「人生万事 塞翁が馬」「禍福はあざなえる縄のごとし」"Every cloud has a silver lining"...。「世の中は何が幸い（あるいは、災い）するか判らない」「どんな状況でも良い面はある」といった類の言葉は、洋の東西を問わず昔からあるようだが、そうした言葉を思い出させる話を見つけた。

Wall Street Journalの"Tech Europe"というブログで、欧州のIT業界に対するベンチャーキャピタルの投資に関する話を載せていて、人口ひとりあたりの今年の投資額を比較するとフィンファンドが46ドル、そしてスウェーデンは45ドルになったという。この2つの国の数字は、一人あたり72ドルの米国、同じく142ドルのイスラエルなどと比べるまだまだ低いが、それでも欧州全体の7ドルに比べれば格段に高い。そしてTech Europeの記事では、この理由について「経営難に陥ったノキアが人員削減を進めた結果、数年前には外部に出ることのなかった多くの技術的なノウハウが突如放出されたことによるもの」といった業界関係者のコメントを紹介。さらに「フィンランドには技術的に洗練されたエンジニアの文化があり、彼らはどちらかといえば口数が少ない人々だが、コンピュータやプログラミンについての知識では他を圧倒するものを持っている」とのコメントもみられる。

ちなみに、ArcticStartupというブログによると、フィンランドのIT系ベンチャー企業への投資額は今年1憶7500万ユーロになる見通しで、そのうちの3000万ユーロ（4200万ドル）が、人気のスマートフォン・アプリ「Angry Birds」を開発したロビオ（Rovio）へのものだという（この一社への投資だけで、国民ひとりあたりの投資額は8ドルと、欧州全体の数字を上回る）。

Tech Europeでは、別の業界関係者の話として、「過去20年間にわたってノキアの社内外で蓄積されてきた技術の集積や外部のエコシステムなどが、こうしたベンチャー企業活況の基盤にあり、同社の研究開発費削減と、世界的なスマートフォン市場の拡大にともなって、ノキアのなかでも最も優秀な人材の一部がベンチャー企業に流れている」とも記している。

さらに、「フィンランド人の間でリスクを取ることに対する抵抗感が以前より少なくなっている」「ロビオの世界的な成功が、ベンチャー起業家志願者のお手本になっている」「まだ数こそ少ないものの、いくつもの事業を立ち上げてきた実績をもつ起業家も増えつつある」といった要因も記されている。なお、ロビオ以外の成功例としては、Symbianアプリで一番人気となり、iPhoneやAndroidアプリの開発にも乗り出したSports Trackerという会社が挙げられている。

IT業界での価値の在処が、ハードウェアからソフトウェアに移る流れは日本でもお馴染みのものだがーー「NEC98シリーズ」を記憶している世代の人間としては、時価総額で「ディー・エヌ・エー 5972億円 > NEC 4272億円 > グリー 4075億円」（今日＝8月5日時点）という事実に改めて少し驚いたりもするーー、日本（少なくとも東京）との違いもある。ある起業家は「われわれがIT分野にフォーカスしているのは、フィンランドに天然資源が乏しいこと、それに厳しい自然環境と関係があるかもしれない」と述べているが、後者の要因についてはそれだけ気を散らせるものが少ないということだろう。ちなみに、リサイクル関連の技術を開発するこのZenRoboticsという会社では従業員20人のうち博士号取得者が8人もいるという。

このブログではお終いに、My WOTというサービスを運営する起業家のコメントが紹介されている。それによると、こうしたベンチャーシーンの活況を生んだ最大の要因は「人々の仕事に対する考え方の変化」で、「数年前までは、大卒者の多くが大企業での安定した仕事を望んでいたが、いまでは自分で会社を立ち上げることが魅力的な選択肢と考えるようになっている。起業は自由や意味ある仕事などへ通じる道と捉えられている」という。

【参照情報】
・Nokia's Losses Become Finland's Gains - WSJ.com
・VC Per Capita: Finland $46, Sweden $45 (US $72, Europe $7) - ArcticStartup