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グーグルをモトローラ買収に追い込んだ4つの「悪夢のシナリオ」(編集担当メモ)

2011.09.15

Updated by WirelessWire News編集部 on September 15, 2011, 15:18 pm JST

モトローラ(Motororal Mobility)が米国時間13日(火曜日)に米証券委員会(SEC)に提出した書類のなかで、8月に発表されたグーグルによる同社買収の経緯を詳しく述べていることを採り上げた記事が、昨日の午前中(日本時間)からBloomberg Businessweek, Wall Street Journalなど主要な経済紙(誌)のウェブサイトで掲載されている。さらにこのSEC提出書類の内容を吟味して、お馴染みFOSS Patentsのフローリアン・ミューラー(Florian Mueller)氏が(全体で4500ワード近くにもなる)長大なブログ記事を執筆・公開しているので、この2つの話題をまとめて紹介する。

まずSECへ提出された書類については、グーグルとモトローラとの話し合いの始まりから交渉成立に至るまでの主立った出来事が時系列に沿って記されているが、これについて報じた複数の記事によると、両社が今回の件で最初に接触をもったのは7月上旬、ノーテルの特許売却オークションの結果、同社の特許ポートフォリオがアップル(Apple)やマイクロソフト(Microsoft)などの手に渡ることが決まった数日後のことで、この時にはグーグルのAndroid開発責任者のアンディ・ルービン(Andy Rubin)氏とモトローラのサンジャイ・ジャー(Sanjay Jha)CEOが、「ノーテル特許オークションの結果が両社に与える影響の可能性や、それに対する対応策」について意見交換を行ったという。そして、これに続く数日間で、両社間の話がいっきに盛り上がり、グーグルのラリー・ペイジ(Larry Pages)CEOなどもこの議論に加わるようになった結果、7月中旬には守秘義務契約が交わされ、グーグルはモトローラの特許ポートフォリオについて精査するデューディリジェンスの作業に入り、さらに7月28日にはグーグルから1株20〜30ドルという条件で最初の買収提案がなされたと、New York Times(NYTimes)は記している。

その後、8月1日にはグーグルが1株30ドルの条件でモトローラに正式な買収提案を行い、これを受けてモトローラの取締役会では財務アドバイザーも交えた検討に入った。なおモトローラは同日付で2社の財務アドバイザー -- センタービュー・パートナーズ(Centerview Partners)ならびにカタリスト・パートナーズ(Qatalyst Partners)と契約を結んだが、後者を経営するフランク・クアトローネ氏(Frank Quattrone)は、1995年から2000年前後にかけて投資銀行クレディスイス・ファーストボストン(Credit Suisse First Boston)に籍を置きながら、ネットスケープ(Netscape)やアマゾン(Amazon)をはじめとするさまざまなネット企業の株式公開に手を貸したことで一躍ウォールストリートの花形スターとなったものの、その後人気企業のIPOに際して株式の割り当てなどで不正があったとして米連邦政府から訴えられたという経歴の持ち主で、いまだにその名前が記事の見出しを飾る人物でもある。

NYTimesの記事によると、グーグルに対して買値を引き上げるよう促したのがこのカタリスト社で、8月5日には同社のある人物がモトローラ取締役会との話し合いの結果を踏まえて、グーグルの法務責任者に接触し、一株30ドルの条件を突っぱねると同時に新たに同43ドル50セントという条件を伝えたという。

これを受けて、グーグル側は9日に1株40ドルの条件を提示し、翌10日にモトローラ側がこの条件に合意、その6日後の15日に買収の正式発表に至ったという。またNYTimesでは、モトローラ取締役会がグーグル以外の相手への売却や、公開での売却オークションの実施など複数の可能性を検討した事実も記されていると付け加えている。

さて、ここからがようやく本題となるが、FOSS Patentsのミューラー氏は、後述するように、一連の交渉のなかで8月9日がもっとも重要な「運命の日」に思えるとした上で、それに先立つ数日の間に買値を30%(30ドル→40ドル)もつり上げられながら、それでもグーグルがモトローラに譲歩することにした背景には、4つの脅威(となる可能性)があったからではないか、と推論している。

グーグルにとっては「悪夢のシナリオ」ともいえそうなこれらの脅威を先に挙げておくと

  1. モトローラが、マイクロソフトやアップルとの間で、それぞれ特許のライセンス料を支払う契約を交わすという可能性
  2. モトローラが、「Androidオンリー」で進めてきたOS戦略を見直し、Window Phone搭載スマートフォンの開発に乗り出すという可能性
  3. モトローラが、自社の特許を使ってAndroid陣営のハードウェアメーカー各社に攻撃を仕掛け、結果的にAndroid端末の開発・製造コストをつり上げるという可能性
  4. モトローラが、公開もしくは非公開の売却オークションを実施し、会社全体もしくはその特許ポートフォリオの大部分が(グーグルの)競合他社にわたってしまうという可能性

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  1. モトローラが、マイクロソフトやアップルとの間で、それぞれ特許のライセンス料を支払う契約を交わすという可能性
  2. モトローラが、「Androidオンリー」で進めてきたOS戦略を見直し、Window Phone搭載スマートフォンの開発に乗り出すという可能性
  3. モトローラが、自社の特許を使ってAndroid陣営のハードウェアメーカー各社に攻撃を仕掛け、結果的にAndroid端末の開発・製造コストをつり上げるという可能性
  4. モトローラが、公開もしくは非公開の売却オークションを実施し、会社全体もしくはその特許ポートフォリオの大部分が(グーグルの)競合他社にわたってしまうという可能性

1.については、その理由として、Android陣営内ではサムスン(Samsung)に次いで強力な特許ポートフォリオを有するモトローラも、マイクロソフトを相手にした訴訟などでは実際に旗色が思わしくなく、通常であればマイクロソフトやアップルと和解してクロスライセンス契約を結ぶことが、携帯端末メーカーとしては理にかなった選択肢と考えられる。だが、モトローラがもしこうした行動に出れば、「Androidがマイクロソフト(ならびにアップル)の特許を侵害していることを認めた」と第三者にはっきりと示すことになり、それが同OS陣営全体にマイナスの影響を及ぼしかねない、という同氏の考えが記されている。

2.の点については、モトローラがAndroid端末だけを扱う唯一のスマートフォンメーカーである点を踏まえつつ、同社のジャーCEOが8月9日に公の場でWindow Phone端末について「特定の状況下では、採用も検討に値する、われわれにとって興味深い選択肢」と発言していたことに言及。ミューラー氏は、このジャーCEOの発言の裏に、マイクロソフトとの特許侵害訴訟の和解に関し、交換条件のひとつとしてモトローラによるWindow Phoneの開発・提供という考えがあり、そうした思惑から「ノキア同様の戦略提携」という可能性を口にしたのではないかと推測してる。

またこれと平行して、サムスンがマイクロソフトとの間で、Window Phone搭載端末に関する関係強化を交換材料に、マイクロソフトから支払いを求められているAndroid関連のライセンス料の引き下げを狙っているとする報道を引き合いに出し、モトローラがマイクロソフトに対してこれと同様の話を持ちかける余地はあったとしている。

いっぽう、3.についてミューラー氏は、やはりジャーCEOが8月9日の発言のなかで、自社の知的財産(特許)について「他のAndroid端末メーカーとの差別化をはかる上で非常に重要」とし、具体的にはそこから「ライセンス収入を得られる可能性がある」他者との違いだと述べていたことに言及。これを踏まえて、Androidを採用している端末メーカーのほとんどがモトローラにくらべて特許面の備えが薄いため、モトローラがAndroidを捨てて(Windows Phoneなど)他のOSプラットフォームに乗り換え、Android陣営の各社を特許侵害で訴えるというのは、グーグルや同陣営に各社にとって最悪のシナリオだったはずだと述べている。

4番目の点については、同氏はSEC提出書類の記述のなかでも、とくに7月後半にモトローラの大株主であるカール・アイカーン(Carl Icahn)氏が、同社保有特許の大半をオークションで売却するなど、グーグルへの売却以外の選択肢も検討することを提案していた点に着目。この提案に対しては、モトローラの経営陣が「特許の大部分を手放してしまえば、その後他社から訴訟を起こされても自社を守ることができなくなる」として反対したため結局具体化することはなかったが、実はモトローラのジャーCEOはグーグルに対しても同じ主旨の考えを伝えて、暗に同社の特許が(グーグルの)競合他社の手に渡る可能性があること、ならびに同社としては会社を丸ごと買ってもらいたい意向であることを示唆したという。

さらにミューラー氏は「もしモトローラのオークションがなんらかの形で実施されていれば」という仮定に基づき次の2つの可能性を挙げている。

  • もしアイカーン氏の提案が通り、モトローラが自社特許(の一部)をオークションにかけることになれば、それがアップルなどの手に渡り、Android端末メーカー各社に対する攻撃に使われるという可能性が生じていた。
  • もしモトローラが会社ごと売りに出されれば、Android陣営でもサムスン、HTCにつづくナンバー3の会社が戦略上の失敗を認めたとみなされ、同社を買収した企業が「Androidオンリー」という同社のこれまでの戦略を支持するかどうかも不透明になっていた。

ミューラー氏はこの後、両社の交渉の進展に具体的に触れながら、自分の考えを延々と続けている---いままでのところで全体の3分の1くらい--が、ここでその全部に触れることにはとうてい無理がある(いつか別の機会があればまた続きを、ということでお許しを願いたい)。

なお、ミューラー氏は後半のある箇所で、自分が「グーグルのモトローラ買収は、特許の獲得が主な理由ではない」「モトローラの特許ポートフォリオは、それを使ってAndroidのエコシステム全体を守れるほど強力な盾でない、その点は確かである」といったことを口にする「唯一の人間と感じることが時々ある」と記していることから、ここで紹介した同氏の考えはやはり主流とは言い難いものなのだろう。

ただし、以前にお伝えした通り、この買収発表の直後に「Daring Fireball」のジョン・グルーバー(John Gruber)氏も今回のミューラー氏とほぼ同じ主旨の解釈を示していた、そのことは付け加えておきたいと思う。

【参照情報】
These four threats against Android secured Motorola Mobility a $12.5 billion offer from Google - FOSS Patents
The (patent) fear factor in the Motorola-Google deal - GigaOM
How Google-Motorola Deal Came Together - NYTimes
Google's Motorola Bid: New Details - WSJ.com
Google Bid for Motorola Mobility Climbed 33% Before Agreement - Businessweek
Motorola's Filing to SEC
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