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伊勢原でグローバルの最新基地局設備と出会う──「ノキア シーメンス ネットワークス伊勢原屋外ラボ」レポート

2012.10.30

Updated by Naohisa Iwamoto on October 30, 2012, 14:30 pm JST

通信事業者にとって、通信設備はサービスを提供するための核となる施設だ。携帯電話サービスを提供する通信事業者ならば、全国に数万以上の基地局設備を配置し、平常時から災害時まで利用者のライフラインを維持する必要がある。一方、携帯電話基地局を構築する機器や附帯設備にも、ベンダーによってさまざまな製品や新しい提案がある。それでは、通信事業者はどうやってそれらの製品や提案を目で見て、その効果を確認したらいいのか。

そうした要望に応えることを大きな目的にした施設が、ノキア シーメンス ネットワークスの「伊勢原屋外ラボ」(神奈川県伊勢原市)だ。2012年5月より本格稼働したばかりの施設で、ノキア シーメンス ネットワークスが提供する基地局の機器や附帯設備をフィールド環境で一覧できる。編集部では厳しい残暑の中、伊勢原屋外ラボの現地取材を敢行した。ラボ開設の狙いや、展示してある附帯設備の特徴についてレポートする。(取材日:2012年9月10日)

海外の良い製品を国内に伝えたい

伊勢原屋外ラボで出迎えてくれたのは、ノキアシーメンスネットワークスでグローバルサービス ソリューションサポート部長を務める佐藤 格仁さん。ノキア シーメンス ネットワークスが世界で提供する附帯設備を知り尽くしたエキスパートだ。佐藤さんに、まず伊勢原屋外ラボを開設した目的を尋ねた。

▼ノキア シーメンス ネットワークスの「伊勢原屋外ラボ」。屋外型の展示および研究開発施設だ。
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「伊勢原ラボ開設のきっかけは、日本の通信事業者の多くが基地局を増やす計画があることでした。ソフトバンクモバイルのプラチナバンドに代表されるように、既存の局に追加する動きがあったためです。ノキア シーメンス ネットワークスは無線を中心とした通信機器を取り扱っていますが、グローバルでは携帯電話基地局の附帯設備も一括して受注することが多くあります。海外で使われている附帯設備にも良い製品は多いのですが、国内では知られていないために使われていません。海外の良い製品を日本の通信事業者に紹介したい──これが第一の目的です」。

このように伊勢原屋外ラボは、基地局の装置や附帯設備の屋外ショールームといった性格が強い。通信事業者の担当者などを招いて、附帯設備の説明をすることが毎週続くこともあるという。そうしたショールームとしての役割が7だとすると、残る3ほどはラボとしての役割があるという。ここで言うラボとはどういう意味だろうか。佐藤さんはこう続ける。「海外で利用されている附帯設備を国内で導入しようとすると、法規制の違いから国内向けのカスタマイズが必要になることがあります。カスタマイズした機器の実地検証用の設備という側面も少なからずあるのです」。

グローバルで事業を展開するノキア シーメンス ネットワークスから見ると、基地局の附帯設備に対する要求はどの国でも似たようなパターンに収まる。ノキア シーメンス ネットワークスは、共通した要求を満たす設備を大量に発注し、その結果として安くて性能の高い製品を世界に供給しているというのだ。その中で「日本でも使える良いものを探して紹介していくことで、日本の通信事業者にもメリットを得てもらいたい」(佐藤さん)との考えだ。

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メインは燃料電池、耐震の蓄電池収容箱にも注目

伊勢原屋外ラボには、基地局を構成するさまざまな要素が集まっている。「Flexi Multi Radio 10 BTS」と名付けられた小型の無線基地局装置はもとより、無線エントランス装置、アンテナ、基地局の電源を供給する蓄電池の収容箱や燃料電池、グリーンエネルギーコントローラーなどの機器に加え、実際の鉄塔まで「思い切って」持ってきたという。ラボにある設備から必要な要素をピックアップしていけば、通信事業者が設置する基地局のイメージができあがる。

佐藤さんに、その展示の中から特筆すべき製品をいくつか厳選して紹介してもらった。「メタノール水型燃料電池」「蓄電池収容箱」「グリーンエネルギーコントローラー」が伊勢原屋外ラボで最重要な3製品だ。

●災害時のバックアップ需要が高いメタノール水型燃料電池

佐藤さんが第一に挙げたのは「燃料電池」だ。燃料電池は、水素と酸素から水ができる電気化学反応で得られる電気エネルギーを使う発電モジュールである。東日本大震災の際には、東北地方の沿岸部のほとんどの携帯電話基地局が停電に見まわれ、場所によっては停電期間が7日以上状態が続いた。安否確認やライフラインの確保に最も重要な携帯電話が、1週間単位で使えなくなったのだ。商用電源が供給できなくなったときのために、基地局にはバックアップの電源がある。しかし、実際の災害現場ではエンジンを動かす発電機は燃料がなくなったら役に立たなくなり、バッテリーも放電しきったらただの箱だったのだ。基地局の電源の災害対策が、改めてクローズアップされることになった。

▼「メタノール水型燃料電池」のきょう体。内部には、下部にメタノール水を蓄積するタンクがあり、100時間といった長時間の電源バックアップが可能。メタノール水を補給すれば継続して発電できる。
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そこでノキア シーメンス ネットワークスでは、グローバル本社に災害時のソリューションを問い合わせた。すると開発中の燃料電池装置があり、それを国内へ導入することにした。ノキア シーメンス ネットワークスの燃料電池は、メタノールを水で希釈したメタノール水を燃料とする「メタノール水型燃料電池」というものだ(製品情報)。メタノール水から水素を、空気から酸素を取り出し、発電する。小型のきょう体には225リットルのメタノール水が貯蔵でき、2kWの無線機ならば4〜5日に当たる約100時間の運転が可能だという。

これだけの長時間のバックアップをバッテリーだけで実現しようとすると、「バッテリーの重さは6〜8トンというとてつもない重さになります。特に古いビルの屋上に設置した基地局などでは、このような重いバッテリーを置くことができません。燃料電池ならばそうしたケースでも100時間といったバックアップソリューションが可能になります。メタノール水型燃料電池は、こうした用途での引き合いがとても多くなっています」(佐藤さん)。さらに、メタノール水を補充すれば、そのまま連続して稼動を続けることができる。

この燃料電池、実際には「国内の法規や実情に適合させるための作業が1年近くかかり、ようやく提供できるようになった」(佐藤さん)という。最初のハードルは燃料の濃度だった。国内では消防法によりメタノールを60%以上含有するメタノール水は危険物の扱いになってしまうためだ。危険物とならない60%未満の濃度で燃料電池が有効に作動する技術検証を行う必要があった。次に、電気事業法の壁をクリアする必要があった。燃料電池を家庭用燃料電池と同じレベルの軽微な扱いにしてもらわないと本格普及が進まないためだ。経済産業省へ何度も足を運び、各種規定値を満たすための仕様変更と検証試験にかなりの時間を費やした。さらに、メタノール水製造してもらうための化学メーカー複数社との交渉や、メタノール水の供給や工事・保守に当たる全国拠点網の整備も同時に進め、国内79の拠点ができあがった。こうした方策が実を結び、実際に日本全国でメタノール水型燃料電池が利用できるようになったという。日本市場向けのモデルの出荷もすでに開始されている。

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●いざという時にバッテリーが使えない──からの脱却

東日本大震災では、これまでの災害対策の不足点が浮き彫りにされた。前述したように、基地局への商用電源が1週間も回復しないという事態を想定していなかったことなどだ。そしてバックアップの要として設けられていたバッテリーにも盲点があった。

▼耐震性を確保した「蓄電池収容箱」。内部の温度を一定に保つほか、物理的な耐震性も確保し蓄電池の飛び出しなどを防ぐ。
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「バックアップ用のバッテリーとしては鉛蓄電池が多く使われています。ところが鉛蓄電池は温度管理をきっちりしないと劣化が進んでしまうのです。そのため、バッテリーでバックアップができるつもりだった基地局が、実際には鉛蓄電池の劣化により使えなかったケースが多く見られました」(佐藤さん)。その上、地震や津波の影響で、鉛蓄電池が収容箱から飛び出してしまって使いものにならない事態も発生した。

そこでノキア シーメンス ネットワークスが用意するのが「蓄電池収容箱」だ(参照情報)。収容箱内部の温度は、ヒーターや簡易冷蔵庫機能を使って22.5±2度に保つ。これで鉛蓄電池の寿命が2〜3倍に延びる。さらに鉛蓄電池が地震で飛び出してしまわないように、耐震容器を採用する。耐震性能は全世界で多く採用されている米国のNEBS CR-63 CORE ZONE4に準拠する。

●再生可能エネルギーを活用する時代に向けて

伊勢原屋外ラボのもう1つの目玉が「グリーンエネルギーコントローラー」だ。これは、再生可能エネルギーや燃料電池を組み合わせて活用する時代に、複数のパワーソースから最適なものを逐次選び出して省エネルギー運用を実現するための装置である。ソーラーパネルや風力タービンなどから電力を得る再生可能エネルギーは、電力会社からの商用電源の代替として使うことで節電や通信事業者のOPEX(運用コスト)削減につながる。しかし、再生可能エネルギーの発電量は天候などに左右され、安定した供給が難しい。そのため、太陽が照射しているときはソーラーパネルから、風が吹いているときは風力タービンから、再生可能エネルギーの供給が足りないときは商用電源や夜間電力で蓄電池に蓄えた電力を使うといった、リアルタイムの切り替え制御機構が必要になる。また、これに燃料電池を追加すれば、商用電力の供給のない地域での基地局への電源供給も可能だ。

▼再生可能エネルギーや商用電源などをリアルタイムで自動的に切り替える「グリーンエネルギーコントローラー」。ラック上部の小さなボックスがコントローラーの頭脳だ。
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こうした背景から、ノキア シーメンス ネットワークスでは、複数の電力の入力を制御するグリーンエネルギーコントローラーを開発し、伊勢原屋外ラボで展示している。コントローラーは、それぞれの発電モジュールの情報を入力として基地局が必要な電力を得るためのリアルタイムな制御を行うほか、ネットワーク監視センターから遠隔で統合モニタリングできる仕組みになっている。佐藤さんは、「高性能のコントローラーをいかに安くつくるかということが難しいと感じています。」と語るが、ラボでの展示状況からすると近い将来の商用化に期待が持てそうだ。

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さまざまな基地局の姿が見えてくる

ここまで、注目の3製品を見てきたが、伊勢原屋外ラボにはこれ以外にも数多くの展示がある。携帯電話の基地局を設計する際の選択肢になりうる製品群だ。

その1つが「3波共用アンテナ」。(参照情報)現在、国内の移動体通信事業者が保有する周波数帯は複数あり、基本的には周波数帯ごとにアンテナを設けなければならない。ところが、3波共用アンテナを使うことで、これらの3つの周波数帯を1つのアンテナでカバーできる。イニシャルコストやメンテナンスコストを下げられるほか、アンテナ自身に円筒形のデザインを採用することで風圧の影響を受けにくくして既存の鉄塔の強度を変更せずに取り付けられるというメリットもある。

▼円筒型をした「3波共用アンテナ」。3つの周波数帯の電波を1つのアンテナで送受信することができる。
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風圧の影響を受けにくい円筒形のデザインは、基地局設備を組み上げる鉄塔にも採用されている。ノキア シーメンス ネットワークスでは、グローバルで提供している三脚鋼管鉄塔を伊勢原屋外ラボに設置し、その姿を来場者に示している。鉄塔は、組み上げると高さ40mにも上るため、伊勢原屋外ラボでは3分割した最上部と最下部が組み立てられてそれぞれ別に設置してある。3分割してあっても、見上げるほど大きな鉄塔なのだ。

三脚鋼管鉄塔の鋼管は円筒形で風圧を受けにくいため、強度を保ちながら高い鉄塔を組み上げられる。佐藤さんは、「海外製の鋼管鉄塔であれば、国内で一般に採用されているアングル鉄塔よりも、鉄の量を少なく、強度の高い鉄塔が安く作れます。国内の鉄塔では強度面から、アンテナだけを上部に設置し重量のある無線機は地上に設置することが多いのですが、三脚鋼管鉄塔ならばアンテナと無線機を両方とも鉄塔の上に配置できる強度があります。アンテナと無線機の間のケーブルが長いと電力のロスが大きくなるので、強度の高い鉄塔を使うことで省エネにもつながるのです」と説明してくれた。

▼円筒形の鋼管を使った「三脚鋼管鉄塔」。右側が最下部で左側が最上部。施設奥に中間部の鋼管が寝かせてある。組み上げると40mにも上るが、円筒形の鋼管の効果で風荷重が少なくて済む。
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省エネの側面では、小型の"無線機収容箱"も要チェック。まだ仮称しかなく、ノキア シーメンス ネットワークス内部では"箱"と呼んでいるそうだ。これまで基地局は、アンテナを支える鉄塔のほかに附帯設備を格納する小屋が必要だった。機器の冷却のための冷房装置も必需品だ。しかし、ノキア シーメンス ネットワークスが提供する全天候型のFlexi BTSシリーズ小型基地局装置を使えば、附帯設備のための小屋は不要になる。通信回線や電源、停電対策の蓄電池を収納する小さな"箱"があれば事足りる。蓄電池の冷却も省電力な温度管理ソリューションを備えることで従来の小屋に比べて10分の1程度にまで省電力を実現できる。

▼小型の無線機収容箱と説明をする佐藤さん。基地局を設置するための土地を最小限に抑え、省エネにもつながる。
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このように、伊勢原屋外ラボでは携帯電話の基地局を構築するための要素製品や附帯設備を目の当たりにできる。通信事業者が国内のサービスエリア展開のために、新しい機器や附帯設備を導入するための大きな参考になるはずだ。さらに、佐藤さんはこう続ける。「国内での採用はもちろんのことですが、国内の通信事業者が海外に進出するケースもこれからさらに増えていくでしょう。アジアなどの新興国の通信インフラに日本の通信事業者が投資するといったことは十分あり得ると考えています。そうした時に、海外で使われている電力事情の悪い国における電源システムや附帯設備を具体的に見られる場としても、伊勢原屋外ラボは意義のある設備だと考えています」。"伊勢原発"のグローバルな視点が、国内の通信インフラ整備だけでなく、日本の通信事業者が国際貢献する際の力になる可能性を秘めているのだ。

【施設紹介】
伊勢原屋外ラボ 施設紹介(ノキア シーメンス ネットワークス会社案内)

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。