スマートフォンのデータを活用したさまざまな研究の取り組み(その1)
2011.05.21
Updated by WirelessWire News編集部 on May 21, 2011, 12:00 pm JST
2011.05.21
Updated by WirelessWire News編集部 on May 21, 2011, 12:00 pm JST
▼Improving Wireless Network Performance Using Sensor Hints (PDF) - MIT
4月の後半に、iPhoneやAndroid端末といったスマートフォンでユーザーに不透明な形で位置情報が収集されていたことが明らかになり、一部で大きな話題となっていたが、この出来事をきっかけに「携帯端末を利用してどんな情報が集められるのか」「集めた情報を解析することで、どういうことが可能になるのか」といった事柄について進められている研究について、英米のメディアがこぞってレポートしていた。そのなかから興味深い話を何度かに分けて紹介する。
まず、英The Economistでは「Every move you make」と題する記事のなかで、最新のスマートフォンに搭載されたさまざまなセンサー類を活用することで、ネットトラフィックの無駄を省き、ネットワークの混雑緩和を可能にしようという研究についての話題を採り上げていた。
この記事によると、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のコンピュータサイエンス&人工知能研究室に所属する4人の研究者が、今年の3月にある研究の成果をまとめた論文を発表したという。この研究のねらいは、簡単にいうと、停止状態であれば比較的高速にデータをやりとりできる携帯端末も、携帯基地局やWi-Fiホットスポットとの距離や位置関係が変わり続ける移動時には(静止時にくらべて)通信のパフォーマンスが目に見えて低下してしまいがちという問題を解決すること。
たとえば端末が基地局もしくはWi-Fiアクセスポイントから遠ざかると、電波の受信状態が低下し、通信速度は低下する。この際に両者の間で(接続を絶やさないように)ネゴシエーションが繰り返されるが、この通信制御用のトラフィックも数が増えれば大きな負荷になるだけでなく、ある基地局から次の基地局へ接続が切り替わる(ハンドオフ)ときには、データを再度送受信しなければならないというような無駄も発生する。また通信速度が下がれば、同じ量のデータをやりとりするのにそれだけ長い時間が必要となり、一度に処理できる通信(コネクション)の数も少なくなってしまう。
こうした問題を解決するために、MITの研究者らは、携帯端末の位置情報に加えて、これらに搭載されるGPS、加速度センサー、コンパス、ジャイロスコープといったセンサー類からのデータも活用することで、ユーザーの移動する方向や速度を予測し、あらかじめ最適なデータ転送速度を設定するようなアルゴリズムを通信プロトコールに組み込もうというアプローチを採ったという。
さて。気になるのはこの試みの結果だが、研究者らの主張では、通信のスループットが(元になったプロトコールを利用した場合に比べ)最大で50%ーー最適な接続状態の85〜95%程度まで改善できる可能性があると、同記事では伝えている。また、この方法では通信速度やハンドオフを制御するプログラムに手を加えるだけで済み、ハードウェアやチップへの改良が必要な他のアプローチに比べて実装が比較的容易という長所もあるという(研究の詳細にご興味のある方はぜひ下記リンク先の論文をご覧いただきたい)。
モバイルトラフィックの増大に頭を痛める通信事業者にも、またつながりにくいネットワークにフラストレーションをためがちなユーザーにとっても、この研究の成果が福音となる日がやってくるかもしれない。
次回は、スマートフォンや対応アプリをつかって集めたデータから、ユーザー本人も意識しない行動パターンを予測したり、選挙の結果や病気の感染パターンを占ったりといった研究についてのレポートを紹介する。
【参照情報】
・Every move you make - The Economist
・Improving Wireless Network Performance Using Sensor Hints (PDF) - MIT
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