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PaaS型WebサーバにおけるWebアクセス集約とアクセスパターンに基づいた効率化

2011.11.11

Updated by WirelessWire News編集部 on November 11, 2011, 17:00 pm JST

本稿は、株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)のインターネットの最新の技術動向・セキュリティ情報を紹介する技術レポート「Internet Infrastructure Review vol.011(2011年5月25日)」に掲載された「クラウドコンピューティングテクノロジー」の一部を抜粋・編集して掲載したものです。脚注などを含む全文はこちらでお読み下さい。なお、図版番号については原文に準拠しています。(編集部)

Webサーバーのリソース設計

Webアクセスの変動には、大きく2つの変動パターンがあります。1つ目は、1日単位や1週間単位等の周期的に繰り返される変動パターンです。2つ目は、アクセス集中による変動パターンです。アクセス集中の要因にはさまざまなものが考えられます。例えば、ニュースリリース、ゲームやソフトウェアのリリース、大手ニュースサイトのトップページからのリンク掲示、テレビでのURLテロップ等が挙げられます。

アクセス集中が発生すると、急激にWebアクセスが増加することがあるため、Webサーバのリソース設計ではアクセス集中によるWebアクセスの変動を考慮して、予備リソースを持たせた見積りを行っています(オーバープロビジョニング)。オーバープロビジョニングによるリソース設計においては、図-1に示すように、アクセス集中に備えて予備リソースを多く見積もれば見積もるほど、Webサーバのリソース利用率は低くなってしまいます。

▼図-1 オーバープロビジョニングによるリソース利用率低下
201111111700-1.jpg

データセンターサービスやクラウドサービスにおいて、Webサービスは大きな割合を占めるので、Webサーバのリソース利用率を向上させることは、データセンターやクラウド全体におけるリソース利用率の向上にもつながります。

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Webアクセスの集約によるリソース利用率の向上

今回の東日本大震災のような極めて社会的な影響の大きな要因では、それによって多くのWebサイトでアクセス集中が起こりました。しかし、一般的なアクセス集中は、各Webサイトで異なったタイミングで発生していると考えられます。これは、アクセス集中の発生要因が限定され、その影響範囲も限られるためです。個々のWebサイトにおけるアクセス集中の発生確率が何らかの確率分布に従ってランダムに発生するとした場合、複数のWebサイトへのアクセスを集約することで、集約したWebアクセスにおけるアクセス集中の発生確率は、サービスの集約数に比例して増加すると考えられます。そこで、Webアクセスの集約によってアクセス集中の発生確率が高くなることを利用すれば、Webアクセスの全体量の変動を小さくできると考えました。つまり、常にアクセス集中が起きているようなWebアクセスを故意に作り出すことで、アクセス集中によるWebアクセスの変動を隠ぺいしてしまうのです。

この考えを検証するために、アクセス集中がランダムに発生するようなWebアクセスをシミュレーションによって生成して集約し、これにより個々のアクセス集中が及ぼす影響と、アクセス全体量の変動を確認しました。その結果を図-2に示します。縦に4つ並んでいるグラフのうち、一番下のものがWebサービスの集約を行わなかったときのWebアクセス量の変動です。それに続く2 〜 4番目のグラフは、それぞれ10個、100個、1,000個のWebサイトを集約したときのWebアクセス量の変動を表しています。

▼図-2 Webサイトの集約によるWebアクセス変動量の違い
201111111700-2.jpg

このグラフでスパイクのように尖っている部分がアクセス集中が発生している部分です。ここでは、アクセス集中によるアクセス量の変動とその影響を見やすくするために、周期的なWebアクセスの変動パターンは含めていません。

シミュレーションの結果から、個々のWebサイトにおいて散発的に発生しているアクセス集中時のWebアクセスを集約することで、全体として個々のアクセス集中によるアクセス変動の影響が相対的に小さくなることが示されました。このことから、Webアクセス集約によってWebアクセス変動の平滑化が可能になると考えられます。

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では、Webアクセスを集約することには、リソース設計上どのようなメリットがあるのでしょうか。集約することでアクセス集中によるアクセス変動が隠ぺいされ平滑化されるので、集約したWebサイト全体でのリソース設計は、より変動の小さなWebアクセスに対して行うことが可能になります。

これにより、図-3に示すように、それまで個々のWebサイトで保持してきた予備リソースを解放できることに加えて、全体として見積もるべき予備リソース量が少なくなると考えられます。このことから、Webサイトを集約し、それに対してリソース設計を行うことで、Webサイト全体のリソース利用率を向上させることが可能になると考えられます。

▼図-3 Webサイトの集約による予備リソースの減少
201111111700-3.jpg

※人気コンテンツのアクセス変動とアクセスパターンについては本編をご覧下さい。
全文:Internet Infrastructure Review vol.011「クラウドコンピューティングテクノロジー」

文・二宮 恵(株式会社IIJイノベーションインスティテュート技術研究所研究員)

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