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GSMA:モバイルとプライバシーの協調に向けて

2011.02.17

Updated by Tatsuya Kurosaka on February 17, 2011, 17:19 pm JST

MWCに先立つ1月末、主催者であるGSMAは「プライバシー・プリンシプル」を発表した。スマートフォン時代を見据えて今後ますます重要度が増すであろう、モバイル・プライバシーの取り扱いについて、GSMAとして一定の見解を示したものである。

このプリンシプルの狙いと概要について、GSMAプライバシー担当ディレクターを務めるパット・ウォルシュ氏にインタビューを行った。

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【概要】
スマートフォン時代を迎えて、モバイルはWebとの接近を強めている。一方モバイルには位置情報や加入者情報等、Webにはない特徴がある。そこで通信事業者がこうした時代を迎えるにあたって検討すべきプライバシーの考え方について、GSMAとして論点を整理した。

構成は、まず検討に先駆けて用語の定義や位置づけを明確化し、その上で以下の論点について言及している。

・公開性・透明性・告知の原則
・目的・用途の明確化
・ユーザ自身の選択と制御の担保
・データ最小の原則
・ユーザの権利の尊重
・セキュリティの重視
・教育の重視
・青少年の保護
・説明責任と監視の実施

本文書の特徴は、ユーザ中心の視点でまとめられているということ。GSMAの性質上、直接のターゲットは通信事業者となるが、プライバシーに係る検討の起点は原則としてユーザとなる以上、サプライヤー視点ではなくあくまでユーザ視点での議論が必要であると考えている。

【位置づけと背景】
GSMAがまとめた規範であり、法制化を一義的に意識したものではない。ただ、この領域は現在世界的にも検討が盛んに行われていること、またプライバシーは国ごとに定義が異なり、多様かつ重層的な議論が行われていることを踏まえれば、「業界の声」として法制度への影響が一部で生じる可能性はあるだろう。

OECDガイドライン(筆者註:1980年に編纂された「OECDプライバシーガイドライン」のこと、日本の個人情報保護法も基本的精神はこのガイドラインに準拠している)を前提に、いくつかの論点は現代のテクノロジーやサービス環境を踏まえて定義しなおしている。

背景としては、やはり技術と利用環境が変わったということが一番大きい。そうした状況は今後も拡大する一方で、現状では各国法制度はキャッチアップが困難になっている。すでに通信事業者はサービスとユーザの板挟みになっているケースが少なくないことから、このプリンシプルが通信事業者の検討を進める一助となればいい。

【通信事業者からの反応】
AT&T、ドイツテレコム、オレンジ、テレフォニカ等からすでに賛意と評価をもらっている。もちろんこのプリンシプルのステイタスはまだ「ディスカッション・ドキュメント」の状態であり、今後も様々な意見に耳を傾けながら、また様々な機関とも連携しながら、検討を進めていく。

【筆者の所感】
今回のMWCでもモバイル広告(行動ターゲティング)の観点からセッションが開催されたように、モバイルとプライバシーの接近は、スマートフォンの台頭が本格化する中で、情報セキュリティと共に直面する大きな課題である。

一方でモバイルは汎用的な技術であるため、検討の具体化には個別サービスの分析が必要となり、全体感を伴った議論が進みにくい。また各国の法制度が異なること、契約方法(プリペイドとポストペイ)の違いによって個人情報の取り扱いも異なることから、世界的に一貫した議論が進みにくいという事情もあった。

こうした中で、GSMAから包括的な「規律」が提示された意味は、極めて大きい。おそらく今後はこの活動を軸にして、通信事業者として遵守すべき対応策の検討が進むだろう。また通信事業者、端末ベンダーと、一方の重要なプレイヤーであるサービス事業者(FacebookやGoogle等)がどのように向き合うべきか、という議論も進むだろう。

またこのプリンシプルが準拠するフレームワークとして、カナダ・オンタリオ州コミッショナーのアン・カブキアン氏が提唱する「プライバシー・バイ・デザイン」が採用されていることも、大きな意味がある。

筆者は政府とも連携してプライバシーに関する国際的な検討を進めており、実は今回もバルセロナに入る前にトロントの同事務所で会議を行った。ブラウザへの"Do Not Track"原則を提起した米国FTCのプライバシーレポートでも採用されていることからも分かるように、今後はこのフレームワークがこの領域での検討にも大きな意味を持つのだろう。

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クロサカタツヤ(くろさか・たつや)

株式会社企(くわだて)代表。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)在学中からインターネットビジネスの企画設計を手がける。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、次世代技術推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事。2007年1月に独立し、戦略立案・事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策・ M&Aなどのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。