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東京電力によるKDDI株売却が現実のものとなった場合の影響

2011.04.19

Updated by WirelessWire News編集部 on April 19, 2011, 18:01 pm JST

201104191801-1.jpg東京電力は、KDDIの株式を7.9%(約35.7万株)保有する、京セラ、トヨタに次ぐ第3位の株主だ。東京電力がKDDIの株主となった理由については、詳述は省くが、元々日本移動通信(IDO)の第2位の株主として名を連ねており、旧KDD・DDI・IDOの3社合併を経て、その後、2006年1月に東京電力の通信事業子会社であった旧パワードコムとKDDIの合併時に、パワードコムの取得対価としてKDDI株を東京電力に割当。更に、2006年10月に、当時東京電力が電力事業以外の新規事業の一環として事業展開していたFTTHによる通信事業「光ネットワークカンパニー」をKDDIへFTTH関連設備を含め譲渡することで合意しており、(参考資料 [PDF])この際、KDDIより東京電力へ14.4万株の新株発行により譲渡対価を支払いがなされ、現在の保有株数に至っている。

なお、あまり知られていないが、実は東京電力は、我が国で光ファイバーケーブルを初めて実用化している。何故、東京電力が?と思う方も多いであろうが、元々自社の発電・送電設備の監視業務に通信を利用、それに用いるための「専用線」として敷設・保有していた。

本稿では、先の東京電力福島第一原子力発電所事故補償費用の捻出の為にあらゆる非中核資産を売却するとの4月17日の東京電力記者会見を受け、東電が保有するKDDI株を売却した際の影響について、短期的影響と中長期的影響に分けて考察する。

短期:影響は株価には織込み済み?

KDDI株の1日の売買量は概ね2万株~4万株程度で推移、東電が保有する35万株は、9日~17日営業日分の売買量と同等規模となる。KDDIの業績動向とは一切関係なく、単純に株式市場に流通する株数の受給バランスが一時的に崩れ、株価にとって悪影響となる可能性は否定できない。原発事故補償などへの対応から東電は速やかにKDDI株を売却し現金を得たいものと推察するが、株価へ影響は配慮した形での放出、例えば市場外で第三者や既存株主への売却など、考慮されることとなろう。

この点は、既に株価にも織り込まれていたと十分に解釈可能である。4月15日(金)のKDDI株価は501,000円。東京電力により、KDDI株を含む同社が保有する各種非中核資産の売却が示唆された4月17日(日)の記者会見の翌日、4月18日(月)の株価は499,000円(前日比▲2,000円、▲0.4%)とほとんど影響しなかった。

3月11日の震災以後、東京電力の福島第1原発の影響や被害状況が明るみになるに従い、既に東京電力の事業で無くなっている非中核資産であるKDDI株の売却というのは、株式市場関係者の共通理解であったのかもしれない。

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中長期:KDDIの固定通信事業、FTTH事業への影響はあまり無いと想定

201104191801-2.jpg前述の東京電力からKDDIへFTTH事業が譲渡された際に、東京電力・KDDI間でTEPCO光ネットワークエンジニアリング株式会社(略称:TEPCOネット)という合弁事業が設立されている。当該会社の資本構成は、東京電力株式会社(51%)・KDDI株式会社(49%)となっており、事業内容は、

  • 通信ケーブル保守
  • FTTH設備保守
  • 通信ケーブル関連建設工事
  • FTTHネットワーク設備工事

という、保守メンテナンスを行う合弁企業だ。

KDDIが東電から譲渡を受けたFTTH事業は先にも触れたとおり、元々東電が自社の発電・送電設備の監視の為に用いられていたもの。当然、FTTHの各設備は東電の変電所や電柱などの設備を経由し各家庭に接続されているのであるが、変電所など東電にとっては電気事業上の重要設備であり、セキュリティなどの観点から誰でも簡単に入る事ができるものではない。加えて、今まで東電が主体的に保守運用を行っていた東電所有であったFTTH関連設備を、KDDIだけで保守運用するには、相応のノウハウや経験の吸収が必要であったのであろう。加えて、東電の中にもFTTH事業に従事していた従業員も多くおり、それらの従業員の処遇など、といった点を考慮して合弁企業として設立されたと推察する。

今回、仮に東電がKDDI株を売却するという事になれば、当然、当該合弁企業の解消も視野に入ってくるであろう。そうなると、当該会社に東京電力から出向・転籍した人員のKDDIへの引き取り、当該会社の持つ東京電力保有分のKDDIによる買い取りといった影響も出てくると想定される。

本稿執筆の現時点で、確定した事実は無く、憶測の域を出ないが、上述のような影響に加え、東電変電所内に設置されているKDDI保有のFTTH関連設備の設置関連コスト(設備利用料)についても、東電から値上げ要請が出てくるかもしれない。

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一方、KDDIの固定通信事業は長らく赤字続きであったが、間もなく発表される2010年度の決算では100億円程度の黒字を計画している。10年度第3四半期で既に105億円程度の黒字であった為、計画通りに推移している様子。

元々、同社の固定通信事業は、旧DDI・KDD・TWJ(日本高速通信)・旧パワードコム・東京電力FTTH事業と複数の固定通信事業の複合体であったという背景があり、コアネットワークや通信局舎が重複・複雑化した状態が長らく続いていた。これにより、コスト負担が大きく赤字続きであったのだが、2009年10月に開催された決算説明会において、重複設備のスリム化など合理化策を発表している(説明会資料 [PDF]の24ページから27ページ)。これによれば、2010年度に黒字を達成した後も、各種合理化策の効用で400億円程度の改善が見込めるとされている。

説明会資料 [PDF]
201104191801-3.jpg

今回、KDDI株を東電が売却、その後、合弁企業の解消、東電変電所内に設置する設備設置費用の増加、といった最悪シナリオが顕在化したとしても、元来から実施されている数百億円規模のKDDI固定通信のコスト削減策が十分吸収するものになり、ほとんど影響は出ないのではないかと推察する。繰り返すが、現時点では限られた情報であり、確定している事実も無い状況での分析である為、憶測の域を出ないが、今後の動向を注視していくこととしたい。

 
文・梶本 浩平(金融機関にてアナリストとして通信セクターを担当)

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