまた動き、スマートフォンはもう当たり前になり、それを含めた「無線通信を企業でいかに使うか」という話が今回のオフィシャルなテーマとなっている。

上記のようにテーマが地味な「企業向け利用」の世界に戻ってきた上、基調講演に目立つ講演者がおらず、製品発表もそれほどないので、人出は少ないのでは、と予想していたが、規模は小さいながらその中に意外に活気があった。単なるお祭りではなく、ここで人とミーティングしたり、具体的に何かを探しにきたり、といった実質的な目的で来ている人が多いのではないかと感じられた。そういった意味でも、ぐるっと一回りして、実質的商売の場であった過去の時代に戻ってきた感がある。ただし、全く昔と同じところではなく、その「ちょっと上」にらせん状にやってきたのである。

▼初日基調講演で「無線通信の企業利用がますます加速する」と述べる、AT&T Mobility President and CEO、Ralph de la Vega氏(撮影:海部美知)
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企業利用の分野の中では、スマートフォンやタブレットを利用して企業内通信や情報流通を効率化するという伝統的な「エンタープライズ通信」に加えて、種々の機器に無線通信機能を組み込んで自動的にデータをサーバーに飛ばす「M2M(Machine-to-Machine)」が期待を集めている。従来は車両管理や遠隔検針など地味な産業用用途に限定されていたが、最近では「Kindle」のような無線組み込み家電や、スマートフォンにアプリを載せてセンサーとして利用するなどの使い方も広がり、こうしたものも「M2M」の範疇に含めるようになっている。今回のM2Mワークショップには、春のCTIA展示会時とは比較にならないほどの人数が集まり、展示会場でもフロアの1割以上の広い面積を「M2Mゾーン」に当てており、注目度の高さが伺えた。

▼会場の一角に広い場所を占める「M2Mゾーン」(撮影:海部美知)
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2. 今年のメインゲストは「スマートフォン化する自動車」

秋のCTIA-ITでは、データ通信という性格上、通信業界のインサイダーではなく、関連する隣接業界企業がフィーチャーされることが多い。過去には例えばマイクロソフトやディズニーなどが「目玉」のお客様となってきたが、今年のメインゲストはフォードであった。モスコーニ・センター2・3階のロビーには色とりどりのフォードの車が展示され、展示会場のど真ん中に最大規模のブースを構え、最終日の基調講演も行った。自動車会社がCTIA-ITに登場するのは初めてである。

▼会場ロビーにずらりと並ぶフォード車のうち、トーラスとエクスプローラ(撮影:海部美知)
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フォードがネット周辺業界のコミュニティに出現することはすでに驚きではない。自動車の展示を最初に見た私の反応は「ああ、ここでも」だった。2010年初頭の国際家電展示会(CES)において、フォードは統合車内ITシステム「MyFordTouch」を発表し、その後もネット・携帯業界に継続的にアプローチしている。また、携帯業界側から見ても、現在「M2M」の最大分野はGPSを使った業務車両管理・テレマティクスであり、そこからさらに消費者分野でも「自動車での利用」が拡大することに期待をかけている。

従来は、ナビ・位置検索・音楽などのサービスを「クルマのオプション」と同様に、オマケとしてその販売で儲けるという位置づけであった。しかし、ここではクルマ自体を「携帯端末」であると位置づけ、ユーザーインターフェースを運転操作とうまく統合するように「スマートフォン化」するという考え方の違いがある。

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無線接続はユーザーの持つ携帯電話を持ち込んでBluetoothで自動車側ユニットと接続し、契約は既存の携帯電話の契約をそのまま使う。スピードメーターの左右にスクロールウィンドウを設け、ハンドルにつけたボタンを親指でスクロールしてメニューを操作する。メールやツイッターでは読み上げ、文字化、コマンドをすべて音声で行うことができ、またナビの行き先検索や音楽の演奏開始・停止・楽曲選択なども音声コマンドで可能など、運転時に無理なく「スマートフォン」の種々の機能を操作できるようにしている。

システムはマイクロソフトのSYNCをベースにしている。上記のようなフォードのプラットフォームをAPI公開し、ネットラジオのPandoraやTwitterなど、種々のネット企業がアプリを提供する。インターフェースだけではなく、こうした「オープン・プラットフォーム」の考え方も、「スマートフォン化」の一環である。

今回のCTIA-IT最終日の基調講演では、フォード世界製品開発グループVPデリク・キューザック氏が「Car as a wireless device」いう言葉で端的に「自動車のスマートフォン化」を表現し、携帯業界に「ぜひ、開発に協力してほしい」と呼びかけた。

巨大な自動車の商売の中では、ネットや携帯の部分はたとえ売上があがってもごくわずかなものにすぎない。しかし、こうした新しい発想がどこまで「フォード」の製品や企業のイメージに貢献するか、興味深いアプローチである。

▼最終日基調講演、誠実な調子で携帯業界からの協力を呼びかけるフォードのDerrik Kuzak氏(撮影:海部美知)
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3. 着々と進むLTE建設とサムスンのタブレット

その他の話題としては、ネットワークではベライゾンのLTEサービス開始スケジュールを前倒しするという発表があったことが比較的取り上げられた。今年中に、38都市に展開し全米人口の70%(1.1億人)をカバーする予定で、以前想定されていたより広域のカバレッジとなる。

▼初日基調講演でLTE展開計画を発表するVerizon President and COO, Lowell McAdam氏(撮影:海部美知)
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端末では、日本でも発売予定のサムスンのAndroidスマートフォンGalaxy SやGalaxy Tabが展示に登場して人気を集めた。携帯電話サイズのスマートフォンだけでなく、iPadやAndroidベースのタブレットの選択肢が広がれば、企業での利用にはずみがつき、新生LTEが順調に滑りだす、というシナリオを携帯業界は期待している。

▼SamsungのAndroidタブレット、Galaxy Tab(撮影:海部美知)
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海部美知(かいふ・みち)

ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
(ブログ)Tech Mom from Silicon Valley
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