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ICT各分野の専門家が発表『大震災と情報通信:果たした役割と未来』・後編

2011.08.03

Updated by Yuko Nonoshita on August 3, 2011, 15:00 pm JST

前編はこちら

7月28日に情報通信政策フォーラム(ICPF)主催、電子行政研究会共催にて開催されたシンポジウム『大震災と情報通信:果たした役割と未来』の後半を紹介する。前半では発災から支援活動におけるICTの活用事例がとりあげられたが、後半では今後の復興フェーズにおいて、エネルギー政策でスマートグリッドが果たす役割や、ICTの利活用戦略がどのように進められているのかについて具体的な話が紹介された。

エネルギー計画の見直しにはスマートグリッド整備が必須

経済産業省基準認証政策課の野田耕一課長による「スマートグリッドを巡る同行と我が国の取り組み」では、ここ最近の動きとして、電気自動車(EV)や蓄電池をネットワーク化する実証実験が行われたり、7月から複数のメーカーが集まって家庭内電気の使い方をコントロールするHEMS(ホームエネルギー・マネジメントシステム)アライアンスを作る動きがあるとし、行政以外にも東芝がスマートメーターの会社を買収するといった活発な動きがあると紹介した。

日本の電力供給システムは東日本大震災以降も依然として世界一信頼性が高いものの、エネルギー計画の抜本的な見直しや再生可能エネルギーの導入により、スマートグリッドの整備が不可欠となっている。関連法案は討議中のため状況はまだ不明瞭だが、電力供給だけでなくスマートコミュニティ(シティ)まで視野を拡げた対応が行われている。実はすでにロードマップは発表済みで、神奈川県横浜市、愛知県豊田市、京都府の京阪奈学園都市、福岡県北九州市の国内4地域で。大規模な実証実験が実施されている。

▼現在、日本で定義されているスマートグリッドのカタチ
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国際標準競争は既にはじまっている

さらにスマートグリッドでは、電気と情報通信の両方でのコントロールが必要となり、その国際標準を巡る激しい動きが各国間ですでに始まっている。特に中国はISOやIECで強引ともいえるやり方でプレゼンスをあげており、技術開発にも力を入れている。米国はオバマ政権スマートグリッド予算を付けており、中国とのパートナーシップや協力プログラムを展開。一方で国際標準ではNIST(国立標準技術研究所)がロードマップを発表済みである。欧州ではプラットフォームを設置して規格の制定を進めている。イタリアのようにスマートメーターの導入を推進している地域もあり、再生可能エネルギーを大幅に導入するための手段として推進している。お隣の韓国でも政府とスマートグリッド協会の協力により、韓国電力公社が中心となって済州島で実証実験プロジェクトを開始している。

▼各国のスマートグリッドを巡る動きは加速しており、特に国際標準化に向けた中国の動きが目立っている
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それに対し日本は信頼性の高い技術を持ってるのでチャンスはあるが、インフラはシステムの発注が多くなっており、戦略的に標準化を押さえるのが大事になってきている。具体的には「次世代エネルギーシステムに係る国際標準化に関する研究会」を開催し、26の重要アイテムを抽出。さらに昨年4月に官民協議会「スマートコミュニティ・アライアンス(JSCA)」の設立総会を開催し、NEDOを事務局に646の企業や団体が参加して、国際標準化のワーキンググループの設置などを行っている。野田氏は国際標準化の動きが早く、想定よりいろいろな提案がISO、ITC、IEEEなどからあり、日本での議論も加速化しなければ今後おいてきぼりになる可能性があるとの課題をあげている。特に通信方式はどれを選ぶかが重要で、日本からも積極的に関わっていく必要があると危機感を訴えた。

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防災に欠けていた「情報」の観点

最後は野村総合研究所シニア・フェローの村上輝康氏より「情報通信審議会ICT利活用戦略ワーキンググループの提言」についての紹介があった。ICT利活用戦略ワーキンググループとは、総務省がICT利活用を重点的に推進すべき分野と方策について、求められる効率性や公正性、説明責任を担保し、効果の最大化を確保するための方法論等について検討するもので、設立は震災以前。6月13日に発表された第一次のとりまとめでは、技術ドリブンからユーザードリブンへの変化や、ICTの利活用の目的からICTが生み出す情報の利活用を重要視するなど3つの重点事項があげられ、実証実験から実装を目指したロードマップを策定し、事前評価とフォローアップも行うとしている。

災害時における情報通信・ICT活用への提案としては、10の提案があげられている。たとえば、災害等の緊急時に対応できる情報流通連携基盤の整備では、民間やそこに行政が加わった枠組みを作り、政府がオープンなクラウド環境を整備することを提案。そこで流れる情報フォーマットの統一や規格化の推進も必須としている。今回の震災で活躍した情報ボランティアのような動きについては、被災地と全国を結ぶ情報団を組成し、被災地のニーズを拾い上げたり、アナログな情報をデジタル化して発信することの重要性をあげている。

▼ICT利活用戦略ワーキンググループの第一次のとりまとめ
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今回の震災での大きな反省点としては、防災に情報の観点が全くなかったことを指摘。ミラーサイトの確保やデータの軽量化、インターネットの活用方法をもっと考えるべきとしている。そこでは自治体の災害情報発信の訓練やアクセシビリティの確保も含まれ、規格整備や支援体制作りを行っていく必要がある。特に緊急時にだけ規制緩和を行うなどの対応も必要で、その点をどうするかについては国民的議論に持っていこうとする動きもあるようだ。

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信頼を上げたメディアと下げたメディア

さらに、災害に関する情報の信頼性の評価も重要で、ツイッターやフェイスブックは活用された一方でデマも膨大であった。野村総合研究所が震災1週間後に調査した「信頼を上げたメディア、下げたメディア」では、ソーシャルメディアはいずれも3位になっている。これに対しては、第三者が点検・検証する必要もあるとの声もあるようだ。いずれにしても今回の出来事をアーカイブ化するなどして情報を精査し、今後に役立てたいとしている。

▼野村総合研究所が行った震災時に接触したメディアの調査から「信頼を上げたメディア、下げたメディア」の結果
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東日本大震災においてICTは、インフラが壊滅的な状況で発災直後は全く役に立たなかったとの指摘もある。しかし、その後については、情報が支援活動につながったことはまちがいなく、今後はネットアクセスも早期復旧の対象に含まれるよう、つながった時にいち早く支援につなげる方法を考えることも必要ではないかと村上氏はコメントしている。たとえば、緊急時に情報の優先順位を判断する『情報のトリアージ』の研究などはすでに行われており、成果が出てるものもあるがまだまだ埋もれており、今後はそれらをうまく活用してくことが大切だと締めくくった。

【関連URL】
情報通信政策フォーラム(ICPF)
野村総合研究所「震災に伴うメディア接触動向に関する調査」プレスリリース

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野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。