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パネルディスカッション「蓄電池ネットワークとモバイル通信が切り開く次世代エネルギー社会」

2011.10.07

Updated by Asako Itagaki on October 7, 2011, 16:30 pm JST

CEATEC JAPAN 2011の大きなトレンドのひとつが「蓄電」というキーワードだ。家庭内やコミュニティで、太陽光や風力で発電された電力ををより効率的に活用するために、余った電力を一時的に貯めておくソリューションとしてEV(電気自動車)のバッテリーが注目されており、EVが並ぶ展示会場内の風景は、例年と違う雰囲気を醸し出していた。

▼NTTドコモ、NEC、日産自動車などが参加する「スマートコミュニティ"ZERO"」の展示スペースの様子
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そんな会場の空気を象徴するようなキーノートスピーチが、10月4日の夕方行われたパネルディスカッション「蓄電池ネットワークとモバイル通信が切り開く次世代エネルギー社会」である。パネリストは株式会社NTTドコモ 常務執行役員 研究開発センター副所長 竹田 義行氏、日本電気株式会社(以下NEC) 執行役員常務 國尾 武光氏、日産自動車株式会社(以下日産) 常務執行役員 篠原 稔氏の三氏、モデレーターはアクセンチュア株式会社 経営コンサルティング本部統括本部長 執行役員マネージング・パートナー 西村 裕二氏である。

まず最初に、論点の提示として、モデレーターの西村氏から、次世代社会システムの要件として、「エネルギーだけでなく交通、水、廃棄物、建物など、インフラ領域の全般にわたり連携しているということ」「テクノロジードリブンではなく、市民が中心となって牽引されること」「情報通信技術による構成要素間の連携と最適化がなされること」の3つが提示され、その上で自動車、エネルギー、建物などがいかに統合した形で新たな社会を作っていくのかという問題提起がされた。

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ICTサーバーとEV間の通信インターフェイス標準化を推進

NTTドコモの竹田氏は、「ドコモのエネルギーに対するコンセプトが、3月11日以降大きく変わった」と述べた。東日本大震災時に携帯がつながらなくなった最も大きな原因は、商用電源の停電による基地局の停電とバッテリー切れであるというデータを示し、ドコモの通信網を維持するためのエネルギーに対する取り組みとして、基地局の無停電化、バッテリー24時間化、大容量基地局の取り組みや、再生可能エネルギーを活用したグリーン基地局への取り組みを紹介した(参考記事)。

また、竹田氏は、平成21年度補正予算で行われた「ネットワーク統合制御システム標準化等推進事業」についても紹介した。太陽光電池による発電とEVによる蓄電をホームICTにより制御して、家庭内電力の自給自足率を上げるものである。ホームICTは温湿度、家電の使用状況、太陽光発電による発電量などを常時モニターし、EVの充電と放電を制御する。

実験の結果、冬の間に、電気の自給自足率(商用)は27%を達成。電力消費は季節変動が大きいため、年間でシミュレーションすると、実験環境下で42%程度の自給自足率が達成できる見込みとなった。一般住宅の場合であれば、72%程度の自給自足率を達成できると推定している。

NTTドコモは、EVと無線通信するホームICTフェムト(サーバー付小型基地局)とEVの間の通信インターフェイスの標準化を推進している。

▼実証実験の構成と標準化インターフェイス
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規格案としては、伝送データ、ネットワークプロトコル、物理・データリンク層等を想定。フェムトセルは3GPPで規格化された3G/LTE対応となる。NTTドコモでは、ITU-Tに設立されたスマートグリッドの検討組織であるFG Smartに参加して、ユースケースの成果文書への記載などの成果をあげている。今後は、その他の国際標準化団体にもはたらきかけ、標準化を推進していく意向だ。

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「電力自立化」の鍵を握るバッテリー

NECの國尾氏は、「電力自立化」というキーワードを挙げた。これまでの電力供給は、発電所から送電網で送られる集中型だったのに対し、これからは太陽光発電や風力発電、燃料電池、EVなども電力源として利用する「分散型」となる。これをマネジメントするための一つのキーポイントになるのがバッテリーである。

電気を使う需要家の電力自立化のためには、それぞれの需要化が自然エネルギーや燃料電池などを使用して作り出した電気を蓄電し、最終的にはそれぞれの家庭だけではなく地域ごとに制御するマイクログリッド化していく。「その制御のために、エネルギークラウドが役立つのではないか」と國尾氏は述べ、電気・ガスに情報を加えることで、新しいエネルギー社会ができるという見通しを示した。

そのためのテクノロジーとして、EVの充電インフラへの取り組み、エネルギーマネジメントシステムへの取り組み、蓄電システムへの取り組みを紹介した。充電インフラについては、インテリジェント化の必要と、標準化の重要性、エネルギーマネジメントシステムについては、家庭、店舗、ビルなどそれぞれの場所において、無線による接続の品質が重要になることを指摘した。

蓄電システムの核となるのはリチウムイオンバッテリーで、NECでは1990年から技術開発を開始しており、1996年には携帯用バッテリーとして商用化、最近は大容量化して、日産リーフのバッテリーとしても採用されている。これをベースに家庭用の定置用蓄電池を開発し、2011年7月からエンジニアリングサンプル販売を開始している。2012度年には量産化の意向だ。

将来の姿として、國尾氏は「デジタルグリッド」のコンセプトを紹介した。それぞれが自立形電源と蓄電システムを持つ分散自立型電源系統(セル)同士が電力をやりとりすることで、たくさんの分散自立電源がお互いに電気を柔軟に融通できるようにするのが目的である。セル間の重要度の高い施設には優先して電気を供給するなど、電力供給のオン/オフだけではなく、ダイナミックに送電量もコントロールできる仕組みである。

▼デジタルグリッドのコンセプト
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「創エネ」「省エネ」を支える「蓄エネ」

日産の篠原氏は、まず最初に、EVを使ってさまざまなことができるようになるためには、まずはEVが普及する必要があるとして、リーフの現状を紹介した。2011年9月末現在で、日米欧合わせて15,000台が既に販売されている。走行実績データを見ると、1週間で首都圏のほぼ全ての道路を網羅しており、半年間のデータを集約すると、日本全国の幹線道路はほぼEVが走行した実績がある。

次に、東日本大震災時の教訓として、「電気は災害時に強い」ということをあげた。日産では、被災地からの要望を受け、66台の電気自動車を自治体などに提供した。ガソリンの不足により多くの自動車が走行困難になっていたが、同社の電気自動車は、震災の翌日から、ガソリン車が全く走っていなかった沿岸部でも活用されたことが走行実績データから分かる。ライフラインとして見た時、電気は水道、ガスと比べると復旧が早いという特徴がある。

一方で、震災時に明らかになったのが「創エネ」と「蓄エネ」の問題だ。災害時に長期間停電した場合、太陽光発電は昼間しか発電できないし、全ての家庭用電力はまかなえない。燃料電池は停電していると起動できない。電気を作るタイミングと使うタイミングは必ずしも一致しないので、作った電気を有効に使うには貯めておく「蓄エネ」のシステムが必要になる。

そのために電気自動車を有効に使うというのが、充放電対応PCSの考え方だ。余った電気をEVのバッテリーに蓄え、いざというときに放電して利用することで、自立した家ができる。現在、積水ハウスと共同で実証実験を行っている。積水ハウスでは既に新築住宅の70%が太陽光パネルを設置しており、十分商機はあると見る。

将来的には、「LEAF TO HOMEからスマートシティへ」。より自立型、分散型エネルギー社会の実現へと向かう。スマートハウスは今実現しようとしているが、ビル単位での創電・蓄電を実現したスマートビルや、地域に今後建設されるメガソーラーから発電される電気を貯めるために、定置型の蓄電池だけでなく、EVが活用できる。これらを、情報通信ネットワークでコントロールするのがもう一つのキーポイントである。

▼自立分散型エネルギー社会をささえる情報通信ネットワーク
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現在、日産では、ヨコハマスマートシティプロジェクトをはじめ、国内外でリーフを使ったさまざまな実証実験を行っているが、「そろそろ実行にうつさなくてはいけない時期に来ているし、実現できるようになっている」と篠原氏は述べた。

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次世代エネルギー社会システムは、日本だけの課題ではない

後半のディスカッションは、モデレーターの西村氏の質問に対し、パネラーが回答する形で進められた。

▼左から、NTTドコモ 竹田 義行氏、日本電気 國尾 武光氏、日産自動車 篠原 稔氏
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1つ目の質問は、新しい技術発展により、次世代エネルギー社会システムはどのように実現するのかという点である。

NTTドコモの竹田氏は、ICTインフラについては既に3Gのネットワークが人口カバー率ほぼ100%を達成しており、次世代のLTEが届かないところもカバーできているので、インフラとしては既に準備できているという見解を示した。通信料金については、データトラフィック量が1年ごとに2倍に増える状況下でも、効率的なLTEを活用することで、料金をあまりあげずに利用できるプランを提示していく。7GBを超える大量のトラフィックを使用する場合に帯域を制限したり追加料金が必要になるようなプランが導入されつつあるが、M2Mのデータ量はずっと少ないので、従来の携帯電話料金でより高速なLTEのネットワークが使えることになる。車や住宅に比べ、携帯電話は世代交代が早いので、「先行して新しい技術とサービスを提供できるのではないかと思っている」と述べた。

NECの國尾氏は、蓄電池の可能性について「リーフ1台で、携帯8000台分のリチウムイオン電池を積んでいる」と述べ、量を使用することによるコストダウン効果を強調した。電気自動車の市場が増えることで、電池の生産量は増えるのでコストダウンがはかれ、家庭の蓄電池も安くなるはずである。とした。大容量化時の安全性の確保については、「自動車の品質でものづくりをすることが力になっている」と述べ、日産のEVのバッテリー製造で、コストとともに信頼性も担保できるようになってきたという見方を示した。

日産の篠原氏は、電池の再利用によるコスト負担の軽減に言及した。自動車用のリチウムイオン電池を家庭用にリビルドして、コストを応分に負担することで、トータルのバリューチェーンを広げてコストを分散できる可能性がある。

2つめの質問は、次世代エネルギー社会システムがどういった社会問題を解決していくのかという点である。まず、震災復興にあたり、東北にどのように展開していくのかという点について問いかけられた。

竹田氏は、東北地方の復興に対し、海外の通信事業者や技術者の関心が高いことを紹介した。「東北の復興に盤石の体制で臨みたいし、(これから来るといわれる)東海、東南海地震のことを考えた対応も大事だが、我々の経験を海外に発信することが大事だと思った」と述べ、東北、日本だけの問題ではなく、社会システムにこうしたものを受けいれる提案を、日本から世界にも発信していく必要性を指摘した。

國尾氏は、311は悲しむべきことであるが、新たなものを作らなくてはいけないということは既存のものをマイグレートしながら新しいシステムを入れるのに比べれば、受けいれの障壁が低くなったということでもあるとした。新たに作り、生活している人にどう享受してもらうかを考え、復興予算とリンクしていくことで、実証実験から実生活に取り入れ、発展させていく契機であり、それを産業に対するチャンスにしていくことが日本にとって大事であると述べた。

篠原氏は「どうやって危機に強い社会にするか」という大きなテーマをまず掲げ、そのためには効率の追求だけでなく独立性、自立性を大切にすべきであるとした。「エネルギーの分散とロバストな通信を作ることが危機に強い社会を作ることであると考えている」と述べた。世界には、震災や津波のリスクを抱えた、海抜が低い都市も多い。世界のこうした都市に対し新しいエネルギー分散とロバストな通信を広め、21世紀の都市作り、社会システム作りに活用しなくてはいけないとした。

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「標準化」と「グローバル化」を同時に進めることが大切

3つめの質問は、次世代エネルギー社会システムを海外に輸出していくための課題をどう考えるかということである。竹田氏は、自社のユーザーが世界の携帯ユーザーの1%強でしかないにもかかわらず、LTEのチップ供給についてはは日本のドコモ、NEC、富士通、パナソニックの連合が世界に対して供給するという例を挙げた。通信の分野では、日本は新技術の開発には、ユーザー数比率以上の貢献をしていると述べ、電池もEVも、日本の技術を確保して世界に出て行くのが大事であると指摘した。

國尾氏は、輸出にあたっては、相手国の状況を調べなくてはいけないということを、実例を交えて語った。例えば7月のブラジルの電力事情について現地の人に聞くと、都市部ではインフレに備えて食料を常時備蓄しているため、安定して冷蔵庫を動かすための電源が欲しいのに対して、アマゾンではそもそも電化されていないので、夜電気が使えるように、昼間の太陽光を使って発電し、蓄電しておけるシステムが求められている。何がどこに必要なのかをよく見て、その地域に対して提供するという考え方が必要とされている。、

篠原氏は、大事なのは「官民共同で魅力あるものを作ること」であるとした。本当に魅力があれば、海外企業がそこに参加したいと言ってくるはずなので、日本も海外も「なく英知を結集することが大切であるとした。また、単にできたものを輸出するのではなく、それぞれの地域に合わせて適応させる、本当の意味でのグローバル化が重要であると述べた。

最後の質問は、次世代エネルギー社会システム実現のために、どのように異業種連携を進めていくか、特に国や自治体に対して期待したいことを問いかけられた。竹田氏は、研究開発やICT政策の立案で率先した旗振り役と、円滑な導入が進むような規制や制度の整備を挙げた。また、先進ユーザーとして、国や自治体が積極的に新システムを導入することの重要性を指摘し、「朝霞に公務員宿舎を作るよりも、スマートハウスを作る方が有効な政策かもしれない」と指摘した。

國尾氏も、国や自治体に対しては、新しいものを入れるための規制緩和を求めたいとした。とくに蓄電システムでは、量が増えることで価格を引き下げる効果があるので、政府機関や公務員宿舎に導入したり、家庭に導入促進のために補助金を出すなど、21世紀型都市という新しい概念を作るために、垂れ流しではない補助金の支援に期待すると述べた。

篠原氏は、国や自治体には基本的にはビジネスのサポートをしていただきたいとしつつも、現在の状況を、EVによって車の役割がパーソナルモビリティだけではなくなり、形態も変わる可能性がある「100年に一度」の時期であると位置づけた。車が家の中に置け、蓄電できると考えると、家や建物だけでなく、公共交通を含めた交通システム、都市のあり方も変わってくる。民間企業だけで取り組めるものではなく、イニシアチブを取るのは国や地方自治体にしかできない。官民一体で魅力あることをやっていることが示せれば、自然と(異業種連携は)活性化するのではないかとした。

まとめとして、モデレーターの西村氏が、次世代エネルギー社会システムは近い将来実現できることが、リアリティを持って感じられたということ、また、日本企業は、世界を見て、技術の標準化に取り組んでいるという感想を述べた。最後に、「日本の技術で世界の人、技術、資金を呼び込み、日本で魅力的な社会システムを実現することで、日本の経済発展ができるのではないか」として、ディスカッションを締めくくった。

CEATEC JAPAN 2011

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。