LTE-Advancedのソフトウエア無線モデムチップを半導体メーカーが開発中
2011.03.18
Updated by Kenji Tsuda on March 18, 2011, 17:30 pm JST
2011.03.18
Updated by Kenji Tsuda on March 18, 2011, 17:30 pm JST
▼Cognovo社創立者兼バイスプレジデントのCharles Sturman氏
LTE(Long Term Evolution)サービスを行う基地局装置や半導体が登場する中で、早くもその次のLTE-Advanced(4G)向けの半導体チップが今年後半に登場しそうな勢いだ。2010年からLTEのサービスが始まったばかりなのにもかかわらず、である。LTE-Advanced向けの半導体メーカーにカギとなるモデム技術のIP(intellectual property)を提供しているのが英国のIPコアベンダーのコグノボ(Cognovo)社だ。
コグノボ社は携帯電話に入っているベースバンドチップのカギを握る賢いプロセッサ回路(IPコアと呼ぶ)を提供するIPベンダーである。半導体チップそのものは設計も製造もしない。ベースバンド専用プロセッサを開発するIPベンダーであり、半導体メーカーにライセンスを供与する。汎用プロセッサのIPベンダーであるアーム(ARM)社と同じビジネスモデルの企業である。2009年11月にARMからスピンオフしてコグノボ社を起業した。
コグノボ社のベースバンド専用プロセッサの特長はソフトウエア無線で実現できるという点にある。LTEの仕様は各国で周波数が違う上に周波数帯域幅も1.4MHzから20MHzまで6種類ある。LTEモデムを作る場合でも何種類も規格が違う場合にはそれぞれ専用チップで実現するならコスト的に合わない。このためソフトウエアで規格をプログラムしておけば、ソフトウエアを変えるだけで世界中のモデムチップをすぐ設計できるようになる。モデムの仕様はソフトウエアでフラッシュメモリーなどに貯めておけばよい。どの国の仕様でもフラッシュから取り出せれば使うことができる。
LTEやLTE-Advancedのようにデータレートが高速であれば、モデムプロセッサも高速に対応しなければならない。このため並列処理演算を行い、モデム処理をリアルタイムで行えるように高速化する。コグノボはこのVSP(ベクトルシグナルプロセッサ)と呼ぶプロセッサで並列演算する。LTE-Advancedのチップでは4個ないし6個のVSPを利用する。VSPはアルゴリズム処理計算を受け持ち、レイヤー1の物理層にある、デコーディングや復調、受送信などモデム動作に必要な物理的な動作をサブフレームに分け、それぞれを処理していく。
VSP1個で1サイクル当たり16MAC(積和演算)の能力を持つ。これを4コアで並列演算すると64MAC/サイクルになる。LTEの能力としてはこの程度らしいが、現在パートナーのある半導体メーカーが開発中のLTE-Advanced向けのチップでは6コアを使っていると同社の創立者兼バイスプレジデントのCharles Sturman氏は言う。
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こういった並列演算に欠かせないのが、このモデムプロセッサに内蔵されたタイミングコントローラとシーケンサである。このうちのシーケンサが並列演算のスケジューリングを行う。システムソフトウエアをサブフレームに分け、各サブフレームを正確なタイミングでスケジューリングを行う。ARMプロセッサはレイヤー1の論理プロトコルをタイミング制御する。
▼モデムのアルゴリズムを計算するエンジン
図は2コアの例だが、「LTE-Advancedでは、4コアないし6コアを用意する。8コアや16コアはフェムトセルやピコセルといった小型基地局に向く。すなわちコグノボ社のVSPプロセッサは、コアの数をスケーラブルに換えられるため、携帯電話機から小型基地局に至る広い市場をカバーできる」とSturman氏は述べる。
ソフトウエアモデムを開発する場合にはこれまでとは違う全く新しいコード開発の制御、最適化、検証などが必要になってくるため、コグノボ社は独自に開発環境システムを作成した。デザインツールや、コンパイラ、デバッガ、コードオプティマイザなどを統合している。
このツールを使って物理層のタスクを完全なモデムとして作り上げるわけだが、このシステムデザインツールではUMLシーケンスを使って簡単に表現する。例えば、デコード回路をベクタープロセッサで処理した後、パケット処理制御し、さらに別の回路へ行く、といったフローを記述する。同じような動作を記述することで並列処理もしやすい。
「顧客の名前は上げられないが、複数の半導体メーカーにこのIPをライセンス供与し、6コアのVSPを使ったLTE-Advancedチップを開発中である。今年の後半にはシリコンが出てくるはずだ」とSturman氏は言う。
文・津田 建二(国際技術ジャーナリスト兼セミコンポータル編集長)
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登録はこちら現在、英文・和文のフリー国際技術ジャーナリスト兼セミコンポータル編集長兼newsandchips.com編集長。半導体・エレクトロニクス産業を30年以上取材。日経マグロウヒル(現日経BP社)時代からの少ない現役生き残り。Reed Business Informationでは米国の編集者らとの太いパイプを築き、欧米アジアの編集記者との付き合いは長い。著書「メガトレンド半導体 2014-2023」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」など。