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やがて訪れるデータ・エコノミー社会の将来像〜ビッグデータだけでは見えない情報社会の真実〜[第6回]庄司昌彦氏「データ・エコノミーに必要な仲介者の存在-オープンデータの事例から-」(2)

2013.04.04

Updated by on April 4, 2013, 16:46 pm JST

(1)「情報の世界における規制と消費者保護とは」から続く

──一方、紛争解決やプライバシー保護のためのエンフォースメント(監視、監督)も、必要だと感じます。たとえばツイッターでも、ツイートを消した/消さないとか、まとめサイトに勝手に使われた、といった揉め事が、日常的に起きています。変化の速さを考えると基本的には事後解決のスキームが望ましいのでしょうが、果たしてそれで十分なのでしょうか。

201304041700-1.jpg庄司氏:大前提として、情報がどんどん発信され蓄積される時代には、それに合った認識が必要だと思います。人間は生きていれば必ずどこかで失敗しますし、それを蒸し返すだけでは生産的ではない。「お互いスネには傷があるから、極端に探りあうことはやめようね」というゆるやかな合意はとれないものか、と考えているところです。

──「忘却される権利」というのはまさにその話ですね。

庄司氏:時効とか若気の至りとかいろんな言い方がありますが、計算機工学における正確性や一貫性を、そもそも私たち人間自身は持っていないという前提を共有する必要がありますよね。

今のところは、「炎上」の被害者は、主に公職にある人やインターネット上の有名人が中心です。つまり、まだ責められる人は決まっている状態ですね。しかしこの先、多くの人が殴り殴られる状況になりかねない。だとすると、「ここから先はやり過ぎ」という合意がなされて、それがコモンローのようなかたちで定着していく必要を感じます。

──そこはインターネットが日本で真に普及するための鍵になるのではないかと思います。炎上に限らず、企業に購買履歴を渡してしまうことなども含めて、「インターネットってなんか怖い」と思われている方も少なくない。全体のコンセンサスがまだない状態なのでしょう。

庄司氏:消費者保護的なアプローチが必要なのは明確ですが、だれがどのように担うのか、これから検討が必要ですね。当面は消費者庁でもいいように思います。しかし、個人の権利の保護や回復という司法の話が入ってくると、消費者庁の管轄外の話になってしまう。

僕は大学の指導教授が警察政策や少年法が専門でした。そこで学んだのが「罪を犯した子どもを罰しただけでは社会は良くならない」ということです。加害少年に厳罰を与えても、被害者の被害を回復したり、加害者を正しい道に進ませたり、社会のさまざまな課題を修復したりしなければ、中長期的に見て社会のダメージは回復しません。個別具体的な状況に合わせた対処が必要です。

それと同様に、プライバシーも実は絶対的な基準はなく、相対的な概念です。プライバシー侵害の実態というのは、実に入り組んでいますし、状況依存性も強い。

そうした概念を、十分な議論もないまま、絶対的な規範を前提とする刑法に組み入れるのは、結果としてプライバシーという概念が持つ価値である柔軟性を失わせることになります。おそらく誰も幸せにならないでしょうし、極端に言えば思想の取り締まりのようなものになってしまうかもしれません。

──そう考えると消費者庁も、安全か否かというゆらぎのない絶対的な世界での規制が優先されているように見えてしまい、適任かどうかはまだ議論が必要ですね。

庄司氏:地域レベルでは顔が見えるお巡りさんの声がけや、地域の有志によるパトロール活動等を通して、治安維持をはじめとした統治(ガバナンス)が機能している面もありますね。また管轄域内の民間企業との連携もあります。そういった橋渡し機能が大切なのかもしれません。

──規模による人間の統治能力の限界があると思います。インターネットはその限界を超えたところに存在することがありますね。ツイッター全体の言論を統治できる人などいないというのが分かりやすい例でしょう。だとすると、統治可能な規模のコミュニティ同士をどう橋渡ししていくのか、基準や主体を考えて行く必要がありそうです。

庄司氏:ヨーロッパは、無体資産を含めた資本の蓄積が、統治にも効いているように感じます。だとすると、日本も悩みながらそれを蓄積して行くことが必要なのでしょう。日本は高度経済成長からバブルまでの間、社会全体が高速に発展し、それにより上手く振る舞えた時代があったので、新しいことへのキャッチアップにばかり夢中になってきました。

しかし、それだけではもう隣国に追い抜かれてしまうことも視野に入っているので、ストックを重視した動きをして行く必要を感じます。私達の議論はせいぜい明治までしか遡っていないことが多いですが、数百年前という歴史的な時間の中で考える必要もあるのでしょうね。

オープンデータの普及啓蒙にはカタリストが不可欠

──情報プライバシーに関する研究は、紛争解決やクレーム対応を主体とした研究が中心となります。確かに大事なことなのですが、一方でデータの利用も検討しなければ、本当の意味の安全性も確保できません。開示すべきデータは何で、それがどのようなモチベーションやインセンティブで促進されるのか。そうした検討も進める必要がありそうです。

庄司氏: まず前提として、コモンズや寄合のような常時話し合う「場」が必要だと思います。そして、情報のインデックスが必要です。仮にデータをオープンにしたとして、普通の人には、まず、データの在処がわからないでしょう。専門家であっても、リストを見ながらでないと、既に公開されているデータがどこにどうあるのかが、分からない状況です。

──インデックスは、データのタコツボ化を回避する必要条件の一つのように思います。その上で、データをエコノミーとしてまわして行く仲介者はどのような役割を果たすべきなのでしょうか。

庄司氏:カタリスト(触媒役割)やアドバイザーというような、データを出す側と利用する側の仲介的役割が必要だと思います。この役割は、データを出す側の主体と、分けられていた方がよさそうです。

たとえばオープンガバメントでは、政府はデータのリストを公開して自由な利用を許諾するだけでも良いと思っています。 データ形式の議論などもありますが、なにより重要なのは、まず公開し、そのリストを提示して、使っていいよと認めることです。

世界の先行例を見ていると、その政府のデータを直接個人や企業が利用するだけではありません。データを出す公的機関と個人や企業の間にブローカーのような人たちが育っているようです。

ブローカーは、公開された情報をデジタル化したり、データフォーマットを変えたり、APIを作ったりします。データの形式やAPIの部分まで政府が背負うよりも、使わせる動機のある事業者がやる方が、最終的なデータの利用者の選択肢も増えていいと思います。

また、実際に各都市でハッカソンのようなイベントをやると、豊富なアイデアが出てきます。だからこそ、面白いアイデアがたくさん出ましたで終わらせないためのインキュベーション(ビジネスに育てる仕組み)が必要だと感じています。(図)参照

201304041700-2.jpg

イギリスでは、そういった第三者組織として、オープンデータインスティチュートを作りました。 つい先日、CEOのギャビンスタークス氏が来日したのですが、同氏の講演によると、情報の標準化や啓蒙、調査事業とともに、5社ほどのベンチャー企業育成を行っているそうです。

こういう機能をもった組織がないままに、「データ公開しました。使って何かやってください」と言うだけでは、オープンデータ利用は進みません。ここでいう第三者組織の重要な役割は、データの利用を活性化させ、それを広報していくことです。

(3)「トランスペアレンシーの動きとデータの世界の覇権争い」に続く

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