WiMAX2技術の開発(3)マイグレーション案と将来の展望
2011.06.03
Updated by WirelessWire News編集部 on June 3, 2011, 16:30 pm JST
2011.06.03
Updated by WirelessWire News編集部 on June 3, 2011, 16:30 pm JST
マイグレーションに向けた想定
既にWiMAXシステムを導入、運用を行っている通信事業者が、新たにWiMAX2を導入する場合、従来のWiMAXサービスを継続した状態で、システムを更改する必要が生じる。市場には、既に多数のWiMAX対応端末が存在する中で、システムをWiMAX2に変更する作業が進むが、従来のサービスを維持し、WiMAX端末によるサービスを担保することがサービス提供において重要な要素となる。
WiMAX フォーラムでは、これらの状況を想定してWiMAXからWiMAX2へのマイグレーション方法を検討して、ホワイトペーパ [PDF]として取りまとめ、同フォーラムのWebサイトで公開を行っている。
ここでは、本ホワイトペーパに記載されている典型的な4つのマイグレーション例を紹介する。
●マイグレーション例1
本案は、WiMAXの無線チャネルが1つ(例えば10MHz)で運用されている場合にも可能な案として、WiMAXとWiMAX2を同一チャネルで使用する場合のマイグレーション例を示す。(図11を参照)
既に運用中であるWiMAXネットワークのBS(WiMAX BS)に、同一チャネルを利用してAdvanced-BS(WiMAX2 BS)を追加又は置換していく場合のシナリオである。設置されるAdvanced-BSは、配下に収容するWiMAX(のみ)とWiMAX2(両モードに対応)端末が共存可能とするために、WiMAX/WiMAX2 Mixed Modeを採用して導入が進められる。
WiMAX対応端末は、従来のBS及び、Advanced-BSのWiMAXモード領域にアクセスして通信を行うことを可能とする。一方、WiMAX2対応端末は、従来BSにはWiMAXモードで、Advanced-BSにはWiMAX2モードを利用して通信を行うことで、基地局及び端末の双方にバックワードコンパチビリティを維持する。
WiMAX2端末の市場普及とAdvanced-BSの展開が広がることで、順次周波数利用効率の向上と無線容量の拡大を図り、WiMAX2対応が進む中で最終的にWiMAX2への移行を完了させる事を可能とする手法である。
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●マイグレーション例2
本案は、周波数リユース3でWiMAXネットワークを展開している事業者が、新規の無線チャネルを追加してWiMAX2を導入する場合のマイグレーション例を示す。(図12を参照)
新規チャネルには、Advanced-BSを周波数リユース1のWiMAX2 Full Modeで追加して、WiMAX2の運用を開始する。その後、既存チャネルはAdvanced-BSをWiMAX/WiMAX2 Mixed Modeをリユース3のままで導入することで、どの段階においても既存チャネル、新規チャネルともに、配下に収容するWiMAX(のみ)とWiMAX2及び、WiMAX2マルチキャリア(既存と新規チャネル間のマルチキャリア)の3種類の端末の共存を可能することが出来る。
●マイグレーション例3
本案は、周波数リユース1でWiMAXネットワークを展開している事業者が、新規の無線チャネルを追加してWiMAX2を導入する場合のマイグレーション例を示す。(図13を参照)
新規チャネルには、Advanced-BSを周波数リユース1のWiMAX2 Full Modeで追加して、WiMAX2の運用を開始する。
マイグレーション例2同様、既存チャネルにAdvanced-BSをWiMAX/WiMAX2 Mixed Modeで運用することで、配下に収容するWiMAX(のみ)とWiMAX2及び、WiMAX2マルチキャリア(既存と新規チャネル間のマルチキャリア)の3種類の端末の共存を可能することが出来る。
●マイグレーション例4
本案は、周波数リユース2でWiMAXネットワークを展開している事業者が、新規の無線チャネルを追加してWiMAX2を導入する場合のマイグレーション例を示す。(図14を参照)
新規チャネルには、Advanced-BSを周波数リユース1のWiMAX2 Full Modeで追加して、WiMAX2の運用を開始する。
マイグレーション例2同様及び3同様、既存チャネルにAdvanced-BSをWiMAX/WiMAX2 Mixed Modeで運用することで、配下に収容するWiMAX(のみ)とWiMAX2及び、WiMAX2マルチキャリア(既存と新規チャネル間のマルチキャリア)の3種類の端末の共存を可能することが出来る。
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●トラヒックの爆発的な拡大予測
現在、移動体通信におけるトラヒックの増加は、従来型のハンディホン型の携帯電話によるメールやインターネットアクセスに加え、iPhoneやAndroidを搭載したスマートフォン型の端末の普及によりトラヒックが急速な増加を示し、世界中の3G携帯電話網の通信容量が圧迫している状況にある。
この状況は、日本でもその傾向を示しており、総務省が平成21年に公表した情報通信審議会 電波政策懇談会報告書において、『今後、新サービス・新ビジネスの登場や、それに伴ったトラヒックの増大が予想され、2020 年までには、電波利用の質・量が爆発的に拡大し、トラヒックは200 倍以上になると考えられており、多種多様なアプリケーションの実現に向け、高信頼かつ高効率な品質保証技術、帯域割当技術、干渉回避低減技術の研究がなされている。』と既に示されている。
また、それらの用途として、『ハイビジョン映像のアップロード、映像教材のストリーミング、大容量データ伝送による家電との連携、大容量のサイネージ情報の配信や医療画像伝送による遠隔医療などの新たなサービスが登場するほか、新システムに置き換わって提供される既存のサービスにおいてもコンテンツの大容量化が進むことが想定される』とされている。
このように、移動通信には、利用コンテンツのリッチ化や電波利用の質の向上が求められ、膨大なデータを快適かつ、低コストに伝送する通信システムの登場と、サービスの提供が求められる状況にある。
●高速大容量化によるストレスフリー
従来の電話型サービス(携帯電話の音声サービスなどのように低レートに符号化して、遅延などの品質を一定に維持して提供する公衆網型のサービス)に対して、インターネット型の通信サービス(インターネットに接続し、ベストエフォートが前提であるが、通信リソースが空いていれば専有も可能なサービ)のデータ通信に期待される品質要求とは、やや異なるものであると考えられる。
UQコミュニケーションズのWiMAXの通信サービスは原則として、音声サービスを提供しておらず、インターネットアクセスを中心とするデータ専用のサービスで、インターネット型の通信サービスに最適化して提供されている。
特にバースト性の高いデータ通信には、瞬時的に全ての通信リソースを特定のユーザに割り当てる事を可能とするスケジューリング方式を採用しており、複数のユーザからランダムなデータデマンドを受けるケースでは、フレーム内でユーザ数を少なく、各割当て量を大きくして、データ伝送時間を最短化する事で、統計多重の効果を最大化し、ストレスの少ない通信サービスの提供を可能としている。今後、WiMAX2により、最大伝送速度が超高速な領域に達すると、その効果は更に顕著となり、ユーザはインターネットの利用に際して、あたかも常に通信システムのリソースを専有しているかの感覚で利用できる環境を得ると期待される。
一方、映像ストリーミングなどのアプリケーションに関しても、WiMAX2の高速大容量化はストレスフリーな通信環境提供に有効であると考えられる。列車など移動車両に乗りながら、インターネットから映像系のコンテンツをダウンロードして楽しむシーンを想定すると分かりやすい。例えば、東京駅から山手線に乗車しつつYouTubeなどを楽しむ場合、下り最大速度330Mbpsを提供するWiMAX2が平均100Mbps程度で通信を行うことを想定した場合に、例えば100MB(YouTubeでのアップロード可能な最大値)をダウンロードする為に必要な所要時間は、わずか8秒程度の計算となる。これは、あくまでも計算上の話ではあるが、東京駅を発車直後にダウンロードを開始した場合には、列車の最後部が駅を離れるまでにダウンロードが完了し、あとはコンテンツを再生して楽しむことができるイメージだ。
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●通信の無線化促進、パーソナル化促進
インターネット接続が、ADSLやFTTHにより自宅から行われる利用シーンに加え、移動体の通信システムや通信サービスの高速大容量化が進み、またインターネットを利用する端末デバイスが、デスクトップPCから、モバイルPC、タブレット型端末、スマートフォン型端末へと可搬性が高まる事により、通信システムの無線化のニーズは益々拡大する。また、アプリケーションやコンテンツがインターネットに蓄積され、クラウド化が広がる環境では、移動通信の高速化による利用シーンの変化として、既存の固定通信を巻き込み、自宅からの通信サービスですら無線化が進むと考えられる。
●WiMAX2開発状況
このような状況を鑑み、UQコミュニケーションズでは次世代の移動通信技術の有力な候補としてWiMAX2(16m)技術の開発の取組を進めている。それらの成果は、将来の通信ネットワーク構築と運用に向けたノウハウとして蓄積する他に、IEEE802委員会やWiMAXフォーラムにフィードバックを行うと共に、広く一般に成果の公開を進めている。
具体的な例として、2010年10月に幕張メッセで開催された、CEATEC2010において、下り最大330Mbps/上り最大112Mbpsを達成したWiMAX2通信システムの評価設備を一般に公開した(参考)。当該システムは、40MHzの帯域幅を用いて、アンテナ構成に4x4MIMOを採用して実機で330Mbpsを達成する世界初のデモンストレーションであり、国内外の通信業界関係者の間で大きな話題となった。
また2011年現在は同システムを用いたフィールド評価を実施する準備を行っており、2011年初夏には評価試験を開始する予定である。その後、フィールド評価の成果を一般に公開する事が可能となる見込みである。
WiMAX2は、国内において2012年頃に通信サービスを提供する事をターゲットに、一連の実証試験、開発成果を基に実用化への取組みを進めていく。
文・要海 敏和(UQコミュニケーションズ株式会社 技術副部門長 兼 ネットワーク技術部長)
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