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義務教育の「正解主義」を、オセロの如くひっくり返せ

2012.08.16

Updated by WirelessWire News編集部 on August 16, 2012, 17:00 pm JST

「ジグソーパズル型(正解主義)」から「レゴ型(修正主義)」思考法への転換を説く藤原和博氏。「志のネットワーク」で義務教育、ひいては社会に変革をおこそうと行動する藤原氏に、その手法や注目の若手などについて話を聞いた。なお、同氏hは9月7日(金)に開催される"BizCOLLEGE PREMIUM 特別セミナー「イノベーターと学ぶ"新しい仕事術"」(主催:日経BPnet BizCOLLEGE)への登壇を予定している。

[聞き手=スタイル株式会社 竹田 茂]

201208161700-1.jpg藤原和博(ふじはら・かずひろ)
東京学芸大学客員教授、前杉並区立和田中学校長、元リクルート社フェロー。1955年生まれ。1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任。1993年からヨーロッパ駐在、1996年から同社フェロー。2003年4月から杉並区立和田中学校校長に、都内では義務教育初の民間人校長として就任。和田中学校をモデルとした「学校支援地域本部」の全国展開に文部科学省が50億円の予算をとったため、2008年4月からは校長を退職して全国行脚へ。橋下元大阪府知事から教育分野の特別顧問を委託され、08年から11年まで大阪の小中高の活性化と学力アップに力を貸す。全著作、活動は「よのなかnet」(http://www.yononaka.net)に詳しい。

成熟社会でバラバラになった個人をつなげ、再編集するもの

──私が日経BPのインターネット事業を立ち上げた際、リクルートを含めた他の出版社と横断的にネットビジネスの行く末を議論した時期がありました。1994年から2000年頃まで続いたと記憶しています。

いま、そこに匹敵する何らかのキックオフが必要だと思うのですが、当時の「インターネット」に匹敵するわかりやすいものがありません。あえていうなら何かを考えてみると、東日本大震災かなと思うのです。

藤原:そうですね。若い人たちは「つながっていない」ことにおびえています。3.11以降、歌の歌詞に一番出てきた言葉は「絆」。3.11がその意識を加速したと思います。

しかし、その前から日本は成熟社会に入っており、「みんな一緒」という価値観からひとりひとり分断されました。とりわけビジネスの社会は合理的に効率を追いますから、その過程でバラバラになりますよね。

欧米の場合、バラバラになった個人の再編集を、地元の教会を中心にした宗教のネットワークが担います。米国のトップビジネスマンはパーティで名刺を出しビジネスの話なんてしない。地元の教会への寄付、子どもを集めたサマーキャンプといった、宗教的な社会貢献で自分を語ります。

それに対して日本は、残念ながら太平洋戦争の不幸な歴史で、いまさら神道を国教にして次期社会の要にするわけにはいきません。商店街を中心にした地域社会でさえも、産業主義で壊してしまいました。バラバラの個人を再編集するものがないから「つながりがない」ことに怯え、ケータイメールやショートメールが日本で隆盛を極めた。ショートメールのコミュニケーションは単なる独り言の応酬で、本当のコミュニケーションではないでしょう。つながった感覚がなくて浮遊する日本人を、どこで本当につなげるかの話だと思います。

新しい文化は、常に欠落した場所から生まれる

藤原:そういう意味で、いま注目する若手たちが宮城県の石巻とバングラデシュにいます。もっとも貧困が激しい、または大きな欠落が生じている場所。

バングラデシュは、ノーベル平和賞を受賞した経済学者、ムハマド・ユヌス氏がいることが大きいですね。彼に直接会いたい人がたくさんいる。いわば、彼が「再編集」の役割を担っていると思います。そうして集まった人たちは、欠落をどうやって自分が持つ技術や知識で救えるかに熱心になれるのです。

──バングラデシュで「bracNetプロジェクト」を実施している原丈人さん、カッコイイですよね。

藤原:そうですよね。若手では貧困にあえぐ高校生にダッカ大学を受験させた「e-Educationプロジェクト」の税所篤快さん、バングラデシュの人を集めてバッグを作らせブランドと産業を作った「マザーハウス」の山口絵理子さんも。志があり実行力のある大学生や高校生もバンバン行っていますよ。

石巻には、ETIC.の宮城治男さんが、復興をサポートするための「右腕」をかなり送り込んでいます。カタリバ代表理事の今村久美さんも、月の半分は宮城県気仙沼に行って子どもたちの放課後学習をやっている。

いずれにせよ、「自分探し」で行った人は敗退して帰ってきています。いま残っている人たちは面白い、本物。バングラデシュ、石巻、気仙沼周辺で継続して活動している人たちが、5〜10年後に出てきますよ。

僕はこの現象を、石巻とバングラデシュの頭文字をとって「IBリーグ」と呼んでいます。新しい文化はいつも、大きな欠落があるところで生まれるんです。東京では生まれません。

===

オセロの四隅を押さえた教育改革

──藤原さんご自身で学校を作るおつもりはないのですか?

藤原:起業家の方にもそうよく言われるのですが、僕は学校を作ることには興味がありません。教育システム全体を変えなければ意味がない。僕が敵とみなす「正解主義」「前例主義」「事なかれ主義」が三位一体になっている学校文化が、社会全体を覆っているいま、義務教育全体を正解主義からクリティカルシンキングに変える必要があります。

──変革のためには、政治の世界に参入するしかないでしょうか。

藤原:これまでは2つの選択肢がありました。政治家になり権力を行使して法律やルールを変えるのがひとつ。もうひとつは起業家になり金の力で変える。僕は、まったく新しい第3の道を狙っています。「疑わずに突き進む志のネットワークだけで、権力よりも金よりも大きな力になる」可能性です。

──具体的にどんな動きで義務教育全体を変えようとしているのですか。

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藤原:簡単にいうと、全国に約1万校ある公立中学校を変えていく方法です。1万校の中学校を100×100のマスのオセロだとしましょう。現状はほとんど全部の中学校が黒。杉並区立和田中学校をオープンで開かれた学校にすることで、オセロ1個を白くひっくり返しました。

「白」とは、学校を核に地域社会を再生する僕の教育改革手法です。保護者だけでなく地域社会のすべての人たちを教育的な人材として巻き込み、「よのなか科」をはじめとするアクティブ・ラーニング型の授業をやったことです。

しかし、残念ながらそれを真似した学校は2、30校しかなく、よのなか科の先生の研修も数年で200校に届かない程度。点の改革を面にしなければと考えていたときに声をかけてくれたのが、当時大阪府知事だった橋下徹さんです。一番教育改革が起こりにくく、当時全国最下位クラスの成績だった大阪の向上を成功させれば、点が面になるはず。オセロの勝負はここから四隅をとることだと思いました。

ひとつの隅は大阪です。橋下さんと結託して教育委員会に「陰山メソッド」で知られる陰山英男さんを迎え、話を通りやすくしました。それから半年経った翌年の学力調査では、大阪府下の小学生の算数の学力が上がっています。これを3年続ければ中学校でも結果が出ます。これが2つ目の隅。

3つ目の隅は、民間校長を迎えること。全国1万校のうち、3000人を民間校長に代えればあっという間に教育は変わります。大阪は動き始めて、今年の4月に7人、民間校長が入りました。そのうちのひとりは元リクルート社員、もうひとりは吉本興行の元管理部門勤務です。来春に向けて、大阪市は50名の校長を公募します。

大津市のいじめ自殺報道を見ると、数十年前から変わっていません。1986年の中野富士見中学いじめ自殺事件、1994年の愛知・大河内清輝くんいじめ自殺事件と、なぜ、学校と教育委員会は事件から学べないのか。いじめの対応に警察が介入するケースが多くなり、大問題になっている。校長の世界に外部から血を入れて3割ほど教育現場をハイブリッドにし、学校の隠蔽体質を変えましょう。

最後の隅は、地域社会全体をコミュニティスクールとした学校運営。この和田中方式を採用する学校は全国で2500箇所ほどに広がりましたが、5000箇所にはしないと普及とはいえませんね。

──義務教育のあり方を変えることでビジネスも変わる、ということでしょうか。

藤原:はい。現状のままではどこをどういじっても、すべてが対処療法にしかすぎません。義務教育の正解主義をひっくり返さなければ、何も変わらないのです。

──ありがとうございました。

2012年9月7日、8日の2日間にわたってBizCOLLEGE PREMIUM 特別セミナー「イノベーターと学ぶ"新しい仕事術"(主催:日経BPnet BizCOLLEGE)が開催されます。藤原氏は7日、「夢を生み出すものの考え方」で登壇されます。詳細、申込はこちらをご覧ください。

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