人生100年時代の第4次産業革命。激変する時代のなかで、中小企業が生き残るための施策とは? 〜「IoT/RPA 働き方改革で創る、地域社会の未来のためのセミナー」レポートその1
2018.07.03
Updated by Takeo Inoue on July 3, 2018, 22:56 pm JST
2018.07.03
Updated by Takeo Inoue on July 3, 2018, 22:56 pm JST
いま日本には、人口減少、第四次産業革命、人生100年時代という3つの大きな変化の波が押し寄せており、働き方を抜本的に改革する必要性に迫られている。先ごろ「創生する未来」の主催により、TKPガーデンシティ仙台で開催された「IoT/RPA 働き方改革で創る、地域社会の未来のためのセミナー」。基調講演に登壇した経済産業省の津脇慈子氏は、働き方改革を踏まえた中小企業政策として「IT/IoT化のススメ」をテーマに解説した。
▼仙台で開催された「IoT/RPA 働き方改革で創る、地域社会の未来のためのセミナー」の模様。
人口減少による人手不足が深刻化する日本。これは、あらゆる業種での共通問題だが、特に99.7%を占める中小企業では顕著であり、経営課題の上位に来ている。さらに人材が定着しないという点にも悩まされている。
そのようなタイミングで、第四次産業革命が到来している。新たな革命はIoT、ビッグデータ、AIという3つのキーワードで語られている。つまりIoTによってリアルなデバイスからビッグデータを収集し、それらをAIにで分析するという関係だ。リアルな結果が出ることから、すべての産業に影響する。
▼経済産業省 中小企業庁 経営支援部 経営支援課 課長補佐 津脇慈子氏
津脇氏は「データの扱いが変わり、従来の価値が失われたり、逆に大きな価値を生み出すような変化が起きています。googleのようなIT企業がロボットや自動走行などのハードウェアに進出する事例も登場しています。一方で、シーメンスのような大製造業がソフトウェア産業へシフトしています。いまや何の企業かを一括りで区別できない時代になっているのです。これが第四次産業革命の流れです」と指摘する。
▼第四次産業革命における海外企業の戦略。ネットからリアルへ、リアルからネットへ。ハードとソフトも融合し、何の企業かを一括りで区別できない時代になった。
こういった産業構造の変化だけでなく、日本では働き方への変化も起きている。特に若年層の人口減少が顕著なのだが、2017年以降に生まれた子供の半分以上が107歳まで生きるという予測もある。「人生100年時代」の到来だ。そうなると「教育」「仕事」「引退」という人生のステージも変容してくる。
状況によっては、このステージが行ったり来たりする時代になるだろう。社会に出て、いったん休んで学び直し、再び社会に戻るということもありえる。人によってライフステージが大きく変わり、多角的、多様な生き方に変わっていくと予想される。
▼人生100年時を迎えると「LIFE SHIFT」が起こる。学びや仕事などのライフステージが大きく変化し、多角的かつ多様な生き方に変わっていくと予想される。
「このような時代は、個人が当事者意識を持ちやすい小単位での、多様な働き方を許容する柔軟な組織が求められます。それが日本の成長戦略に重要な点です。そこで経営の中心に人材戦略を据えて、社会・組織の考え方を変え、さらに変容する産業やサービスに対応するために、IT/IoT化を進めていく必要があるのです。大企業だけでなく、中小企業も人づくり革命、働き方改革、生産性革命をセットで行う必要があります」(津脇氏)。
では、これらのうち生産性革命をどのように実現していけばよいのだろうか? 日本企業が抱える課題としてよく挙げられるのは、経営者がITをコストセンターのように考える風潮があることだ。他国と比べても、データを利活用して、新たなビジネスやイノベーションを起こそうという意識もほとんどない。
とはいえ明るい兆しもある。中小企業では労働生産性も大企業に水を空けられているが、なかには大企業に負けず劣らない成果を上げている例もある。これらは人材確保やIT化がうまくいっている企業が多いという。
津脇氏は「そこで一番大事なことは“身近なIT化”だと思っています。ちょっとしたIT化で、生産性が劇的に上がる事例が出ています。この裾野を中小企業にもっと広げていくために、経済産業省では3つの施策を打っています」と説明する。
まず1つ目は本国会で提出された「生産性向上特別措置法」の「固定資産税の減免」だ。中小企業の設備投資を促すために、市町村の認定を受けると、最大3年間は償却資産に係る固定資産税がゼロになるというものだ。
2つ目は最大1000万円までの「ものづくり補助金」だ。付加価値が年率3%、および経常利益が1%向上するような計画に対して審査が行われる。一社だけでなく、複数社でデータ連携を実施した場合には、さらに補助金が上乗せされるという。
▼「ものづくり補助金制度」。革新的なサービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行う設備投資などで最大1000万円まで支援。
3つ目は、昨年より5倍もの予算(500億円)を計上した「IT導入補助金」だ。1社の上限は50万円で、ITツールを導入した際に補助される。こちらの申請は企業だけで行うのではなく、ITベンダーが申請する仕組みにすることで、企業の負担を軽減している。
▼50万円までの支援が可能な「IT導入補助金制度」。生産性向上のために、業務効率化や売上拡大に寄与するITツールの導入を促す。
津脇氏は「この3年間で100万社規模の中小企業をIT化することを掲げ、生産性向上を集中的に進めようとしています。今後はモデル事例を発掘しながら、戦略的なプラットフォームとしてアプローチしていきます。本施策を国民運動のようにしたいので、是非よろしくお願いします」と協力を求めた。
とはいえ、このような施策を国が打っても、実際の現場でどう進めてよいのか迷う中小企業もあるだろう。そこで中小企業庁では、「中小企業・小規模事業者人手不足対応ガイドライン」や「働き方改革支援ハンドブック」などを制作し、企業の後押しをしているところだ。
この事例では100社のケースを紹介しているが、ここからわかる点は、特に中小企業の人材不足を解消する際に、「女性」「高齢者」「外国人」などの多様な人材の活用がキーになっていることだ。また兼業&副業を推進すると、うまく行く場合があるという。
「兼業&副業については、大企業からも働きたいと思っている人が多いのです。給料が高いと心配されるかもしれませんが、本当に必要な時間数だけ来てもらえば、上手くいく可能性もあります。ある精密機械メーカーでは、トップのCTOから人事などのバックオフィスまで兼業・副業でやっていますが、見る見るうちに業績を伸ばしました」(津脇氏)。
前出の事例集では、3つのステップで人手不足を解消した企業を紹介している。ステップ1では「経営課題や業務を見つめ直す」、ステップ2では「業務に対する生産性や求人増を見つめ直す」、ステップ3「働き手の目線に立って、人材募集や職場環境を見つめ直す」ということだ。
▼中小企業・小規模事業者人手不足対応ガイドライン。実際の現場で解決した100のロールモデルを中心に紹介している。
津脇氏は「まず経営の戦略や課題の優先度を認識し、業務を見直します。数年後にどんな企業になりたいのか、そのための課題と業務を細分化することで、人でやらなくてもよいことが出てくるかもしれません。それをITやロボットに担当させることもできるでしょう。また、もし本当に人が必要な業務でも、多様な人材で対応できる場合は、職場環境を改善すれば、経営課題にヒモづいた人材確保ができると思います」とまとめた。
こういった「攻めの働き方改革」によって、中小企業も変わっていく。もし該当するような課題や悩みがあれば、100の成功事例などを参考にしてみるとよいだろう。たぶん自社に似たケースが出てくるはずだ。いま国が推し進めている中小企業支援事業の補助金なども最大限に活用してみてはいかがだろうか。
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登録はこちら東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにIT、ネットワーク、エンタープライズ、ロボット分野を中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)などがある。