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「3.11」で強化、携帯電話キャリアーの停電・節電対策 [前編]24時間稼働基地局を全国に配置、電源車で有事に備える

2011.07.22

Updated by Naohisa Iwamoto on July 22, 2011, 12:01 pm JST

いつ起こるともわからない自然災害や電力不足による大規模停電への危機感。そしてビジネススタイルやライフスタイルの変革をも迫る節電。「3.11」以前は漠然とした課題だった事項が、今は目の前に迫る脅威へと変わった。通信事業者のネットワークは電力をエネルギー源として動いている。サービスを提供するには膨大な電力が必要であり、また電力が途絶えればサービスも止まる。ここでは、今やライフラインの筆頭に位置する携帯電話サービスを提供する事業者が、どのような停電対策・節電対策を講じているのか、その最前線を探った。前編では停電対策から見ていこう。

停電しても電力をまかなえるように

東日本大震災は通信事業者にとっても未曾有の大災害だった。NTTドコモのコアネットワーク部 コアネットワーク企画担当部長を務める三木睦丸氏は「長期間にわたり広範囲でこれまでに経験したことのない次元の停電が起こった」と東日本大震災の規模を振り返る。通信事業者にとって、通信回線とともに電力の確保はまさに死活問題だ。電力を得られなければネットワークは動かない。これまでも各社は停電対策を講じてきたが、東日本大震災の被害は想定を大きく上回った。基地局自体が津波で流されてしまったような場合もあり、これは別の手段でエリアを確保しなければならない。一方で、ハードウエアも回線も平気だったにもかかわらず、停電で使えなくなった基地局もある。

NTTドコモの三木氏は「今回の大震災では、最長で60時間もの停電が続いたケースがある」と指摘する。コアネットワークを構成するネットワークセンターは、24時間以上の停電に絶えられるように自家発電装置の装備と燃料の備蓄があるという。しかし、60時間規模の停電が広範囲で続いたら、備蓄してある燃料では足りなくなり燃料の補給方法を確保しなければならない。

携帯電話端末と直接電波のやり取りをする基地局にも、停電対策は施されている。基地局は基本的に電力会社の商用電源で動いており、工事などの停電に備えて最低でも3時間の稼働ができるバッテリーを装備していると携帯電話事業者各社は口を揃える。しかし、被災地では3時間のバッテリーではまかないきれない停電が起こり、首都圏でも計画停電で商用電源の供給が数時間にわたって途絶える事態が発生した。

こうした事態を受けて、携帯電話事業者は停電対策に本腰を入れることになった。各社の共通点を拾っていくと、図1のような対策のポイントが見えてくる。

▼図1 携帯電話事業者が採る停電対策の主なポイント
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非常用発電機への燃料補給がカギ

まず、コアネットワークを構成するネットワークセンター。ネットワークセンターは、各地方や県単位などに設置しているネットワークの要である。そのため、これまでも「自家発電装置といった非常用電源を用意し、電力をまかなえるような仕組みが整えられていた」(KDDIの技術企画本部 ネットワーク技術企画部 ネットワーク計画グループ 課長の石井邦典氏)。停電の際にネットワークセンターが止まらないように、対策はすでに施されていたのだ。

▼KDDI 技術企画本部の石井邦典課長
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各社のネットワークセンターの非常用電源の扱い方は、大震災を経験した後でも基本的には従来の延長線にある。要するに、非常用の発電機を動かす燃料の備蓄を増やしたり、燃料の供給路を確保して発電を続けられるようにするという方策である。ソフトバンクの広報室担当課長の伊東史博氏は「48時間以上の電源を確保する主要ネットワークセンターを10カ所以上、その中でも最重要拠点の7カ所については72時間の稼働ができるように燃料を備蓄するようにした」と語る。KDDIでも拠点の重要度によって、稼働できる時間に重み付けをしていると言う。

いざというときには、発電機の燃料をどうやって供給し続けるかが1つのポイントになる。「停電や災害が長期間で広域にわたると、燃料の確保が非常に大変になることを経験した。50カ所以上あるネットワークセンターへの燃料の補給や管理を最適化するとともに、NTTグループ全体としての燃料の確保の体制を整えた」(NTTドコモの三木氏)。KDDIでも同様に災害時に優先的に燃料を供給してもらえるような契約を事業者と結んだという。ソフトバンクモバイルは、自前での確保にも力を入れる。「震災後、ネットワークセンターの地下に燃料プールを作り、自動車用のガソリンと発電機用の燃料を備蓄している」(ソフトバンクの伊東氏)。電力を確保することと燃料を確保することは、災害時には同義になるのである。

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基地局はまずバッテリーを大容量化

数が少なく非常用発電機などの装備があるネットワークセンターと異なり、基地局は数が多い。その上、ハード面での既設の対策は"3時間バッテリー"に過ぎない。しかし、「停電や節電でサービスを止めるわけにはいかないのが携帯電話」と各事業者の担当者は口を揃える。非常時にもサービスを継続できるような電源の供給の仕組みが必要になるのだ。

災害や電力事情により停電が起こった場合、基地局に電源を供給し続けるための手段は複数ある。ここでは、まず電源の供給が途絶えたとしても、問題があるのは電源供給だけというケースを考える。災害時に送電設備に不具合が生じたり、電力不足の影響などで起こる停電だ。この場合は、基本的には時間が経てば電力の供給は復活する。それまでの数時間ないしは数十時間を、耐えしのぐだけの電源電力が確保できればいい。

こうした事態には、まずバッテリーの大容量化で対応する。大手3事業者は、これまで3時間といった容量しかなかったバッテリーを大容量化して、24時間を超える継続利用を可能にしようとしている。

▼NTTドコモ ネットワーク部の坪井治担当部長
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NTTドコモでは、今後の停電対策として「1100局の既存基地局をバッテリーで24時間稼働できるようにする。長時間の稼働を可能にするバッテリーは10トン級で非常に重いため、ビルの屋上の基地局を24時間対応にするのは難しい。地上に設置してある局を中心に24時間対応を進める」(NTTドコモのネットワーク部 ネットワーク企画部門担当部長の坪井 治氏)。KDDIも同様で、「既存局を中心に2000局を2012年度末までにバッテリーで24時間以上稼働できるようにする」(KDDIの技術企画本部 モバイル技術企画部 企画グループ 課長補佐の和田修一氏)という対応を7月1日に発表したばかりだ。

ソフトバンクモバイルは、バッテリーでの基地局の長時間稼動への対応がNTTドコモやKDDIとは少し異なる。ソフトバンクの伊東氏は「24時間対応する基地局は2200局を新設する計画」と言うのだ。基本的にはバッテリーで24時間対応を進めるとするが、他社とは異なるのが"新設"という点だ。これには事情がある。ソフトバンクモバイルのSoftBank 3Gは1.5GHz帯が割り当てられており、NTTドコモのFOMAプラスエリアやKDDIのCDMA 1X WINなどが使用できる800MHz帯と電波の伝播特性が異なる。直進性が高く回り込みにくいために、1.5GHzでは「2000局の規模では必要なエリアをカバーできない。900MHz帯の周波数を割り当てられることを前提に計画を立てている」(ソフトバンクの伊東氏)という。運用が始まったとしても、新しい周波数帯に対応した端末が必要になるなど、バッテリーによる24時間対応までの道のりはやや遠い。

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非常用発電機で無停電化

バッテリーによる長時間稼動が、その容量で稼働できる時間内に復旧できることを前提とするのに対して、基地局を無停電化するという手法もある。これは基地局にエンジンを使って発電する発電機を持ち込み、発電しながら運用する方法だ。燃料補給さえ継続できれば、基地局を動かし続けられる。バッテリーのように空になってしまったらおしまいということにならない。

▼ソフトバンク 広報室の伊東史博担当課長
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NTTドコモは無停電化にも積極的で、800局を発電機を利用した無停電基地局にする。無停電化が済んでいる400局に加えて、新しく400局を無停電化するのである。今回の大震災でも、基地局に発電機を持ち込んだり、移動電源車を横付けしたりして、基地局の電源を確保したという。

ソフトバンクモバイルでは、移動電源車の購入とともに発電機を大量に購入したと説明する。基地局に発電機を常設するのではなく、「発電機をプールしておき、何かがあったときには燃料を詰めて基地局に配る」という考え方だ。バッテリーによる24時間対応の基地局が整備できるまでは、既存の基地局に発電機を移送してサービスを継続することになる。さらに伊東氏は「タンクローリーも4台購入した。ここまでしたのはソフトバンクモバイルだけではないか。災害時には発電機を動かすにも、基地局に発電機を運ぶ自動車にも、燃料が必要ということを強く学んだ」と続ける。KDDIも移動電源車と発電機を合わせて、これまでの55台から130台へと倍増以上に増強した。発電機は全国の複数のセンターに分散配置して、有事の際には全国から必要とされる地方に移送するという。

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役所や病院など、情報と人が集まるエリアを優先

基地局の停電対策として、バッテリーの大容量化や発電機による無停電化で稼働させるという通信事業者の対応策を見てきた。表1に大手3事業者の基地局停電対策をまとめた。

▼表1 携帯電話大手3社の基地局の災害対策
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NTTドコモはバッテリーの24時間対応と発電機による無停電化を合わせて1900局に停電対策を施す。KDDIは2000局にバッテリー24時間対応を、ソフトバンクモバイルは新しい周波数帯の基地局を2200局新設してバッテリーによる24時間対応を行う。具体的な方法は異なるにしても、数字は各社で非常に似通っている。これは、災害時に携帯電話のサービスを最優先して確保するエリアの考え方が似通っているからだ。

NTTドコモでは「全国に地方自治体が約1900ある。都道府県庁や市町村役場が、災害時には指令塔となって対応する拠点になる。また役所の近くには警察や消防などがあるケースが多い。災害時に長時間稼動する基地局として、1900の役所をカバーするようにエリアを作る考えから1900局に対策を施す」(NTTドコモの坪井氏)。ソフトバンクモバイルも、これに近い考え。「病院などの医療機関と役所をカバーするようにエリアを検討している。そこで見えてきたのが2200局」(ソフトバンクの伊東氏)なのだ。一方、KDDIは現時点ではそこまでエリア構成を明確にしていない。「被災したときに人が集まるところ、通信を確保しなければならないところを重点的にエリアにする計画だが、まだ具体的な方針などは決まっていない」(KDDIの和田氏)と言う。

こうしたエリア対策で、万が一の際に通信手段を確保できる可能性は高まる。しかし、24時間の長時間稼動バッテリーを装備したり無停電化した基地局は、1つの事業者ですら全国に数万局を超える基地局のうち、ごく一部でしかないということだ。すべての基地局に長時間稼動できるバッテリーを装備するといった対策は、コスト的にも物理的制約の面でも難しい。基地局の停電対策として役所などを中心にエリアを作る方針が示されたので、今後の万が一の際は役所の近くに行くと携帯電話がつながる可能性が高くなりそうだ。

既存の基地局のエリアを整備するのとは異なる考え方もある。NTTドコモが発表している「大ゾーン基地局」という新しい基地局の整備だ。これは非常時にだけ利用する基地局で、通常の基地局よりも広い半径7kmの地域をエリアにできる。2011年12月までに都道府県に約2局ずつ、全国で合計約100局を設置する計画である。こうして作る大ゾーン基地局のエリアは、人口の約35%をカバーする。大規模災害で通常局が広範囲にわたって停止しているような場合に、大ゾーン基地局に切り替えて携帯電話サービスを継続させる。これは通常の基地局が停電したようなケースだけでなく、通信回線が途絶してしまったような場合にもエリアの確保の力になる。

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回線も含めて通信を確保

基地局の停電対策としては、ここまでに見てきたような電源の確保が中心的な方法であることがわかった。しかし、前述したように、これは基地局の設備や通信回線には大きな損傷がなく、基地局への給電ができないときの対策である。通信回線にも損傷があったり、基地局そのものが流されてしまったような災害では異なる対策が必要になる。

通信回線も確保できなくなった被災地では、衛星回線やマイクロ波の回線などの無線回線を使ってエリアを仮復旧させる。1つは、衛星通信ができるパラボラアンテナなどを装備した車載型の移動基地局や可搬型基地局を被災地に持ち込む「衛星エントランス」と呼ぶ手法。もう1つは、被災地の基地局に向けて、稼動している基地局からマイクロ波などによる通信を使って回線を確保する「無線エントランス」「マイクロエントランス」などと呼ぶ手法である。

NTTドコモでは、衛星エントランス基地局として車載型基地局を従来の倍増となる19台へ、可搬型基地局を24台新設する。非常用のマイクロエントランス設備を100区間で整備する。KDDIでも衛星エントランスとして車載型基地局を15台から20台に、無線エントランスを40区間から60区間へと増強する。ソフトバンクモバイルは、衛星エントランスの充実を図る。車載型基地局としては従来はトラック型を15台保有してたが、これを40台へと増強。さらに小型の乗用車タイプの車載型基地局を60台追加し、合計100台態勢で有事に備える(図2)。

▼図2 ホンダのエリシオンを改造した車載型基地局。トラックよりも小回りが効き、被災地でエリア確保に役立った
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「乗用車タイプの車載型基地局は、イベントなどでの利用も考えて装備を準備してきた。今回の大震災で、大きなトラックでは入れない場所に基地局を設置できたり、被災地の中で小回りが効くといったメリットを得られた」(ソフトバンクの伊東氏)。ソフトバンクモバイルではこのほかに、可搬型の基地局も200台規模で用意する。衛星の自動追尾機能を搭載し、設置してから10分程度もあれば衛星エントランスを確保できると言う。

東日本大震災を受けて携帯電話事業者各社は、自然災害や予期せぬ停電、通信回線の途絶といった状況でも携帯電話を使った通信が確保できるように、対策に本腰を入れている。こうした対策が役に立たずに済むことを祈りつつ、早急の準備完了が望まれる。後編では、携帯電話ネットワークの節電対策にフォーカスして、事業者の対応を見ていく。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。