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スマートフォンのデータを活用したさまざまな研究の取り組み(その2)

2011.05.27

Updated by WirelessWire News編集部 on May 27, 2011, 16:00 pm JST

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(cc) Image by Kavya Bhat

前回に続き、携帯電話などから集めたデータを解析し、さまざまな目的に役立てようという研究の話を紹介する。

Wall Street Journal(WSJ.com)のウェブサイトで、4月下旬に「The Really Smart Phone」というタイトルの記事が掲載されたたが、この記事のなかでは欧米の大学などで行われた研究例があわせて9つも紹介されている。全部について記すことは(いろんな意味で)とてもできないので、ここでは目を惹いたものをいくつか採り上げてみる。

まず、Twitterでのユーザーの「つぶやき」を解析して株価変動の予測に役立てようという取り組みについて。

インディアナ大学のヨハン・ボーレン(Johan Bollen)氏という研究者らは、毎日携帯電話やコンピュータからTwitterに送られるユーザーのつぶやきを収集、その内容を解析して人々のムードの変化を全国レベルで把握することで、ダウ・ジョーンズ株価指数の上下動を6日も前から予測するための手がかりを得た。驚くのはその精度で、なんと87.6%にもなったという。

この研究のために収集・解析されたつぶやきの数は約970万件で、つぶやいたユーザーの数は述べ270万人に上った(調査は2008年の3月から12月にかけて行われた)というが、この研究を通じて、「Twitterで行き交うメッセージの内容が明るくなると、その後株価も上昇する」という相関関係を見つけたボーレン博士は、「これはいま起こっていることを観察するというだけではない」とし、「相関関係のパターンがわかれば、トレンドや世論、大衆の心理などをより上手に操作できるようになる」とコメントしている(ちょっとコワい話かもしれない)。

次に、ボストンにあるノースイースタン大学では、欧州の通信キャリアから入手した10万人のユーザーの行動パターンを分析することで、人間の行動がどの程度予測できるかを調べた。

この研究では延べ1600万件の通話記録(通話の日時や発信・受信の場所など)が分析されたが、その結果人々(携帯電話ユーザー)がある数学的なパターンに沿って動いていることが明らかになったという。そして、十分な数のデータを集め、その行動パターンを知ることができれば、特定の人間が将来のある時点でどこにいるかを93.6%の精度で予測することもできると、この調査にあたった研究者らは説明している。なお、この結果はユーザーごとの違い--年齢や性別、あるいはその人がいろいろな場所に旅行しているかそれとも決まった範囲内にいることが多いかなどには関係なく、いずれも同じように当てはまるという。

この研究に携わったネットワーク物理学者のアルベルト・ラズロ・バラバシ(Albert-Laszlo Barabasi)氏は、「私たちの目には、人間が空間内を動き続け時折コミュニケーションを取り合う小さな粒子に見える」とし、さらに「私たちは、社会全体をひとつの実験室として、(人々の)振る舞いを客観的に追いかけることができるようになった」とコメントしている。

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また、もっと具体的で切実な問題の解決に利用できそうな研究例もある。サンタフェ研究所(Santa Fe Institute)のネイザン・イーグル(Nathan Eagle)氏によると、欧州のいくつかの携帯通信事業者では、加入者の通話記録をデータマイニングにかけたことで、他社に乗り換えた友人がいる加入者が自らも乗り換えに踏み切る確率は、そうでない人にくらべて5倍も高いことを突き止めたという。この結果を踏まえ、これらの通信キャリアでは現在他社に乗り換えた友人のいる加入者を選んで特別なキャンペーンを打ち、引き留めを図るようになっているとのこと。

なお、このイーグル氏というこの研究者は、世界80カ国の220社の携帯通信事業者と仕事をしているそうで、過去には中南米、アフリカ、欧州にいるあわせて5億人の携帯電話ユーザーのデータを扱ったこともあるそうだ。

最後に。これまでの例はいずれも携帯電話ユーザー自身の関与の度合いが低いものだったが、WSJ記事ではスマートフォンと対応アプリを利用したMITの取り組みの例も紹介されている。

同大学のヒューマン・ダイナミクス・ラボラトリー(Human Dynamics Laboratory)に籍を置くアレックス・ペントランド(Alex Pentland)氏という研究者が行ったこの実験では、60人の学生ボランティアに独自開発のアプリをインストールしたAndroidスマートフォンを配布。このアプリがユーザーのスマートフォンを使った活動を自動的に記録したほか、ボランティア側でも健康状態や体重、食事や買い物の記録などを提出し、スマートフォン側で集めたデータと照合するというやり方を採った。

配布されたAndroidスマートフォンは、通話やテキストメッセージなどの活動を20分ごとに匿名化して位置情報とともに記録、また10フィート以内に他の携帯端末があるかどうかを6分ごとにスキャンして、持ち主が誰かと顔を合わせているかを調べたという。

2年間にわたって続いたこの調査では、延べ32万時間分のデータが集まったが、それを解析したペントランド博士は、「ある参加者がどこにどれくらい居たかを目にするだけで、その人の好きな音楽や、運転するクルマの車種、発病のリスクなど、多くのことがわかるようになった」と述べている。また、ユーザーの動きやコミュニケーション・パターンの変化から、そのユーザーが風邪にかかった可能性を本人が気付く前に察知したり、あるいは実際に会話の中味を聞かなくても、政治の話が話題に上っていることを推定することもできたという。この研究分野の先駆者とされるペントランド博士は、「(携帯電話の普及で)いまや人間は、人の振る舞いについて神の視点を持てるようになっている」としている。

こうした「神の視点」の獲得が、計算力(computing power)の飛躍的な増大に基づくデータの可視化などの賜物であることはいうまでもないが、次回はそうした計算力の向上をもたらした2つの要因に関連する話を紹介する。

【参照情報】
The Really Smart Phone

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